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【講師リレーコラム】「ネコノトピア ネコノマニア」というテレビドラマ体験|兵藤公美

1990年の5月のG.W.にNHKで放送されたドラマで私は当時17歳でした。  

 

その頃のドラマといえば、普通におしゃれでトレンドな生活をして、主に好きとか嫌いとかで悩んでいる大人たちがでてきて、最初と最後に流行りの歌がかかって〜みたいなのがほとんどで、それは全く自分とは無関係の嘘の世界。  

 

でも、そういうのが所謂『ドラマ』や『芝居』と思って見ていた頃に、 「ネコノトピア ネコノマニア」というネコがなんなのかよくわからないタイトル。

「素敵な片想い」「恋のパラダイス」とか、だいたいどんな話か想像がつく題名が多かった中、 とても気になったのを覚えています。  

 

オープニング。

真っ黒の画面から突然光が見えたと思ったら、冷蔵庫のあかり。 インコを肩に乗せた女子高生が、食パンとハムを取り出して食べ、パックのまま牛乳を飲む、という冷蔵庫を漁るシーンから始まる。  

主要登場人物は

登校拒否の女子高生(工藤夕貴

家出少年(真木蔵人

家族を置いて放浪して競馬しかしていないダメ中年男(萩原健一

猫を何十匹も飼っている老婆。猫ばあさん(岸田今日子

音楽 小野誠彦。  

 

家出少年とダメ中年男はビルの屋上に一緒に住んでおり、拾った猫を保健所に売り飛ばしたりして暮らしていた。

あるとき、そんな二人と女子高生が出会う。

それ以来、三人で競馬したり、拾った猫を売ったり。

また、猫を何十匹も飼っている老婆に猫をもらいに行った女子高生

そのまま老婆のうちに度々顔を出すようになって、 時には泊まったりするという奇妙な共同生活をしばしすることに、、っていうのが基本のお話。  

 

女子高生は、夜中の駅の黒板にものすごい強い筆圧でぶっそうなコメントを書きなぐる。

家出少年はけがもしてないのに片足をほぼギブスでかためて常に足を引きずって歩いてるのに 夜中になるとギブスを外して学校のグランドを疾走しちゃったり。

(家出少年役の真木蔵人がちょくちょくかっこよくて面白い)

老婆は、女子高生のお気に入りの赤い傘をネコババしたりと、 ホントにしょうもないことばっかりで、基本どんよりした雰囲気で話は進んでいきます。  

唯一、ダメ中年男が夜中の自動販売機に「念」を送ると、お金も入れていないのに、

『がしょん』

とコーヒーが出てくるシーンはぱっとするのだけど、 それもしょぼさは否めずで。  

色恋沙汰もない、トレンドもおしゃれな人も全く出てこない、音楽も歌詞はなくて、摩訶不思議なサウンド、どうしてこうなったのか説明もほとんどないのに、なぜか引き込まれることが衝撃でした。  

 

私は特に登校拒否でも家出少女でもなく、友達もいたし、高校生活はわりと楽しく、 面白くないことも多少はあったけど、 だいたいはおめでたく過ごしていた方だと思います。  

だけれども、それでもこのドラマの中の人物たちのことを他人事じゃなく、

自分に関係があるような、むしろ、『これは私だ!』と錯覚さえしていました。  

最終的にはダメ中年男は競馬で当てた大金を家族に送って自殺、

猫ばあさんは認知症になり、息子によって施設に入れられてしまい、

女子高生と家出少年はそれぞれの場所に戻るのか戻らないのか、というなんにも問題は解決しないままなのです。  

 

ラストシーン。

女子高生と少年の二人が橋から川を見ていると、少年がいきなり川に飛び降りる。

でも、浅い川だったので、尻もちをつくくらいで済むんだけど(それもやっぱりちょっとかっこいい) 水を蹴りながら去っていく家出少年の後ろ姿に女子高生がまた会おう的なあいさつをするラストに 17歳の私はちょっと泣いた。。かどうかはっきり覚えてないのですが、たぶん泣いたと思います。  

俳優の演技も見事で

猫ばあさん役の岸田今日子が息子の自慢をするシーンで、焼いた鯵を骨ごとばりばり食べる姿が忘れられません。  

書いていたらまた見たくなってしまったので、 AmazonでVHSを買おうかと思います。

 

(兵藤 公美)