映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

2016年度オープンスクール・体験レッスンレポート② 6/29「なじむ」松井周

6月29日(火)、映画と演劇を横断し活躍する俳優養成講座第2回目のオープンスクールが行われました。担当講師は俳優であり、作・演出家でもある松井周さん。今回のテーマは「なじむ」。なじむ、とは一体どういうことなのか?松井さんの講義を少し体験していただきました!

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お芝居は、基本的に他人の言葉をしゃべります。現代口語劇の場合、普段話している言葉に近いので、何気なく発することができるかもしれません。しかし、あくまでそれは脚本家など自分以外の誰かの書いた言葉です。では、自分の言葉であるかのように、なじませるにはどうすればいいのか。普段はどのようにして、言葉になじんでいるのか。
個性や味といったものは、もしかしたら「才能」と呼ばれる、人から教えてもらうことのできないものかもしれません。しかし、「なじむ」ということは、才能とは関係ない技術であると松井さんは話します。普段やっていることを、意識的にどれだけなじませてできるか。俳優は基本的には「なじむ」ことができていれば、技術として通用すると言います。

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言葉と言っても、セリフのことだけではありません。例えば、今この記事を読んでくれているあなたは、どんな環境にいるでしょうか?パソコンの前でしょうか?スマートフォンを持っているのでしょうか?どちらにしろ、画面から出る光を感じているはずです。キーボードやスマートフォンの固くて冷たい感触を感じているかもしれません。そのように、空間には光・温度といった五感で感じる言語が溢れています。脚本にはセリフと動作などを表すト書きが書かれているだけですが、実際はそういったあらゆる言語が訴えかけてくる中で芝居をします。もちろん、設定上の環境と実際に置かれている環境が異なることもあるでしょうから、時には邪魔になることもあるかもしれません。しかし、それらを遮断するのではなく、取り入れることで、その空間になじむ助けになることもあります。

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さて、前置きが長くなりましたが、この日最初に行ったエクササイズは、2人組になって、1人が目を瞑り、もう1人が声のみでスタートからゴールまで誘導するというもの。スタートとゴールの間には椅子をランダムに配置し、それらに当たらないように進まなくてはいけません。これ、昨年の松井さんの講義でも行ったのですが、誘導するのが思った以上に難しい。「ちょっと右」と言っても、人によって「ちょっと」の基準は違います。また、誘導される側は不安でいっぱい。視覚が使えない分、ほかの感覚が敏感になっています。誘導する側は、その不安を解いてあげられるような声がけも大切です。コミュニケーションの難しさを感じさせられるこのエクササイズ。角度などの数値で的確に指示をする人や、優しく呼びかける人など、ペアによって方法も様々でした。
すべてのペアが終わった後、松井さんがこのエクササイズにタイトルをつけるならどうする?とみなさんに問いかけました。「線になるまで」「声ラジコン」などユニークな回答がたくさんあげられます。松井さんは「親子」というタイトルをあげました。タイトルがつくと途端に、先ほどの2人のやり取りに物語が見えてきませんか?ここで何かが起きていて、登場人物が必死でコミュニケーションしている。そこにタイトルをつければ、それでもう演劇だと松井さんは言います。

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次に行ったのは、有名な古典戯曲、アントン・チェーホフの「かもめ」のテキストを、今までの人生で使ったことのある言葉に変換して話す、というもの。国籍も時代も異なるこの戯曲に書かれている言葉は、普段話している言葉とは程遠いものです。それを慣れ親しんだ言葉で話し、与えられた状況を成立させていきます。最初はぎこちなかった長い独白も、相手が相槌を打ったり、言葉を補うことで、友達同士の会話のように見えてくるので不思議です。また、抽象的な表現をどのような言葉に変換するかで、その人の解釈が見えてくるのが興味深かったです。実際の現場でこのようにセリフを変換するわけにはいきませんが、なじんだ言葉でやり取りをした時に動いた感情を、自分から遠い言葉に戻した時にも持っていることができれば、シーンを成立させる助けになるかもしれません。

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松井さんの講義では、今回体験していただいたような「なじむ」ということに加え、受講生それぞれの味や個性を引き出してあるシーンを作るといったことも行います。講義の内容について詳しく知りたい!と思った方は、ぜひ募集ガイダンスにお越し下さいませ~!

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映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座
〜演技を通じた新しいクリエーター創出を目的とする〜
募集ガイダンス7/9(土)14:00〜
受講生出演作品上映会7/9(土)19:00~
映画演出ワークショップ7/17(日)13:00〜 開催決定!
http://www.eigabigakkou.com/course/actors/outline/

 

【講師リレーコラム】あなたのオススメってなんですか? |古澤健[映画監督]

今回は監督として、そして最近では俳優としても活動し、大忙しの日々を送る古澤健さんからメッセージをいただきました!

映画『アナザー Another』や『クローバー』、テレビドラマ『37.5℃の涙』など、監督作をご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか。

今回はそんな古澤さんからの「オススメ映画」についてのお話。
それではどうぞ〜!

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ひとにオススメの映画や本を紹介するのは難しい。あるいは、「あなたのいちばん好きな映画はなんですか?」という質問には途方に暮れてしまう。 
答えられるけどね。 
難しい理由について書いてみようと思う。 

高校生のとき、ロードショーに飽き足らず、いわゆる「名作」と呼ばれる映画も観てみようと思った。でも、この「名作と呼ばれる」というのがクセモノだ。誰がそれを「名作」と呼んでいるのか。本屋や図書館に行くと、映画史上の名作100選みたいなタイトルの本が何冊かある。あるいは「70年代ベスト10」とかそういうの。高校生だから、手持ちのこづかいは少ない。なるべく無駄づかいはしたくない。少ない投資で多くの見返りが欲しい。というわけでそういうガイド本の情報は必要だと思った。 
あるとき、池袋の文芸坐という映画館で『第三の男』がかかっていた。これは当時どのベスト本にもタイトルが上位にあがっていた。名作といえばこれ、みたいな扱い。だったら観るしかない。文芸坐は名画座だから二本立てだ。それも高校生には嬉しい。 
帰り道、すごいすごいと興奮したのは、『第三の男』ではなく、併映の『暗黒街の弾痕』だった。これだって名作中の名作だ。でも、当時僕が目を通していた本ではそのタイトルがあまり見当たらなかった。なんでだろう。 
1 僕が読んでいた本の執筆者・編集者がサボっていた。 
2 その当時の流行りではなかった(古典にも流行りすたりがある、ということを後に知る)。 
3 僕の調査能力が劣っていた。 
この三つの要因が重なっていたのだろう。まあそれでも、いまでも僕は『暗黒街の弾痕』をスゴい映画だと思っていて、そういうスゴい映画と出会えたという意味で結果オーライだ。 

当時こういうこともあった。 
テレビで『雨月物語』が放映されるというので予約録画をして観てみた(いまでは信じられないが、80年代には地上波で溝口やフェリーニタルコフスキーが当たり前のように流れていて、僕はその恩恵にあずかった)。が、どうしても面白いと思えなかった。ヨーロッパで高く評価されている、と聞いても、それはきっと単なる東洋趣味なんだろう、と思った(紋切型のイチャモンですね)。いわゆる「名作」というのは、どうも選んだ連中が自分の教養の高さを披露するためのツールなんじゃないか、と疑ってもみた。その後、大学生になって、銀座の並木座溝口健二特集に行くことになる。今回は完全に「勉強」モードだった(その理由はあとで書く)。つまらなくても頑張って観る!くらいの気持ちだった。が、『近松物語』『夜の女たち』『祇園の姉妹』『赤線地帯』どれもめちゃくちゃ面白いじゃないか! 興奮しっぱなしだった。その後しばらくして『雨月物語』を再見してひっくり返ることになる。 
このときの問題。 
1 出会うタイミング 
2 溝口健二といえばまず『雨月物語』を紹介する怠惰 
このふたつの体験を経て思ったことがある。自分が好きな映画に出会うためには、もったいないとか言っていたらダメなんだ、と。ひとが勧める映画が自分に合うかはわからないのだから、映画の大海に飛び込んでもがき続けるしかないんだ。ガイド本はほとんど役には立たない。 

