映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

修了生トーク(7)古内啓子(1期高等科修了生)×中川ゆかり(1期高等科修了生)その2

その1から続いています。

 

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(大工原正樹監督『新しい人』より。18期フィクション・コースコラボ作品。右の男性は1期初等科修了生・吉田庸さん)

 

中川:学校修了後の最近の出演作、『TOWN WORKES』岩井俊二監督)とか、『新しき民』(山崎樹一郎監督)とか、朝倉加葉子監督の新作はオファーがあったんだよね? 

古内:そうだね。岩井さんは半年くらい前に全然違うオーディション受けてて、ちょっと経ってからこちらに出ませんかってオファーをいただいた。

中川:どちらかというと同期では小劇場や演劇のオーディションを受けてる人が多いけど、啓子ちゃんは映像志向だよね。

古内:なんだろう、やっぱり映画がやりたいっていうのは元々強くあって。逆に演劇とかでそうやって思ったことがなかったから、あんまりオーディションを受けてこなかったな。

中川:じゃあ、演劇の講義はきつかった? 

古内:全然! 楽しかったし、小田さん(小田篤/1期口高等科修了生)とやった……

中川:『走りながら眠れ』(作・平田オリザ。学校内の自主企画として上演)?

古内:そうそう、あの伊藤野枝役は、また別の形でもやりたいって思ってる。すごい面白い人だったなって。

中川:へえ。役作りのプロセス、インまでの準備はどんなことしてるの?

古内:それは全然決まってなくて、試行錯誤過ぎる(笑)。その役を肯定していきたいっていうか、なんだろうな、単純にセリフ覚えるとかもするけど。こういう方法でって決まったことがないぐらいぐちゃぐちゃと……。ただ最初は、脚本読んで自分に引っかかってくること、わかるなってところを拡げてく気がする。

中川:さっき言ってた、自分で追求していけるっていう気づきとは別の観点で、そもそも啓子ちゃんにとって演技の楽しさってどんなことなのかな。

古内:経験すること、かな。私は文字に苦手意識があって。それよりも自分でやってみたいってなる方が強い気がする。

中川:フィクションの世界で、自分の体で行動する楽しさってこと?

古内:そうだね。他人になるわけじゃないんだけどね。自分を器としてやっていくというのもそうだし、自分の腹の声を信じるというか。自分のこと知らずに他人になんてなれないなって思ったこともあったな。色々ぶつかりながら、自分自身が広がってくのが楽しいのかもしれない。

中川:それはいいよね。自分をストレッチしていく感じ。でも、同時に怖いこともあると思うんだけど、好奇心の方が強いのかね。

古内:そうだね、どうなるか分からないけどやってみたいってなる。だからわりとなんも考えずに、石橋叩かずに渡るみたいな(笑)。昔は、現実で出来ないことをフィクションでやりたいみたいな気持ちがあって、でもやっぱりそうじゃなくて現実に向かわなきゃだめだわって考え方が変わってきた。この日常の世界も変わらないし、この日常の世界でまずどう生きるかもすべて関わってくるというか、そういうことにも楽しみを見つけられるようになったね。

中川:うん、そうね。演技単体として自分の日常から切り離せるものじゃなくて、自分のいろんなものから総合的にできてる。

古内:うん。

中川:捉え方の変化があるんだね。私も学校に入る前は、舞台上で、ある基準を満たした「理想の演技」が実現できなきゃいけないんじゃないか、でもそれはたぶんできないな私、と思ってた。それを目指すとやってるのがきつくて、俳優としてダメだなって。

古内:そうなんだ。

中川:由里恵ちゃんや啓子ちゃんは、とにかく演技するのがすごく楽しそうで、純粋に良いなって思う。そういう人を見たくなるよ、私は。

古内:うん、楽を目指してる。腹の中の声信じられるとやっぱ楽で。でもそこでほんとに思ってることがやれなかったりすると、すごい気持ち悪くなってくる。

中川:『ジョギング渡り鳥』鈴木卓爾監督/アクターズ・コース第1期高等科出演作。第37回ぴあフィルムフェスティバル招待作品部門にて上映)は楽しかった?

