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映画美学校アクターズ・コース ブログ

映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。映画・演劇を横断し活躍する「俳優養成講座 」 2016年9月2日(金)開講決定!

稽古場見学日記―俳優と観客が出会うことについて

7年くらい前から演劇を見続けているが、この度初めて稽古場というものに行った。15日金曜日、18時半頃に映画美学校を訪ねたとき、ちょうど休憩中だったようで、床に服やカバンや飲みかけのペットボトルが散乱する中、俳優たちは食事をしていた。

まずこの状況に驚いた。基本的に観客は、演劇をパッケージ化された状態でしか目にしない。演劇は人をメディアとするから、当然食事だってするだろう。でも、観客としての私はもしかしたら今まで、舞台の上にいる人たちが食事をするという想像力すら持っていなかったのかもしれない。

「はい、戻します。」「もう一回やってみましょう。」

演出をつける作業はまさにトライ&エラーの連続だ。演出家と俳優による濃密な対話がそこでは行われていた。俳優の姿勢や歩き方、声の出し方といったことについては比較的具体的な指示が与えられていく。しかし台詞の言い回しについては、松井周さんは抽象的な表現をすることが多いように思った。

「今だと繋がりが分からない」「台詞が浮いている」「イメージする前に出ちゃってる」

これらの上手くいっていないという判断は、俳優でもある松井さん自身による台詞回し、言葉のリズム感に基づいているようだった。俳優らの芝居を見ながら、口元でその台詞をつぶやき、はたと何かに気づいて、芝居を止める。俳優たちに実際に演じて見せることもあった。俳優と演出家が1人の人間の中で細かくスイッチングしている様子が興味深かった。

松井さんが実際に台詞を発し、身体を通して考えた指示のほとんどを、私は分からないと思った。しかし、それはある確信に基づいて、俳優たちに繰り出されているようだった。彼らがそれらの指示について、どの程度納得してやっているのか不明だが、私が見ている限り『革命日記』の稽古場では、指示は素直に聞き入れられていた。

延々と続く演出家がかけるストップは、ダメ出しの連続にも見えた。けれど、彼らはひたすら演出家の指示を聞いて実行していた。その様子を眺めるうちにだんだんと、彼らが話しているのが日本語であるにもかかわらず、私とは別のルールに従っている、言うなれば異文化の人の集団であるかのような気になってきた。あの場で、私は完全に余所者だった。

観客は膨大な時間をかけて作られた作品にほんの一瞬立ち会うだけの存在だ。ともに時間を過ごしてきた俳優らにとって、観客もまた他者である。劇場とは俳優と観客が、あなたとわたしが出会う場所なのだと思った稽古場見学。本日ゲネプロを迎える彼らは、稽古の時間を通して、一体どんなルールを身につけているのだろうか。劇場で出会えることを楽しみにしています。

 

廣澤梓/1985年生まれ。百貨店勤務。「イチゲキ」(http://1geki.com/)の中の人のひとり。小劇場レビューマガジン「ワンダーランド」(http://www.wonderlands.jp/)編集見習い。12年秋には「Blog Camp in F/T」(http://blogcamp-festivaltokyo.com/)メンバーとして劇評執筆。

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