それとまた別の話。 
高校のとき、現代国語の最初の授業で先生が「あれ、ほら、ラストで犬のウンコ食っちゃう映画……」と思い出せないでいるときに、真っ先に手をあげて「それって『ピンクフラミンゴ』ですよね!」と言った。その先生とは『ゼイリブ』やら松苗あけみの話でも気があった。と、その先生のことを思い出すと、中1のときの塾の先生のことも思い出す。僕に「人肉食っちゃう小説読むか」と『野火』を勧めてくれた。先生なんてろくでもないな、と当時思っていたし、いまも思っているが、そのふたりの先生は僕にとって年上のいい友人だったと思う。 
高校のときの現国の先生にはその後、19世紀のロシア小説は読んどけよ、と言われて、素直に従って、その結果ゴーゴリといい出会い方ができた。 
初めてつきあった女の子はアメリカ文学を専攻していて、彼女の影響でバロウズを読み、挫折して、でも現代アメリカ文学とは出会えた。 
誰がガイドになってくれるかは大事だ。ガイドがいらない、ということでもないんだな。 

最後に。 
なんだかんだ言って、僕は権威に弱い(ここまで読んだら伝わると思うけど)。自分が大好きな『バタリアン』や『悪魔のいけにえ2』や『グレムリン』や『スプラッシュ』のことを堂々と「好きだ!」とずっと言えなかった。大学の映画サークルに入って、先輩たちに「お前、教養がないな」と笑われたのが結構ショックだったから。だから並木座に通ってもみたし、ブレッソンを観てわかったふりをしてみたりした。しばらくロメロやフーパーやクローネンバーグの名前を出すのを控えてしまった。 
でも、自分が同時代で出会ってしまったものこそ自分を作り上げている、ということを実作をするようになって強く感じるようになった。たとえば僕にとっては『家族ゲーム』は映画版ではなくて、長渕剛主演のテレビ版だ(しかも『2』)。 
新しい作品を生み出すときは毎回迷ってしまう。映画とはなんだろう?と本気でわからなくなる。そういうときは、自分の出発点に戻るしかない。 
同時に、自分の視野の狭さにも気づいている。同時代的な感性や、自分の趣味や興味だけでは出会えなかったたくさんの作品と出会ってしまっているから。 
ひとりの人間が一生で観られる映画の本数なんてたかがしれている。みんなで手分けをしなければ、どこにどんな映画があるのかすらわからない。 
あなたのオススメと僕のオススメが違うことで、そこから対話を始めて一緒に世界の広さを感じられたら、と願っている。 

 

古澤健

【修了公演演出家決定!】俳優養成講座募集ガイダンス始まりました

6月18日、俳優養成講座第1回目の募集ガイダンスが行われました!
この日は、俳優講師の近藤強さんから直接、カリキュラムについて説明がありました。
また、飛び入りで同じく俳優講師の山内健司さんが登壇!6月23日から公演している青年団第75回公演『ニッポン・サポート・センター』に出演中の山内さん、本番直前だったにも関わらず駆けつけて下さいました。

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まず、近藤さんから俳優講師それぞれの講義について、実際にどのようなことを行うのか、詳しい説明がありました。俳優としての実感を踏まえた説明で、この講座でどんなことを学んでいくのか、イメージしていただけたのではないでしょうか?

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続いて、フィクション・コースとのコラボレーション実習である映画演技実習(ミニコラボ実習)について。短編映画に出演することで、映画の演技を学ぶ実習なのですが、スタッフはフィクション・コース初等科生、監督はフィクション・コースの講師です。
近藤さんは、この実習が映画美学校の特色を表しているカリキュラムではないかと話します。担当するフィクション・コースの講師は現役の監督であり、一緒に映画を作る仲間になり得るフィクション生と交流することができる。確かに映画を作るコースがある映画美学校ならではの実習かもしれませんね。

 

そして、この日、修了公演を担当する演出家が発表されました。
その演出家とは…リクウズルーム主宰の佐々木透さんです!

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リクウズルームは劇作家・演出家である佐々木さんのソロユニットです。
今年5月に上演された『見えないスンマ』には、修了生の田中孝史さん(第2期修了生)も出演していました。この作品は、劇団という組織・団体の運営と、会計をテーマにした「会計演劇」というリクウズルームの人気シリーズの第2作目。
修了公演ではどんな演劇をみせてくれるのでしょうか?楽しみです!

 

質疑応答では、カリキュラムについてだけではなく、「演劇と映像のお芝居の違いは?」「演出家・監督からのダメ出しに瞬時に対応するには?」など演技についての質問も。 青年団の俳優として活躍し、映像作品への出演経験もある近藤さんは、ひとつひとつ丁寧に回答していました。もちろんこれが正解!という回答があるわけではなく、人や場合によっても様々ですが、講師の考え方を感じ取っていただけたのではないかと思います。

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もしかしたら10年後に俳優を続けている修了生は、1人2人かも知れません。では、何のためにやっているのか?近藤さんは、色んなことに興味を持ち、探求し続ける姿勢を破片でも見つけられる場を作れたらと話します。
また、俳優養成講座では「自分で作れる俳優になる」ということを大切にしています。それは自分から作品を発信していくということもありますが、演技をする上でも言えることです。山内さんからは、人に何かを言われても、「私はこうです」と言えるように、自分で演技を作っていくことが必要だというお話がありました。それと同時に「仲間と作る力」を養って欲しいと言います。俳優は脚本と向かい合っている時は個人作業ですが、実際に演技をする時は、相手役や観客、スタッフと作り上げていきます。半年間、同じ受講生や講師と演技について考えることで、他者とひとつのものを作る難しさと楽しさを体験してください!

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このように、映画美学校の募集ガイダンスでは、カリキュラムの説明だけではなく、実際に講義を担当する講師から実感や考え方が伝わるようお話をさせていただきます。
次回は7/9(土)14:00~です!迷っている方はぜひ一度お越し下さい!お待ちしております。

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映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座
〜演技を通じた新しいクリエーター創出を目的とする〜
募集ガイダンス7/9(土)14:00〜
オープンスクール6/29(水)14:00〜 松井周「なじむ」
映画演出ワークショップ7/17(日)13:00〜 開催決定!
http://www.eigabigakkou.com/course/actors/outline/

修了生トーク(10)高橋隆大×吉岡紗良 その2

こんにちは、広報アシスタントの川島です。

前回に引き続き、高橋隆大さん、吉岡紗良さんのインタビューをお届けします!
今回は、映画美学校時代のお話から、修了後から現在、そして今後についてのお話です。

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お二人とも、今後も出演作はもちろん、俳優の枠を飛び越えて様々な活動を予定しているようです。活躍している先輩の姿、素敵です!!
また、お二人が共演されている映画『SHARING』は池袋・新文芸坐にて7/24(日)〜27(水)レイトショー上映が決定したとのこと!見逃してしまった方は、ぜひ劇場へ足をお運び下さいませ~!

 

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―では映画美学校時代の話を。入ったきっかけはどんなものだったんでしょうか?