古内:楽しかった。でも寒かったし、寝れないし、きついものいっぱいあったよね、ほんとに。なんでこんな寝れないんだろうって(笑)。でも、あれだけ長い時間関わってる作品も無いからね。

中川:ないね。

古内:企画して撮影してポスプロして、今は宣伝もみんなでしてて。そう考えたらすごいよなって。

中川:ようやく離陸が見えてきた感じだよね。これから飛んでもらって、自分たちの手から離れていくといい。

古内:そうなんだよね。それだけ関わることに当時は気付いてなくて。授業の一環から始まったし、ただそこにいたっていうか。今思うとそれ凄いことだよなあって、そういう経験をいっぱいしてたんだなって、思うよね。ほんとにどの授業も。

中川:自分の特徴も、都度見えてくる。

古内:痛いなって思いながら自分で見てるっていうか(笑)。

中川:そういえばこの間『ジョギング渡り鳥』の深谷での試写の帰り道にいた男性陣がみんなひたすら「啓子ちゃんが可愛かった」って言ってたよ。

古内:(笑)

中川:「古内さんすごいです。アップに耐え得る唯一でした」って。おいおい、私目の前にいますけど、みたいな(笑)。

古内:しかもみんなアップあるわ(笑)。

中川:けどねー、確かに可愛かったからいいんです。

古内:ははは……お。

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中川:(写真撮る)。私最近こういうことばっかりやってるよ。

古内:やりたいわけでしょ、どっかで。

中川:うん、部分的にね。

古内:まあ、そうだよね。

中川:いろんな理由はあるけど、俳優の仕事の一つとして山内さん(山内健司/俳優)がよく言葉にする、安心してリラックスできる環境づくりのために自分から働きかけるっていうのが自分のやり方としてしっくりきてて。その延長線上というか一環なんです。あとはもう、このタイミングでみんなを紹介したかった。売れてるかどうかじゃなくて、一人一人面白いんだよってのをやろうと思った。

古内:なるほどね。

中川:深田さん(深田晃司/映画監督)もよく言うけど、映画って魅力的な被写体がいればいいわけで、一回限り最高であれば良い。俳優が主体的につくることは映画をさらに豊かにしうると思ってはいるけど、でも実際、一つの映画という視点で見ればプロの俳優であるかどうかってマストじゃないからさ、誰でもいいんだよね、変な話。

古内:そうかー。

中川:うん、面白ければ。それは自分が俳優やりたいと思った時からずっと考えてることでもあるんだけどね、つまり俳優要る? っていう疑問。少なくとも自分が面白いと思うところの感覚を信じると職業俳優ってマストじゃないのよね。でも自覚的に俳優をするのはやっぱり面白くて辞められない。要らないのにやりたいと思う矛盾がずっとある。自分がやりたいのってただのエゴでしかない、それなら辞めた方がいい、辞めるべき、とかって方向に行かざるを得ないという……。

古内:ていうか、さっきから辞める方向に考え過ぎだから!

中川:なんでだろうねー(笑)。でもね、学校に来てやっぱり自分なりに続ければいいかとは思えた。あと俳優をやろうとしてる人がやることの面白さを見るのが好きなんだよね。果敢にトライする様とか。この人の魅力なんだろう、あ、これだ!みたいなことをすぐ思う。だから演出すればいいんだろうけど、演出力がないなあ、今。

古内:でもさ、自分で演技やりたいって感じもあるわけでしょ? 

中川:欲はあるけど、見せなくてもいいんだよね。もっと内向きな欲っていうか、こっそりやってるくらいでいい感じ。

古内:それ逆にすごいけどね。

中川:一対一でいい、極論。演じて見せること以上に、今こうやってしゃべってるところで自分はどうするか、誰とどこにいるか、そもそも「在る」ってなんだ、とかへの興味の方が強いのかな。演技、俳優の考え方を持ちながら日々現場です、って感覚。

古内:でもまあそうだよね、常に演技してるもんね、生きてて。

中川:そうそう。ただそんなこと言ってると、それじゃあ日常ちゃんと生きるってことでいいんじゃないですかって自問自答する。あれそれ違う、表現欲あるんだけどって袋小路にまた……(笑)。職人になりたい欲もあるの、自分の中に。そのためにはいわゆる作品を作る現場での経験も必要だなと思う。でもま、私の話は今日はいいわ。

古内:いいじゃん、織り交ぜてこうよ。みんなだけ紹介しててもしょうがなくない?

中川:いやいや、みんなを紹介しつつ、ね。特に啓子ちゃんは早く紹介したかったよ!

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(大工原正樹監督『新しい人』より)

魅力の俳優、1

中川:最近出てた作品はどうだった、それぞれ?

古内:どれも思い入れがあって出られて良かったな。でも、自分では自分をどう見ていいか分かんないね。自分では何見ても、その時の自分の過程が完全に見えて……。

中川:課題とか、自分の傾向みたいなのってあるの?

古内:閉じていく、だと思う。どんどん。開いてこうって常に意識してるし、自分も本当はその方が楽なんだけど。あと自分の過程が見えるのもなんか変な話というか、それ演技じゃないじゃんって思っちゃう……。

中川:完成形でぽんと置かれてるわけじゃないっていう感じかな。葛藤の結果やどういう軌跡を通ってそこにいるかがそのまま出ちゃう。

古内:でも同時に、今の私の過程をそのまま包み隠さずおきたいっていう願望はすごくあるかも。それは隠さないでやろうって決めてる。

中川:見せないようにしようとかじゃなくて。

古内:もうそれは、出す。人前にのせてくしかない気がしてる。

中川:さっき言ってた閉じるとか開くっていうのはさ、思考がっていうこと? 

