映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

修了生トーク(1)長尾理世さん(2期高等科修了生)

9月2日に開講する、映画・演劇を横断し活躍する俳優育成ワークショップ。

そのためのオープンスクールが、6月21日に行われました。

講師の松井周さんによる体験レッスンのあと、修了生トークには、長尾理世さん(アクターズ・コース2期高等科修了)が登壇しました。

 

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まずは、長尾さんが企画と主演をつとめ、フィクション・コース修了生とともに作り上げた連作映画『月刊長尾理世』の中から、『本日、引っ越し致します』(監督・石川貴雄/フィクション・コース13期初等科修了)と『牛乳配達』(監督・長尾理世、小田篤/アクターズ・コース1期高等科修了)を上映。

入学を考えているみなさんを前にして、長尾さんがこれまでどんなことを学んできたのか、振り返ってみて、また将来について、どんなことを考えているのか、アクターズ・コース2期のティーチングアシスタントであり、『本日~』の監督でもある石川貴雄さんを司会に、話を聞きました。

 

連作映画『月刊長尾理世』について

石川 いま上映した『月刊長尾理世』を、企画したきっかけを教えてください。

長尾 引っ越しをすることになって、住んでいた部屋と引っ越し先の部屋を使って作品を撮れないかな、と思ったんです。石川さんの監督作は観たことがなかったんですけど、ティーチングアシスタントをしてくれて、二年間一緒にやってきたので、ちょこっと短編映画を撮りませんか、みたいに声を掛けました。ちょこっと、というのは、映画美学校には、コースに関係なくその場に集まった何人かで、iPhoneなどの自分の使える機材を使って、ちょこっと作品を撮って発表する、自主映画レッスンという部活があったので、まさにそんなふうに私の部屋で撮れないかな、と相談したのが最初ですね。そこから6本作ることになったんですけど(笑)。

 

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石川 最初は、引っ越しするので映画を撮りましょう、と声を掛けられて。僕もアクターズ生としっかり撮ったことがなかったんです。それで、今回最初に上映した『本日、引っ越し致します』をまず一本撮ったところで、毎月やろうか、という話になって。大変だけどやってみる? と聞いたら、やる、ということだったので、それからさっき二本目に上映した、11月号の『牛乳配達』まで毎月撮って、計6本になりました。『牛乳~』では、長尾さんはもう一人の主演の小田篤さんと一緒に、初めて監督もして、編集までして、去年の映画美学校映画祭で披露して。そこで好評だったので、いまはいろんな映画祭に応募しています。

長尾 はい。

石川 ある映画祭のプロデューサーからは「どこかの企画枠で上映するのもいいかもしれないね」という意見をもらいましたよね。

長尾 ちなみに一本目の『本日~』に出演していた本田雅英さんは、フィクション・コースの石川さんの同期で、石川さんが、じゃあ次は本田くん撮りなよ、みたいに声を掛けて。石川さんの6月号に出ていた本田さんが7月号を撮ったことで、監督は前月の作品に出演する、っていうリレー形式で繋げていくルールができて、うまいこと半年間、次はじゃあ誰、みたいな感じで続いていきました。

石川 そう。あと、出演は、例えば、最初の作品で電子レンジを開けていた香川知恵子さんも、長尾さんと同じアクターズ・コース2期修了生で。

長尾 『牛乳~』の事務員役の男の子、石丸将吾さんも私の同期です。全作品を通して、アクターズ生は15人くらい出演しました。

アクターズ・コースで学んだこと

石川 そもそもアクターズ・コースには、なんで入ったの?

長尾 大学4年の夏に友達と舞台をやって、みんなで作るのは楽しいな、卒業したら演劇とか映画をやりたいな、と思いました。関西の大学で、看護学部だったし、東京の演劇の学校とか全然知らなかったんです。それで、キーワードを「演劇学校」「東京」と入れてインターネットで検索したら、4つくらい出て来て、ちょうど映画美学校でアクターズ・コース1期の修了公演があるのを知りました。それで、さきほど体験授業をされていた松井さん演出の修了公演『カガクするココロ』を実際に観に行ったら、ああ、私もこういうことがやりたい、私もこれくらい演技ができたら楽しいだろうな、と思って、そこから何度か大阪からこういうガイダンスに通って、映画美学校に決めました。

石川 入ってみてどうでしたか?

長尾 振り返ってみると、大阪から東京に来て入学して、それからずっと途切れなく演技をできる環境にいられるのは、良かったと思います。続けられる理由は、近くに作品を作りたい人がいて、一緒に作る人がいる、っていうことが一つと、あとは、演技をするたびに先が知りたいというか、今回はここまでできて、次はここへ行きたいとか、同期生たちを見たりして、この人はこういう演技をするんだなあと面白味を感じたり、そういうのがずっとあって続いてきました。私は結構飽き性だから、一人でやっていると続かなかったりもするけど、そういう環境が途切れなくあったことが大きかったです。

石川 いまでも印象に残っている授業はありますか?