 

吉岡:私は大学を卒業した直後に映画美学校に入ったんですけど、大学まで全く演技はやっていなかったんですね。早稲田の演劇学科は座学しかなくて。演劇を観るのが好きだったので、観ることを深めたいという気持ちでいました。
卒業して演技をしたいと思ったときに、青年団が好きだったので、ちょうどその年(2013年)に出来た無隣館を受けようと説明会まで行ったのですが、怖くて願書を出せませんでした。それで、青年団の方が関わっているもうひとつの場所である映画美学校に。

 

高橋:俺は小さい頃に芝居をする機会があって、それは辞めちゃっていたんですけど、でも俺は紗良ちゃんと違って映画を小さい頃に現場で味わったことが忘れられないというか、そういうことがあって。で、映画美学校に入る一年くらい前に卓爾さんのワークショップ(シネマインパクト)を受けたんですよ。それがワークショップを経て映画を撮る・現場を味わえるというものだったから、それで現場を味わって「やっぱり映画の現場、面白いな」というか、芝居というよりは映画の現場という感じだったけど、芝居を勉強して映画に関わりたいなという風に思い直した時に卓爾さんが映画美学校の講師をやっていて「じゃあ卓爾さんを追いかけて行く」と。元から卓爾さんが好きだったから卓爾さんのワークショップを受けに行ったんだけど、卓爾さんから直接芝居の指導が受けられるならいいなと思って映画美学校に入ったんですよ。そしたら思った以上に青年団なんだって。1年目は結構演劇の講義ばっかりだった。「映画が全然ねぇ!」とか思いながら(笑)。でも2年目に映画を撮るんだけど(※当時は高等科まであった)。だからきっかけは卓爾さんなんですよね。
そうだ。実際映画美学校に入ってみて映画に対する感覚とかって変わりました? 2期の頃から映画美学校という名前もあるから映画の方が好きで映画に出たくてみたいな感じで来る人と、演劇の方が好きで演劇やりたくて、青年団という名前で来る人と結構極端に分かれている。それが面白いんだけど、それで何か変わったのかなって。

 

吉岡:前よりも遠い感覚ではなくなったかな、というのはあります。あんまり演劇と映画と全然別物という風には思わなくなった。

 

高橋:当時は初等科・高等科と分かれていたから、1年目から演劇の講義が多くて、ウチの代は演劇の面白さに気付いていく人が結構多かったんですよ。ちょうど2期の初等科が終わるタイミングで無隣館が出来て「映画に興味があって入ったけど演劇って面白い」と無隣館に行った人とかも結構いて、俺はそこが凄く面白いなと思った。別に映画と演劇を比べるとかじゃないんだけど「凄くごった煮なところなんだな、ここは」っていう。入り口は違えど、どっちに振れても面白いなっていう。

 

―結果的にどっちも学べるというところは意外に少ないのかなという気はしますね。

 

高橋:どっちも学べるというか、発想として演劇と映画をもの凄く区別はしていないというか。演劇の面白さを映画に取り入れられるし、映画の面白さも演劇に取り入れられる、というくらいの度量の広さが映画美学校にはあるというか。それまではアクターズ・コース自体がなかったから、それがフィクション・コースとかドキュメンタリー・コースの人とかにも演劇を観ることとか演劇の面白さが映画にもいい影響を与えているし、演劇に興味があった人も映画の面白さを発見出来る、みたいな。
最初、松本正道さん(映画美学校代表理事)が映画美学校のアクターズ・コースを作る時に「昔の撮影所システムみたいにしたい」と言っていて。役者がいてスタッフがいて、そこで色々な映画がドンドン撮れる、みたいな。「役者がいないと呼ぶしかないから、そういうことが出来たらいいね」って言っていて、そういう発想が下地にある。昔は撮影所役者がいたんですよね。だからそういう発想はやっぱり面白いなって。
※撮影所システム:かつての日本映画界は「東宝所属」「大映所属」など、各会社に俳優・監督・脚本・技術スタッフそれぞれが専属として所属していた。現在の撮影現場で使われる呼称「俳優部」「演出部」「撮影部」などは会社の部署の呼び方の名残である。

 

吉岡:区別していない人たちが講師にたくさんいることによって、「区別しない」という点でかなり影響を受けたんだなと今思いました。

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―撮影所みたいにしたいということに関して、今でも各コースの修了生が出入りしているからそれは叶いつつありますよね。修了後、お二人にとって映画美学校はどういう存在になっていますか? 「修了したら完全に終わり」という学校ではない感じがしますが。

 

高橋:俺は今フィクション・コースの高等科にいます。修了制作の監督は出来ないんだけど、初等科は行っていなくてもアクターズ・コースを修了していれば高等科から入れるという制度があるからそれを利用してね。もうちょっと芝居の勉強をしたいんだけど、芝居というよりは映画をもうちょっと学びたい、と。映画の脚本の読み方だったりだとかを学んで、もうちょっと芝居の糧に出来ないかなって思って。

 

―そう思うようになったのは映画美学校でフィクション・コースの人たちと一緒に制作する機会があったからですか?

 

高橋:撮影所システムみたいにやっていきたいって言っても、意外とそんなに上手く回っていないというのが現状だと思うのよ。「月刊 長尾理世」を同期の理世ちゃんが撮っていて、そのスタッフはフィクション・コースの人なんだけど、メンバーは『ゾン~』の撮影に手伝いに来てくれたフィクションコースOBがスタッフのメイン。だから現役のフィクション生と仲間になって撮影出来るというようなことは現状中々出来ていない。現役生だと講義もあって忙しくてそういう風に講義外で遊ぶとか、なかなか時間が取れないというのもあるんだけど。

※『月刊 長尾理世』:アクターズ・コース第二期修了生の長尾理世の自主企画。「月刊で、自分が出演する映画を制作する」という趣旨で行われ、監督・スタッフに各コースの修了生が関わっている。
でも俺もそういう風なのをやりたいなと。俺を役者で使ってもらって、監督やってもらったり脚本書いてもらったりだとかっていうので遊びたいなっていうイメージがあって。それで勉強したいというのもあったから「それなら高等科行っちゃおう」と。高等科に行ったら仲間も出来るし違う見え方も出来るかなと思って行ったのがきっかけで、今はバリバリやっています。

 

吉岡:行って良かったですか?

 

高橋:良かったよ。万田さんの演出の講義もあります。シナリオの読み方は未だに分からないけれど。実際書いてみたりして。今年の12月の映画美学校映画祭でお披露目になると思うけれど、フィクション・コース第18期高等科のコラボ作品の脚本は俺が書きました(西山洋市監督作品『瑠璃道花虹彩絵』)。やっぱり自分の書いた物が映像化されて、実際にそれを試写で観たら色々発見があって。そういう風にもっと、俺がアクターズ・コースからフィクション・コースに来たことでフィクション・コースの人にも面白い影響を与えられるかもしれないし。脚本コースからでも修了生はフィクション・コースの高等科に行けるとか、そういう関わり方があったりするじゃない。アクターズ生も他のコースに行ったりしている人もいるし、芝居を勉強するのとはまた別の方向からアクターズ・コースに来る人もいる。それがもっともっと広がって行けばいいなと思うけれど、まだまだこれからね、とも思ったりする。

 

―ミニコラボはまだなかったんですよね?

 

高橋:俳優育成ワークショップのような形ではなかった。昨年からは現役の映画監督4人が監督をして、それぞれの作品に分かれて俳優育成ワークショップ生全員が必ず出演する形式だったよね。

 

吉岡:ふ〜ん、面白そう。

 

高橋:だから修了公演で舞台を打つっていうのとミニコラボで映画を撮るというのが今のアクターズ・コースの二本柱になっているんだよね、きっと。

 

吉岡:1期2期でもあったと思うんですけど、私たち3期の時は平田オリザさんのワークショップ「オリザゼミ」があって、フィクションの方達と一緒に演劇を作ったんです。

※演劇創作ゼミ(通称:オリザゼミ):受講生が平田オリザの指導の下、全員がチームに分かれて一つの演劇作品を作る講義。受講生は作・演出・出演の全てを行う。本講義はオープン講義となっており、映画美学校の全てのコースの現役生が受講することが出来る。

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私はその時ある舞台に出ていてほぼ参加出来なかったのですが、それに参加していたフィクション・コースの加藤正顕さんが後に自主的に演劇を作ることになり、私も誘われて出演しました。
加藤さんの同期である美谷島(諒)さんと平井(正吾)さんに、アクターズ・コースの女子三人が加わった出演者五人で、東中野RAFTで公演をしたんです。
何とかして一緒に舞台を作り上げようと団結して、とても刺激的な体験でした。
そういう風に他コースと巻き込み、巻き込まれ、ということが起きることもあり、予想のつかないことも多いのでワクワクします。
加藤さん自身も、演劇を作るプロセスに自分がやりたいことのヒントがあるのではという考えがあったようで、映画美学校は、全員ではないにしてもそういう人が現れて来る構造にはなっているのかなと思います。


―垣根がそこまではないのかなっていうのは思いますよね。

 

吉岡:1人2人、垣根を取り払う人が出て来るとみんなを巻き込んで行くところがありますね。

 

―2人は2期と3期ということで期が違いますが、それぞれ「こんな期だったなぁ」みたいなのはありますか? 期の特徴というか。

 

高橋:2期は1期が上にいるんですよ。1期はフロンティア精神があって、それで取り組んでいるんですよ。だから1期は凄く面白いことをやっているし、自分たちで何かを動かしていかなければいけないっていう精神を凄い持ってアクターズ・コースを過ごして修了後もそうやっているから、凄くカッコいい先輩だし、集中した時の団結力が1期は凄く強い。で、3期は逆にゾロゾロと全員個性的な粒がいるなっていう(笑)。それぞれ一人一人が立っている、じゃないけど、みんなでというよりはゴロゴロッといるなっていう感じが修了公演とか観ていた印象ではある。2期はそういう意味ではもの凄く谷間な感じがする。何て言えばいいかな……中途半端なんだよな、2期は(笑)。自分が中にいるからというのももちろんあるけど。

 

吉岡:私は2期だと唐鎌(将仁)さんとお話することが多いんですけど、唐鎌さんは2期の中でも異質な感じがありますよね?