古内:単純に言うとそうだね。頭でっかちになっていく。開いてる時は、なんだろう、すごく楽にやってる。「こうやんなきゃ」っていうのもなくなる。その結果や、それぞれの瞬間、過程が映像には映っててすごいなとも思うの。それ、かけがえないよなって。

中川:カメラには写る。残るし、いろんなものが見えちゃう。

古内:そういうとこも好きなのかもしれない。隠しても、隠そうとしてることが見えちゃうし。

中川:そうね。前に隆大(高橋隆大/2期高等科修了生)がさ、V・カネフスキーの『動くな、死ね、甦れ!』について、役と本人の軌跡が重なったり行ったり来たりすることや、俳優自身の跡がいっぱい見えて混ざる、割り切れない部分が魅力的だって言ってて納得した。私もそこが好きなのかも。

古内:そう、そう思う。でもそれと同じくらい俳優としての技術も必要だよねってまた感じるようになった。

中川:そうだね。本人の魅力だけではなくて……。

古内:だけではない、俳優だから。

中川:そこは自覚的にやる、見せる。

古内:うん、あるんだろうなって。でも自分は全然そこに行ってないなっていう……。

中川:道のり遠いよねえ……。俳優の技術って、たとえばどういうところで感じる?

古内:繰り返せること、新鮮にやっていくこと。舞台だったら多くの人の前じゃない? 映像だったらまだその場所に行くけどさ、舞台上の何もない空間で演技するのってそもそもすごいよなって。やっぱり技術、演技論ってあるんだろうな。かといって技術的なところだけじゃ出来ない部分もあって、それってやっぱりそれぞれのオンリーワンなものだよなって思うから。

中川:どっちもあるよね。

古内:うん。自分のことはマイペースだなとも思うかも。演技のことで信じてるものがあるというか、信じて、見つけたいものがあって、それに向かってるのが楽しいのかもしれない。学校に入る前はそういうのがほんとなかったんだと思う。それがすごい不安だった。逆に今はそれがあるから楽しくてもうずっとやっていきたいし、やれるなあと思えるようになった。

中川:その、信じてるものっていうのは、何か言える?

古内:なんだろう……。

中川:どういう状態だと良いって言えるかな? 今「信じるもの」に近づいてる感じがするとか。

古内:答えになるかわかんないけど、私が映画見てて好きなのは「この人今こう考えてるな」とか感情とかが一気に出てるよりは、移り変わったところが見えるとすごい面白い。そんな風に移り変わる、感情が流れるのはその場で経験、体感してるからだよなって。いわゆる「内面芝居」みたいなのはまた別のものだなとも思う。自分の持ちうるいろんな感情を知りたいし、それを嘘つかずに隠さずに出せたらいいと思う。

中川:自分がそれを実感できて、かつ、見てる人からそれも見えたら最高よね。出ちゃうことと、狙って完璧に見せていく両方ができることかな。被写体であることを自覚的に引き受けて、自分の特徴も自覚的に演出していく。この間見た『ローリング』(冨永昌敬監督)は映画の魅力もさることながら、俳優部が本当に全員素敵でそんな風に見えたな。身体も、声の使い方も。

古内:本当にすごいよね。川瀬陽太さんと共演した時、監督が、こっちから照明当ててこう撮るってのがわかるとその撮り方に向けて、じゃあこうしたらいいねっていうのを考えて動いてて。こういうカット、こういう画で撮りたいならこうやろうって。私はまだどういう画を撮ってるかは分かんない。交わされる会話を聞きながら、映ってないからこうすれば良いか、とかはあるけど。

中川:自分が演じる時にどう見えるかをリアルタイムで把握できてるってことだよね。演じてる時間としては主観がありながら客観も常にある感じ、しかも「どう見えるか」まで想定に入れて。でも、実現するのは、なかなか難しいな。

古内:絶対必要だよね、映画にはカメラがあるし。舞台は見る視点は自由というか……。

中川:いろんな人がいろんなところをそれぞれの角度から見てるからね。とはいえ、俳優としては、舞台でも世阿弥が『風姿花伝』で「離見の見」て言ってる。松井さん(松井周/演出家・劇作家)も講義で、自分の変化を含めてその場で起きてることについて客観的に捉える状態と、実行する人として主観的な状態を行き来することについて何度か言ってたけど、それは両方絶対にあるよね。段取り認識したりアクション選んだり、でも動いている時はそれこそ経験するって時間でもあって。同時にあったり、どっちかだけの時もあったり、なんかあの感じって不思議だけど、あるんだよね。

古内:そうなんだよね。

 

その3に続きます!