長尾 例えば、ビューポイントで脚本を作る、という授業がありました。もともと、ビューポイントは、俳優講師の近藤強さんの授業で行う訓練法で、何人かで息やタイミングを合わせたり、相手に反応しながら空間を動いて、俳優の間合いや感覚を養うものですが、さらに映画監督講師の古澤健さんが、ビューポイントから脚本のアイデアやインスピレーションを得ることをしてみたい、とはじめたものです。街に出て、ビューポイントの中でみつけた、自分たちが面白いと思う立ち位置やポーズで写真を撮って、そこから物語を考える、っていう宿題があったんですよ。これ面白いな、って思うささいなことからでもお話を発想できる、というのを授業で学んでいきました。そういうことも『月刊~』の、部屋があるから撮りましょう、みたいな考えに繋がったのかな。授業を受けているときは必死なんですけど、あとから思うと印象に残っているな、って。

 

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演技について

石川 演技としてはどう? 全くやったことがなかったんだっけ?

長尾 ちゃんとは、したことがなかったですね。

石川 さっき体験授業をしていた松井さんに長尾さんの印象を聞いたら、たくましくなったね、って。

長尾 はい。私はここでしか勉強していないから、ほかはどうなのかはわからないですが、ここには俳優講師が4人いて、近藤強さんや古舘寛治さんはアメリカでメソッド演技を勉強されて、兵藤公美さんは大学で新劇を学ばれて、山内健司さんは言葉にフォーカスを定めたワークショップなどをしていらっしゃるので、いろんな演技のアプローチがあることを学びました。正直、どのアプローチを選ぶか混乱した時期もあったのですが、いろいろな方法を学んだことで、初めて組む監督や俳優と接するときにも、ああ、この指示なら私はこっちからアプローチすればいいかなっていう、ツールみたいなものを獲得できているというか……できているかわからないけれど、考えられるな、と思いますね。

石川 いまも、俳優レッスンという修了生向けの授業を受講しているんだよね。

長尾 そうですね。

石川 修了公演はどうでしたか? 松井さんに習ったのは、そのときが初めてだよね。

 

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長尾 はい、一年目の修了公演は、松井さんの演出で、平田オリザさん作の『革命日記』に出演しました。入学したばかりのときは、すぐに作品に出られるかな、出たいな、と思っていたけど、授業では演技のレッスンをずっとしていって、そこから一年かけてやっと舞台を経験できて、そうしたら、やっぱり楽しかったですね。けどそのときに、ああ、私は全然できていないな、とわかる発見もあって。それでまた、もっとレッスンを続けたいな、と思いました。

石川 そうだよね、映画を作っている人たちがまわりにいるし、最初はとにかく出たい、っていう気持ちが先にあって、でもやっぱり演技の基礎や技術の勉強にも時間が足りないくらいで、修了公演までは学ぶことに精一杯だよね。

長尾 うん。授業で学ぶことは楽しくて、一年があっという間にすぎた印象ですね。

石川 アクターズ・コースのテーマの、自分で創れる俳優、ということについてはどう?

長尾 高等科の修了制作が映画だったんです。埼玉県の深谷市で一週間合宿をして『ゾンからのメッセージ』という作品を、鈴木卓爾監督と撮りました。その世界は、町が壁に囲まれている、っていう設定だったので、空が見える場面は全部、撮影後の合成処理が必要でした。だから、去年出演したあとの半年くらいの間は、私も合成班として、映画の仕上げ作業にも参加しました。それは貴重な経験だったと思います。私は俳優だから演技をしたいのに、っていう葛藤もたまにありました。でもやっぱり、映画はいろんな人と作るものだから、俳優には俳優のアプローチがあるけれども、一スタッフとしても始まりから終わりまで体験することによって、一緒に作っている人たちがどこをどうしたいと思って何をやっているのかわかるのは、面白いなあと思います。

 

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これからのこと

石川 最近は、フィクション・コースの生徒からよばれて修了制作に出演したり、『月刊~』を観に来てくれた人からのオファーもあったでしょう?

長尾 やっと学校の外で作品に出演できるようになって、なんとか頑張っているというか。自分のできることを、楽しみながらやっています。

石川 やりづらいこととかはないの?

長尾 やりづらいことはいっぱいあって、初めて会う俳優と、コミュニケーションを取りづらいな、と思うこともあるし。古舘さんのシーンスタディという授業では、同期とペアを組んで、何カ月も同じ人と同じシーンを作るんですけど、はじめは相手とシーンを作るのがどういういうことかわからないから、結構ぶつかったりもしたんですよね。そういうときのことを思い出して、相手役とどういうコミュニケーションをとればいいか、考えたりしています。

 

ここで、来場のみなさんに長尾さんへの質問を募集すると、手があがりました。

――さきほど、『月刊~』を観た人からオファーがあって外部の作品に出演した、という話があったのですが、ほかにはどういう活動をしていますか?

長尾 さきほどお話したように、修了して一年目は『月刊~』を6本撮ったり、映画美学校の中の作品に出たり、修了制作のポスプロに関わったりしていたのですが、いまはその一年が終わって、外で作品を作りたい、という思いがあります。最近初めて、舞台のオーディションに応募しました。

石川 勢力的に舞台に出ている修了生は何人もいて、事務所に入った人たちもいるし。

長尾 あとは修了生に、映画を作りたい人がいっぱいいるから、その人たちと作っていけたら、という思いは強いです。

石川 最後に長尾さんから、何かありますか。

長尾 今日は作品を観てくださって、ありがとうございました。

 

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写真:上から、『本日、引っ越し致します』/トーク中の長尾さんと石川さん/長尾さんも参加した松井さんの体験レッスン/『革命日記』/『ゾンからのメッセージ』/トーク終了後の長尾さん
 
取材・構成:浜田みちる