 

高橋:そうそう。異質感のあるやつがゴロゴロっといるかと思ったらふわぁ~んとしたメンバーがいるというか?(笑)そのバランスが変な感じな期だったなって。

 

吉岡:塊で捉えられないところがありますよね。3期もあんまり……まぁ言うとしたら足並みが揃っていないということなんですけど(笑)、よく言えば個性的。

 

高橋:しかも2期の講義は結構アバンギャルドだったっていうのもあるんだよね。1期の試行錯誤から更に試行錯誤を続けていった結果の2期だったんだよね。

 

吉岡:でも毎年が試行錯誤だから(笑)。

 

高橋:そうなんだけど(笑)、2期は特に極端な……演出だったら「わが星」の柴幸男さんが来てくれたりだとか、青年団系の演出家がガッツリきてくれたりだとかしつつ、映画監督は井川(耕一郎)さん、万田さん、西山さんっていう映画美学校のもの凄く個性的なメンバーが演出の講義に来てくれて、一方で塩田明彦さんの演出な観点から見る映画の演技の講義を受けたりだとか、もの凄くごった煮感の強い講義が多かった。高等科に上がってもそういう感じがあって、近藤強さんが「ビュー・ポイント」の講義をやるでしょ?古澤健さんがそれを見て映画の脚本を書くという凄く破天荒な講義をやったりだとか、もの凄く挑戦的なことをやっていた期なのよ。
※ビューポイント:青年団所属の俳優・近藤強が担当する講義で扱われる演技メソッド。 1970年代に振付家のマリー・オーバリーによって考案された即興ダンステクニックをベースに、アメリカ人演出家・アン・ボガートが俳優・パフォーマー・演出家向けに発展させた俳優訓練法。
(参考:http://www3.center-mie.or.jp/center/bunka/event_c/2012/0107.html)
それで修了制作が『ゾン~』だったりするんだけど。そういう意味では捉え所のないというか。1期は最初からフロンティアだったんだけど、2期で更にアバンギャルドな方向に走るみたいな(笑)。

 

吉岡:基本姿勢がアバンギャルドですよね。守らない。

 

―今後の活動について、お聞きしたいと思います。『ゾン〜』は完成しているんですか?

 

高橋:そうです。作品としては完成しているのでこれから着々と準備を進めていって、最終的に公開まで。撮影時期は『SHARING』と同じだからかれこれ2年。結構経っているよ。最終完成版はどこかで公開することになると思います。

 

―制作の思い出は?

 

高橋:修了制作で、長編で、卓爾さんが監督で、脚本が古澤さん。そもそも予算的にも全部長編に出来るかどうか難しいっていう制約があって、ドキュメンタリーを撮って、リハーサルとかも撮って、で、本編でフィクション部分を撮って、それを混ぜ合わせる形で出来たらいいねっていうのがはじめだったんですけど、結局合宿で撮影5日間だったんですけど「全部フィクション・パートを撮り切ろう!」みたいなスケジュールになった(笑)。どこを撮るか撮らないかという難しい判断になっちゃうから、結局全部撮り切って、リハとかも混ぜ込んで、本読みをしているシーンとかもあるんだけど、それをもの凄い熱量で完成させたというか。本来撮れるようなスケジュールじゃないんだけど、5日間の合宿であるということをいいことに朝からてっぺん(夜の12時)までっていうことを毎日やりながら撮影しましたね。結構ハードだったけど面白かったです。やっぱり古澤さんが脚本で卓爾さんが撮るということ自体がまず面白かった。

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ゾンという壁が出来ちゃってそこから出られない人々の話なんですけど、そこにいる男の子と仲の良い女の子がいて、ゾンの範囲から出たがったりっていう葛藤があったりという映画で、やっぱりそれがちょうど修了する時だったから「映画美学校を離れたらどうなるんだろう、でも出なきゃいけないし」という自分の状況を重ねたりしていて。だから凄く思い入れの強い作品ですね。卓爾さんを追いかけてこの学校に入ったというのもあるし、悔しい思い出もありつつ。もっと出来たという部分もあるし、蓋を開けてみれば演出に応えられなかった部分とか一杯あるんですよ。でもあれがあの時の精一杯だったと思って頑張っていこう、と。

 

―深田(晃司)さんの作品にも出演されると伺ったのですが?

 

高橋:それが『ゾン~』のB面としてのドキュメンタリー・パートを深田さんが撮るという企画で、現在進行形で動いてはいます。それは『ゾン~』を撮った後に出演者みんながインタビューを受けて、俳優としての生い立ちとか、多くのカメラの前で負荷のかかる状況で聞いたものがあって。それを『ゾン~』本編にも絡めたりしてドキュメンタリー・パートを作るという企画もあったんだけど、もっと個人個人の俳優に絞った形で深田さんは編集して、それが今絶賛制作中です。後は西山さんとフィクション・コース第18期のコラボ作品『瑠璃道花虹彩絵』は脚本を書いています。年末の映画美学校映画祭で多分お披露目になると思うので観に来て頂けたら。

 

吉岡:私は初めて「鳥公園」という劇団に出演します。9月に東京公演、10月8日・9日に瀬戸内芸術祭のプログラムとして豊島で野外公演をします。

 

「Q」に入ったのは映画美学校に入る前ですか?

 

吉岡:ほぼ同じくらいです。映画美学校に入ったのが5月、翌6月にオーディションを受けて。その時は入ったというよりも9月と11月の公演の出演が決まったというものだったのですが。その一年半後くらいにメンバーという形になりました。
Qとしては、8月13日に、岐阜県美濃市にあるエムエム・ブックスさんで公演をします。
あと、劇団と関わりなく私個人で、長野県伊那市の信州高遠美術館で行われる『高遠KONJYAKU STORY展』(7月30日~9月11日)に参加します。
高遠に伝わる民話から着想した展示とパフォーマンスを制作中です。初めての作・演出・出演になります。
また、7月から「週刊金曜日」という雑誌で書評委員を務めることになりました。これまでも何本か映画評を書いてはいるのですが。

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観たり読んだりしてきたものと、経験してきたこととのバランスがだんだん取れつつあるのかなと感じます。
評では、映画や本といった既存のものについて語るわけですけど、不思議と、脚本に沿って演技するときにも増して「自分で表現している」という感覚があって。
だから、「演劇も映画も区別しない」という話とも繋がるのですが、人から必要とされ、また自分で自分を肯定することが出来れば、表現はどんな形でもありうるんだなと思っています。

 

―隆大さんは映写技師ということですが、かなり前からやられているんですか?

 

高橋:うん。大学時代にシネコンの映写技師をやっていて、デジタルに移行しちゃったからフィルムを触る気はなかったんだけど、そんな話を映画美学校の人にしていたら「上で働いたら?」って言われて。当時オーディトリウム渋谷が映画美学校の入っているKINOHAUSというビルの2階にあって、そこにこの間映画B学校対談させてもらった千浦僚さんがいて、そこで週1~2日で働かせてもらっていて。それがきっかけで、そのオーディトリウム渋谷が無くなる時に映写機が横浜シネマリンにいくことになったからそのままシネマリンでも映写させてもらったりだとか、一回神保町シアターで本当に人が足りなかった時があってそれでそこでもフィルムを触らせてもらったりだとか。まぁ映写の世間は狭いからね。横浜シネマリンで絶賛『SHARING』が上映中です(笑)

 

―自分が出ている作品を映写するのは感慨深いですね。

 

高橋:そうだね。でもオーディトリウム渋谷時代に卓爾さんの『ポッポー町の人々』を映写したりもしているからそういう経験がなくはないんだけど、嬉しいもんですよね。

 

―じゃあこれから俳優養成講座に入ろうと思っている皆さまにメッセージを。

 

吉岡:何もいいこと言えないなぁ……。楽しければ何でもいいと思います。ダメですね、そんなこと言ってちゃ(笑)。でも何でもいいんだなという気持ちは強いです。
実は明日オーディションがあって、それが怖過ぎて、この数日間「もう怖い、逃げようかな」みたいな気持ちに支配されていたのですが、つい昨日「なんでもいいや」という気持ちになりました。
やっぱり楽しいことが大事だと思います。
講師の方からも色々教えてもらうわけだから、当然それぞれに色々な尺度があると思うのですが、結局は自分が楽しいと思えることが自分の正解だと思うので、もらうものを吸収して利用して、自分だけの楽しさを組み立てていけたら素敵だと思います。

 

高橋:役者になりたいとか、芝居を勉強したいだとか思って来てくれる人もいるだろうし、色々きっかけはあると思うんだけど、入ってから更に色々なきっかけとか、自分の中で見つけられることがあるんじゃないかなと思うんですよ。「なんで自分は芝居をやりたかったんだろう」だとか、俺はそういうことをここに入ってから余計に考えさせられて「芝居って面白いな」って思えたりだとか「映画のこと、なんで好きなんだろう?」「演劇分かんないなぁ」とか発見があったし面白かったから、入るきっかけは大事にしてもらって、踏み込んでみたら更に色々な発見というかきっかけに出会ったら、そこを紗良ちゃんが言うように楽しんでもらえたら凄く良い時間になると思うから……是非お・い・で(笑)。来て下さい。皆さんどうぞお越しやす。

 

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高橋隆大さん、吉岡紗良さん、ありがとうございました!

 

【講師リレーコラム】好きなことってなんですか?|松井周[演出家・俳優/サンプル主宰]

今回の担当講師は俳優であり、作・演出家であり、劇団「サンプル」の主宰でもある松井周さん!

「好きなことを仕事にする」なんてよく言いますが、そもそも「好き」ってなんだろう?
自分でもよくわからないけど、確かに何かを感じるこころ。
そんなわけのわからないものと向き合ってみることは、俳優に限らず、見える景色を少し鮮やかにする行為だと思います。

6/29(火)14:00〜は松井さんの講義を体験できるオープンスクールがあります。
迷っている方は、ぜひ一度お越しください〜!
http://www.eigabigakkou.com/course/actors/outline/

 

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好きなことを書きます。俳優養成講座を受講するかもしれない方に対して「好きなこと」って一体なんだろう?ということについて書きたいと思います。

僕は、自分の将来の道を迷っている人に対して「好きなことを誰になんと言われても続けるべきだ」的なことは言えないです。別に「現実は厳しい」とか「世の中そんなに甘くない」という意味ではありません。僕は「そもそも自分の好きなことってなに?」と思う気持ちが強いからです。そんなことをとことんわかっている人なんて、そんなにいないんじゃないかと思います。というか、本当に好きなことって人前で堂々と言えるものなのかな?という疑いがあります。

例えば以前、人の血を見るのが大好きな人に会ったことがあります。血糊をたっぷり使った芝居に出演した僕を「最高でした!」と満面の笑顔で迎えてくれたその人は、血だらけの人を見るとどうしょうもなく興奮するらしく、自分が怪我した場合もすぐに写真に撮ると熱弁し、大いに周囲を引かせていました。

彼は非常に客観的で自分の欲望をうまくコントロールしているようでしたが、もっとネガティブな殺人とか暴力とか反社会的な欲望を持っている人は、好きなことを隠して、飼いならして生きるしかないだろうと思います。つまり、好きなことって、そう人に自慢したりするものじゃなくて、こっそり育てるものだし、どこかで代理の欲望で満足させるものだろうと思いながら、僕は生きてきました。

僕は作・演出家と俳優を兼ねて活動していますが(欲張り!)が、演技や演出が好きというのもなんか違う気がするのです。もちろん対外的にはそのように説明します。でも、欲望の核心部分ではないです。ただ、「ウソ」が好きとは言えそうです。フィクションとか物語とか妄想とか大きな話の前に、単に「ウソ」が好きなんだと思います。電話してるふりとか、男なのに実は母乳が出るという噂とか、人前でちょっとだけ偉そうに振る舞うとか、無能のふりするとか、双子の死んだ兄の偽の形見とか偽の遺跡とか学歴詐称とかプチ整形とか、つい盛ってしまうような人の習性が好きです。そういう小さなウソの集積は物語以前であり、個性以前の賜物です。そんな物語の芽たちに囲まれていると思うと、肩の力が抜けるような、笑ってしまうような気持ちになります。そこには無意識の「好きなこと」が溢れているように思うのです。「大人になってよくもまあしょうもない!」という愛しさを感じます。

逆に、「ホント」を押し付けてくる人やムードが苦手です。「ホント=絶対」という価値観には警戒してしまいます。そこを問い詰めて面白いのかなと。いや、「ホント」という共通認識がなければ他者との共同生活なんてできないわけですが、「おそらく」をつけるぐらいでちょうどいい感じです。

似た言葉に「生理的に嫌い/好き」という言葉があります。僕はこの言葉に「ホント」と似たような軽薄さを感じます。だって、自分の生理なんて信じられないところないですか?虫を食べるとか人に暴力を振るうとかくらいの行為は、外からのプレッシャーによって簡単に引き起こされてしまうのではないでしょうか?例えば戦争という非日常状態ならば。そのくらいのレベルの「生理」は思い込みに近いと思います。

で、何が言いたいかというと、俳優養成講座に参加する方々が、もしこれからフィクションの世界に関わるなら「ウソ」と「ホント」の境い目を軽々と行き来してほしいなあということです。「調和を目指す」⇔「引きずりおろす」とか「きずなを深めたい」⇔「支配したい」という「⇔」の両側の動詞は、厳密にどう思ってるのかは本人にすらわからないことも多いと思います。つまり、ウソかホントかわからない。俳優養成講座に参加する方々と一緒に、そんな矛盾した欲望を抱えて存在している人間という不思議な生物の価値について一緒に考えてみたいです。そのうえでたずねます。

好きなことって何ですか?

(松井周)

修了生トーク(10)高橋隆大×吉岡紗良 その1

こんにちは、広報アシスタントの川島です。

今回のゲストはアクターズ・コース2期修了生の高橋隆大さんと3期修了生の吉岡紗良さんです!

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 篠崎誠監督の映画『SHARING』で共演されているお二人。

こちらの作品にはアクターズ・コース講師である鈴木卓爾さん、兵藤公美さんも出演されています。

『SHARING』は本日17日まで、横浜シネマリンで上映中!今後も全国で公開を予定しているそうです。インタビューでは出演の裏側も語ってくれていますので、ぜひ映画もあわせてご覧下さい!

それでは、インタビューをどうぞ〜!

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―現在公開中の『SHARING』(監督:篠崎誠)に出演されているということもあって、お二人をお呼び致しました。現在6月4日(土)から17日(金)まで横浜シネマリンで公開中ですね。その後公開予定ってお決まりですか?

 

高橋隆大(以下高橋):まだ日程も出ていないしオープンな情報かは分からないので詳細は言えませんが、全国を回る予定があります。もう既に広島の横川シネマと松本シネマではやらせてもらっているんだけど、そこから続々と。

 

―これから広がっていくと。ちなみにこちらの作品に出演されたきっかけはオーディションですか?

 

吉岡紗良(以下吉岡):私は隆大さんに紹介してもらって。

 

―じゃあ隆大さんは?

 

高橋:『SHARING』に参加したきっかけ自体は、監督の篠崎さんが、脚本がまだ出来上がるか出来上がらないかくらいの段階の時に俺が演じた「さまよう男」という役を出すかどうか、その構想自体はあったんだけど実際に必要なのかどうか撮れるのかどうかというのが分からなくて「ちょっと高橋くん、テスト撮影付き合ってよ」という一言があってテスト撮影に参加したんですよ。まだ脚本が全くない段階で「ちょっと歩いてみて」とかあるシーンをちょっと撮ってみたりだとかというのを何回かやって、それでそのまま「じゃあやっぱり構想の中に入れ込みたい」っていう風に確信を持ってもらえたみたいで、それでオファーというか「ホンが出来たから読んでよ」みたいな形で呼んでもらって。

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で、この役が、紗良ちゃんが演じている女の子に出会うっていう終盤のシーンがあるんだけど、たしか「誰かいない? 高橋くんくらいの年齢でアクターズ・コースで面白い子」って言われて(笑)。同年代で長尾理世ちゃんとかアクターズ・コースの他の子もいるんだけど、ホンを読んでいた段階でイメージが違うなっていうのがあって。誰がいいだろうと思っていたら、3期の修了公演の稽古とかもちょっとだけ見に行ったりだとかしていて吉岡紗良ちゃん知っていたんで「あ、紗良ちゃんは同い年くらいか」という感じで「吉岡紗良ちゃんどうですか?」と篠崎さんに言って。「じゃあ連絡入れてみます」みたいな感じで紗良ちゃんに決まったという流れですね。

 

吉岡:そうですね。だから私は結構後から、外からぴょっと参加したというか。そういう感じなのであんまり隆大さんみたいに最初の作っていく段階のことは知らずに、「いいんすか?」みたいな感じで参加しました。

 

―逆に他の皆さんはそういう脚本を作る段階から参加されている方ばかり?

 

高橋:脚本に入る前に参加した人もいるし、脚本決まってからオーディションとかで決まった人もいるのかな。でも篠崎さん自身がアクターズ・コース自体を結構面白がってくれていて。最近だと篠崎さんも忙しかったから顔出せていないかもしれないんですけど……3期もそんなに篠崎さん、見てないか。

 

吉岡:でも発表会みたいなものは割と見にいらしていて。あと劇中、兵藤公美さんが稽古するシーンがあるじゃないですか。今から思うとあれの取材だったと思うんですけど、私たち3期が兵藤さんの講義を受けているところに篠崎さんが見学にいらしていたこともありました。

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高橋:だから結構講義見学とかにも来てくれたり。俺らとか一つ上の1期とかの世代の時は俳優をゲストに呼ぶ講義とかがあったんですよ。3期はなかったかな?

 

吉岡:ないと思います。

 

高橋:俺らの時は村上淳さんが来たりだとか、メルヴィル・プポーが日本に来た時に講師をしてもらうだとか、俳優を呼んで話を聞くという講義があったんですよ。その時に篠崎さんが司会進行・聞き手をしてくれた。それ以外にも見学とかにも来てくれて面白がってくれていたというところで、アクターズ・コースでは俺とか紗良ちゃんを使ってくれた。きっかけとしてはそういうところがあったのかな。講義自体は担当していないんですけどね。

 

吉岡:本当に興味を持ってくれていたという感じですね。

 

高橋:元々映画美学校のフィクション・コースで講師をやっていた人だし、俳優のことを凄く考えている監督だからね。

 

―隆大さんも篠崎さんと初めて会ったのは映画美学校ですか?

 

高橋:映画美学校アクターズ・コースに入ってからです。

 

―その「さまよう男」という役は最初から隆大さんのイメージだったからテスト撮影をお願いしたんですかね?

 

高橋:いや、俺のイメージだったというよりは、本当は山田キヌヲさんが演じた歳の離れた教師役と学生の女の子の話だけで考えていたんだけど、それだと「凄く収まり過ぎてしまう気がした」という話をしていて。それで「さまよう男」みたいなドッペルゲンガー的な、凄く浮いてしまうかもしれないけれどそういう役を物語に入れてみたいという構想が最初にあったみたいで。でもどこまで映画の中で収まるのかなぁというのが実感として分からなかったみたいで、それでテスト撮影ということで、俺だからとかじゃないんだろうけど、そういう構想の中でイメージに近かったのか分からないけれど呼んでもらって参加したという感じ、だったのかな。

 

吉岡:元々仲は良かったんですか?

 

高橋:仲は良かったって(笑)。

 

吉岡:お話しすることが結構多かったのかなって(笑)。

 

高橋:篠崎さんも元々アテネ・フランセ文化センターの映写技師をやっていたんですよ。シネセゾンとかで映写技師として、映画館の裏方として映画に関わっていて、そこから映画監督という風に業界に入っていった人だから。結構います、映写技師やっていて映画監督になった人。井土紀州さんとかもそうなんだけど、アテネ・フランセの映写技師から監督になっている人が結構多かったりだとか。そういうこともあって、俺も映写技師をオーディトリウム渋谷とかでずっとやっていたからそういう話とかもしたりだとかね。
後はね、俺らの代の時にジョン・カサヴェテスのレトロスペクティブの上映があったんだよ。『ラブ・ストリームス』とか『オープニング・ナイト』とかっていう映画が確かリバイバル上映されていて、篠崎さんはカサヴェテスが凄く好きなので、俺も観に行ってそこでカサヴェテスの話とかをして。『ミニー&モスコウィッツ』っていう当時DVDにもなっていない映画を篠崎さんに借りて観させてもらったりだとか、そういう風な関わりは篠崎さんとはありました。お世話になっていたよね。

 

―じゃあお仕事をしたのはこれが初めて?

 

高橋:はじめて。

 

―あまり語られない役というか、謎の多い役でもあったじゃないですか。その辺は篠崎監督からどのくらい指示があったのですか?

 

吉岡:おそらく大学の学生ではあって、キャンパス内にいるけれどどうやら授業には出ていない。大学という場所に、どこか居場所のなさを感じている二人なのでは、というお話はありましたよね。私が初め屋上にいて隆大さんと目が合うシーンでは、「双子の片割れを見つけたような感じ」と監督が仰っていたのは凄く覚えていて。「一目見ただけで、何か繋がった存在だということがバッチリ分かってしまった」というようなお話をされていました。

 

―幻想的なシーンだったので、この世の人間なのかも分からないように私には見えました。

 

吉岡:撮影している時は学生だと思ってのぞんでいたんですけど、私も試写で全体を俯瞰して観た時に、隆大さんも私もどちらもですが、「人間ではない何か」のように見えたというのはありました。

 

高橋:最初にテスト撮影として現場に呼んでもらって、まだ一切シナリオをもらっていない状態で歩いてみたりだとかしていたんですけど、それが結局爆弾とかっていうことになるんだけど、何かを抱えた男の子なんだっていうことから篠崎さんは震災について話したりだとか「今度こういう話を書いているんだ」とかっていう、具体的な役の話というか色々なことを篠崎さんとまず話したんですよ。例えば俺が今抱えている問題とか、ドッペルゲンガーについてどう思うとか、そういう他愛もないことからずっと話していて、蓋を開けてみたらああいう役どころだったんだけど。だから篠崎さんからはそんなに具体的に役を固められたっていう感じではなくて、凄く任せられていた感じはあったんだけど、でもそういうことを話していた中にヒントを自分の中で見つけていくみたいな作業をしましたね。

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 でも一つだけ言われたキーワードがあって、「溺れている」って言われたんですよ。寝ていて起き上がって、それで紗良ちゃんを見て、それでまた歩いて行くっていうシーンがあるんだけど、そこがテスト撮影で一番最初に撮ったシーン。溺れているところから起き上がって、向かって行くっていうのを芯というか、大事なものとしてあの動きとかシーンを大事にしていたのはあって。あの役は色々考えすぎてしまって、「どうしよう!?」と思って。でももの凄く不謹慎な言い方をしちゃうと、人間じゃない何かみたいな話が紗良ちゃんからもあったんだけど、例えば地震が起きたら不謹慎に盛り上がったりだとか、テロとか起きたら何かざわつくみたいな、面白がっちゃう人が一方にいたりだとか、そういう不謹慎さみたいなのはどこかで人間が抱えている何か、みたいなそういうものがあって、それは絶対に俺にもあるし、やっぱり震災って綺麗事ばかり並べられちゃっているけど、それだけじゃない何かも一方であるわけじゃない? そういうものが渦巻いたものとして、何か彼自身が心にも抱えるのかなって。それが大きな枠としてだけど、もっとそれは彼自身が単純に行き場がないとか、学生で居場所がないとか、そういう細かなものとは別にそんなものを抱えているのかなぁというイメージ。それが「溺れる」に繋げていけるのかなっていう風に考えてはいたんですよ。

 

吉岡:それは不謹慎さへの罪悪感みたいなこととは違うんですか?

 

高橋:罪悪感もそうだし、罪悪感だけじゃなくて、一方で楽しんじゃうような人もいるわけで、楽しむことすらも全部が間違っていると思っているわけじゃなくて。根本的には罪悪感になるのかな。何て言ったらいいかな……

 

吉岡:綺麗ですっと通ったところからははみ出している、みたいな。 高橋:そうそう。怒りとかじゃないけどね、楽しんでいることに対する罪悪感もあるし怒りでもあるし。でもそれって戒めるわけでもなく、あるなぁって思うわけよ。

 

吉岡:それが普通ですよね。

 

高橋:それが抱えちゃっているものとしてやっぱりあるなぁっていうか、野次馬根性じゃないけどさ、野次馬するつもりじゃなくてもしちゃうみたいな。そういう無意識みたいなものもあるし、そういうところに向き合うみたいな形でぶつかって行くみたいなイメージ。兵藤さんが劇中でもおっしゃっている「イメージを持って」、そういうのを掴もうとしていたのはあるのかな。

 

―『SHARING』自体が3.11以降の人々を描いたという作品で、公開も3.11から結構日が経っているじゃないですか。隆大さんが演じられていた役が、ドッペルゲンガーが見えるようになったのは、やっぱり震災がきっかけではあるんですかね?3.11の震災があって、それに影響を受けた人ではあるというか、そういった時の不謹慎叩きみたいなものに共感してしまう自分が生み出したというか。

 

高橋:篠崎さん地震がどういう風に考えていたのかは分からないところはあるんだけどね。でも3.11があってからっていうのは、ホンもホンだから凄く考えなきゃいけないなっていう風には。でも俺自身はそんなに、見て見ぬふりじゃないけど、あんまり震災をがっつり扱った映画とかってそんなに好きじゃなかったりとかして。Twitterとかで震災があった日にちょうど時間通りに何か「黙祷」とかってみんな呟いたりするじゃん。で、しない人が悪いかっていったらそうじゃないじゃん。けど、している人が偉いわけでもじゃないじゃん、っていうような。

 

吉岡:ここ(手元)で「黙祷」と打つことに何の意味が、とも思いますよね。

 

高橋:そうそう。そういうこととか俺も感じていたし、Twitterで震災について呟いて満足している部分があるんじゃない?とかって思っちゃう部分もあるわけよ。それは自己満足じゃないの?とか思う部分もあるし、それでも呟くことに意味はあると思いつつ、そういうところに欺瞞みたいなものは感じていたから、そこは篠崎さんともそういう話をしていたりしていて、そこから膨らませていくみたいなことがあったのかなとは思うけどね。そんな話だったっけ、今の質問(笑)。

 

―劇中で薫(樋井明日香)が3.11を題材にした演劇をやっていて、結構精神的にダメージを受けてしまったりするじゃないですか。実際に重いテーマを扱っている作品に参加すると精神的に辛い部分もあるのかなと思うんですけど、その辺はいかがでしたか?

 

吉岡:この作品には一日しか参加していないのですが、私は正直なところどの作品に関わる時にも、作品のテーマに日常生活が引っ張られることはあまりない気がします。まだ少ない経験の中ですけど。その稽古だったりリハーサル、本番の撮影とかっていうときはもの凄く……瞬間的にはエネルギーは使って、呼吸を忘れていたりするんですけど、日常的に引っ張られるっていうことは経験したことがないです。

 

―そういうオン/オフの切り替えスイッチみたいななものがあったりしますか?

 

吉岡:凄い……まるで俳優みたい……

 

―いやいや、俳優じゃないですか(笑)

 

吉岡:でも、今年の3月に早稲田小劇場どらま館で80分の一人芝居をするという機会がありまして、篠崎さんも観に来て下さったんですけど、それは本当に「これからスイッチを切る!今から何も考えない!」ってやらないと死ぬ、という感じの日々だった(笑)。

 

―お芝居する時にそういう状態にするっていうことですか?

 

吉岡:いえ、いわゆるオフにしたいという時に「今から考えないぞ!」と。私は眉間に皺を寄せてしまう癖があるので、眉間をほどくみたいな感じの暗示をかけて。「考えない考えない」と命がけでやっていました。

 

―それは意識的にあまり引きずられないように、と。

 

吉岡:そうですね。息をするのを忘れるっていうのも癖なので、とにかく息を吐くことと眉間を広げることを心がけていました。

 

高橋:鈴木卓爾さんの「俳優の技術」っていう講義は受けた? 

 

―「俳優の権利と危機管理」ですかね。

 

吉岡:最初に受けました。

 

高橋:あの話だよねって思えますかね。身を守るというか立脚点を作る、じゃないけど、芸術家じゃないけどさ、俳優の仕事ってプライベートのオフがつけにくいじゃないのかと思うのよ。サラリーマンだったら「平日働いて土日はオフ」みたいにはっきりとした切り替えがあるけど、何もしていない時でも「今も俳優修行だ!」みたいな言われ方をされがちというか。芸術家とかでも何でもそう。何にでも何処にでも芸術の種を広げているみたいな、オフがないなっていう発想ってやっぱりあると思うんだけど、別段何かをしているわけではないけどオフはオフで切り替えている感じはあるかなぁ。

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吉岡:卓爾さんはどんな話をされていたんでしたっけ?

 

高橋:卓爾さんは、結構ヤバい役をやられていて。殺人鬼とか血まみれのシャワールームにいたりとか。そういう時にさっき紗良ちゃんが話したように引っ張られないように「なんでこの仕事をするのか」「なんでこの役をするのか」みたいな、その役に対する立脚点という言い方を卓爾さんはしていたんだけど、「立脚点をちゃんと自分の中でしっかり持っておかないと引っ張られちゃうよ」と言っていた。 でも『SHARING』もそうなんだけど、多少引っ張られたいみたいなところもあるじゃない。分かる?

 

吉岡:引っ張られている自分、ステキ、みたいな?

 

高橋:例えば『ゾンからのメッセージ』とかでも劇中に出て来る「ゾン」という謎の壁というか囲いがあって、その「壁を越える」というのをアクターズ・コース修了前とこれから、という風に自分に当てはめるみたいな作業を結構したんだよね。
※『ゾンからのメッセージ』(以下『ゾン~』):アクターズ・コース
第2期高等科修了制作作品(鈴木卓爾監督作品)
戻って来られるような状態で、もうちょっと踏み込みたい時とかは、引っ張られるというのと同時に、自分に当てはめるじゃないけど「自分のドッペルゲンガー、なんで分身しちゃうんだろう」だとかそういうことを、自分の今の気持ちとか感覚とか自分がこの芝居で確かめたいことを作っておく、みたいな。そういう感じでやって「あ~確かめられなかった!」「分かんねぇな」とかって思うんだけど、そういう風にのめり込むというよりはもう一個自分の中で何かを持っておくっていう感覚。

 

―その「役である自分」と「役をやる自分」みたいな。

 

高橋:そう。何かを作っておいて、どっちにいっても振り返られるみたいな、もう一枚作っておくみたいな感じはあるのかな。凄く抽象的な話だね(笑)。

 

吉岡:でもそれはないと危険な感じがしますね。

 

高橋:そう。それは卓爾さんにしたら立脚点だし、そういう風に自分がこの芝居をやる、この役をやるということを少し俯瞰するポイント、みたいな。でも引きずられたいみたいな人もいるしね、分かんない。本当に入り込んじゃう人もいるよね。

 

鈴木卓爾さんの名前が出ましたが、『SHARING』では鈴木卓爾さん、兵藤公美さんと共演という形になるわけで……

 

高橋:共演と言えるのか。一緒にお芝居ができたわけではないですから。紗良ちゃんも会ってないよね?

 

吉岡:会ってないですね。

 

―でも外部の作品でそういうことがあると凄く感慨深いというか。

 

吉岡:そうですね。静かな感動があります。

 

―受講生と講師という立場から、同じ役者同士という……

 

高橋:そう思えないけどね(笑)。並んでいる、というだけで。

 

吉岡:あの場合だととても並列だとは私は考えられないですけど、ちょっとした嬉しさはありますね。

 

高橋:でも安心感はあったよね。兵藤さんが出ているとか卓爾さんが出ているだとか、それを聞くだけで単純に安心感があったっていうか。

 

―ご本人達とそういう話、しましたか? 『SHARING』についてとか。

 

高橋:俺は卓爾さんにダメ出しをいっぱい受けたけど(笑)。

 

吉岡:どんなダメ出しなんですかね、あれに関して(笑)。

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高橋:具体的なことじゃないんだけど「まだまだ行けると思うんだけどなぁ」みたいな感じのことを言われたりだとか(笑)。 

 

―それは褒め言葉じゃないですか。

 

吉岡:「気にしているよ」ということですね。

 

―吉岡さんはどうでしたか? 元々知り合いの隆大さんとかなり絡む役でしたが、改めて外部でお仕事するというのはいかがでしたか?

 

高橋:かなり絡むってほどではないけどね。ポイントでがっつりっという感じではあるけど。

 

吉岡:というかむしろ私は隆大さんしか絡んでいない(笑)。

 

高橋:でもあの役的にはほとんど人と接触しない役だったんですよね。だから役的に割と息が詰まって来るというか。寂しいなと思って(笑)。だからそういうのも「紗良ちゃん見つけた」っていうのを彼の気持ちに乗せていくみたいなことはしたんだけど。

 

―撮影現場自体はどうでした? 篠崎さんの現場ってどういう雰囲気なんでしょうか?

 

高橋:でも一日じゃそんなにはっきり分からないよね?

 

吉岡:そうですねぇ……落ち着いた、みんな粛々と歩んでいるっていう印象がありましたけど。

 

高橋:俺も一人の芝居ばかりだから他の芝居のシーンも見学させてもらったりしたんだけど、結構のびのびと、というかじっくり芝居見てくれているんだなぁっていうのは感じたかな。篠崎さんの演出的なイメージだとかこう動いて欲しいみたいなのもありつつも「高橋、今何考えている?」だとか「今どう思った?」だとか、そういうちょっとしたことを聞いてくれたりだとか、その時出て来たものをしっかり受け止めようみたいな、そこの安心感じゃないけどそういう風には感じたし、それは山田キヌヲさんも言っていた。

 

吉岡:凄くコミュニケーションを丁寧に、大事に取る方ですよね。

 

高橋:だからその前にもずっと話していたりしていた時からもう演出が始まっているんだろうし。だから凄くコミュニケーションをしっかり取っていましたね。役柄的に芝居しやすい役ではなかったからあれなんだけど(笑)、芝居しやすいという言い方もあれなんだけど、好きにやらせてもらえたというか。そういう感じはしたかな。具体的に演出の話を聞かれたら分からない時、あるよね。「どんな演出つけているんですか?」と聞かれて、意外と分からない時、ない? 万田邦敏さんの演出受けたことないか。

 

吉岡:ないです。

 

―万田さんはどんな演出をつけられるんですか?

 

高橋:卓爾さんと万田さんはそれぞれ両極という感じなんだけど、卓爾さんは出てくるものを全部受け止めて「じゃあ全部レール引こう」みたいな。それが最終的に終着するみたいな感じなんだけど、万田さんは出て来たものを「万田さんの考える映画の芝居として一本のレールを見つけていく」みたいな感じなんですよ。

 

―最初に芝居したのを見て「じゃあこのレールで行きましょう」みたいな。

 

高橋:うん。「その動き面白いね」とか。「一回大きく動いて」ってまず最初にやって「じゃあこの動きってどうなの? じゃあその動き、もう一回やってみようか」「もっと違うの、ない?」と引き出しながら最終的にきっちりつめていくみたいな。卓爾さんとかはとにかく自由にやらせたところをしゅわーって広げて全部受け止めるみたいな(笑)そうやってレールを広げ過ぎた結果、最後が大変なことになるっていう。だからこそ最終的なエモーションがあるのだろうけど。篠崎さんも受け止めつつも自分の方に戻すというか、凄くバランスの取れた監督さんだなっていうか。

(第2回に続く)

2016年度オープンスクール・体験レッスンレポート① 6/11「動く・俳優~ビュー・ポイントって?」近藤強さん

こんにちは!広報アシスタントの川島です。

6月11日(土)、映画と演劇を横断し活躍する俳優養成講座のオープンスクールが行われました!この日の担当講師は青年団の俳優である近藤強さん。「動く・俳優~ビュー・ポイントって?」というテーマのもと、身体を動かしながら、楽しみながらの体験レッスンとなりました。

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ビュー・ポイントって何?という方、私も入学前はそうでした。日本では教えているところも少なく、まだ馴染みがないかもしれませんね。ビュー・ポイントとは米国人演出家アン・ボガートがモダンダンスの即興テクニックを俳優向けに改良したトレーニング方法です。と言われても「?」という俳優のみなさん、演出家から「そこはもっと感情をこめて」と言われてやってみたけれど、演出家のイメージと違ったみたい…なんてことありませんか? ビュー・ポイントは、時間と空間の中での動きの要素に名前を与え、俳優や演出家が舞台上で何が起きているかを話すための共通言語でもあります。

 

体験レッスンは、まさに近藤さんの講義のダイジェスト版とでも言えるような盛りだくさんの内容!講義を受けていたときのわくわくした気持ちを思い出しました。

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まずは近藤さんからビュー・ポイントについて解説があり、ウォームアップのゲームなどをした後、レッスンスタート。碁盤の目の上を歩くように直線的に動きながら、テンポ、長さなど意識する要素を増やしていきます。だんだんとみなさんの中に静かな緊張感と連帯感が生まれてきた頃、近藤さんから人や建物、照明の光などに「反応」することを意識して、というアドバイスが投げられます。床に伏せてみたり、誰かの動きを繰り返してみたりとアイディアが次々と生まれていて、とても面白く拝見しました。

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続いて、要素のひとつであるジェスチャーに注目したエクササイズ。「朝」をテーマに、各自4つずつジェスチャーを考えます。一言で「朝」と言っても、歯を磨く、伸びをするなどの日常的なものから朝が来た喜びを表現する抽象的なものまで様々です。それを2人1組になって、合計8つのジェスチャーを組み合わせた1つのシークエンスを作ります。2人の位置関係やテンポを変えるだけで、ジェスチャーがまるでダンスのような表現になっていきます。

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最後に、椅子に座っている人と扉から入ってくる人で、短いシーンを作りました。座っている人の決められた動作は「カップで飲み物を飲む」だけ。セリフは扉から入ってくる人の「あのね、今日ね」の一言だけです。とてもシンプルな設定ですが、歩くスピードや飲み物を飲むタイミングなどで2人の関係性が見えてくるのが、このエクササイズの面白いところ。シナリオがあると、どうしてもセリフやト書きを実行することに気をとられがちですが、セリフのテンポや同じ動きをどのくらい続けるかなどでも感情や関係性を表現できるのだと気づかされます。

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最初は緊張した面持ちだった参加者のみなさんも、レッスンが進むにつれたくさん笑顔を見せてくれました。身体を動かすということで少し不安そうだった方も、楽しみながら参加してくれたようです。今回はオープンスクールということで、少しずつしか体験していただけなかったのですが、講義では感覚が身体に染み込んでくるまで、繰り返しトレーニングを行います。継続的に行うことで、どんどん面白くなるトレーニングでもありますので、ぜひ俳優養成講座で体験して下さい!

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映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座
〜演技を通じた新しいクリエーター創出を目的とする〜

募集ガイダンス6/18(土)、7/9(土) いずれも14:00〜
オープンスクール6/29(水)14:00〜 松井周「なじむ」
映画演出ワークショップ7/17(日)13:00〜 開催決定!
http://www.eigabigakkou.com/course/actors/outline/