映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

修了生トーク(8)大谷ひかる(4期修了生)×中川ゆかり(1期高等科修了生)その4

その3からの続きです。

 

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(4期修了公演・舞台『石のような水』より。大谷さんはラジオパーソナリティ・日野秋子役を演じました)

俳優のロマン

中川:大谷さんは、演劇やお芝居をいつから始めたんですか?

大谷:私は、大学が音楽大学のミュージカルコースだったんです。

 

4年間勉強していく中で演劇に興味を持ったのが、一番の収穫というか。

中川:ミュージカルと演劇は別でしたか?

大谷:別という捉え方です。今でもミュージカルは大好きです。ミュージカルは歌えてなんぼですが、私は歌に苦手意識があって、それが致命的だと思いました。授業でも、自分の自由曲を見せる時にいかに間奏部分が長い曲を選ぶかとか、だんだんずるいことばかり考えるようになって(笑)。正々堂々勝負できなくなってきて、でもその分ちょっと良いように言えば、周りの人が考えないことを考えるようになりました。段々ミュージカルよりお芝居見に行くことが多くなってきました。

中川:なるほど。

大谷:それで、大学の講師でいらした兵藤さんの授業を始めて受けたときにショックを受けたんです。ミュージカルは……それが良さでもあると思うんですけど、アトラクションに乗る時みたいに「待ってましたこれ!」って、来て欲しいものが来るのを待っている感覚でした。でも大学3年生の時に受けた兵藤さんの授業で取り組んだ演劇では、全く先が分からなくて。この感じってなんだろう、と。

中川:未知に出会ったんですね。

大谷:はい。それからは演劇や演技に興味を持って、兵藤さんに映画美学校があるよ、と教えてもらいました。自立した俳優になりたい、と。それこそ今は俳優じゃない人が舞台に出てきた方が面白いこともいくらでもあって、でもそんな中で、俳優としてやっていきたくて。でも私、俳優っていう生き物はどうかしてるって思ってるので。

中川:そうですね。

大谷:ほんと、どうかしてますよね(笑)。でも俳優になるならそうならなくてはならないんだって思っていて。映画美学校のオープンスクールやガイダンスで、ここはすごく言葉が多い場所で、知りたいことが言葉になっているのが良かったです。授業が始まったのが5月頃、大学でてから演劇に初めて出たのは6月頃。今は、ミュージカルとは変な距離で付き合っていきたいって思ってるんですけど。

中川:好きなんですね、ミュージカル。

大谷:そうなんです。誰かが歌いだして、そばにいる誰かも歌いだす状況がすごい好きなんですよ。めっちゃ最高!ってなります。それもあって、私は舞台でやるのは絶対派手なことがいいっていうのがあるんですね。

中川:あ、それは『石のような水』(作・松田正隆、演出・松井周。4期生修了公演、2015年4月にアトリエ春風舎にて上演)のインタビューで読みました。

大谷:はい、派手でロマンチックなものが良いというのを今も念頭に置いてて。でも映画美学校での一年間は、

中川:真逆の事やってたでしょ。

大谷:そうなんですよ! ここで現代口語演劇のテキストを読み続けて、その反動で、派手なことやりたくて(笑)。でも、それは逆にここで勉強して良かったなって思うことでもあります。舞台に対しては非日常な場であってほしいという思いがすごくあるし、さっきの映画と舞台の違いで話した、舞台だけでできる嘘のつき方にロマンチックさを抱いちゃう。でも派手なことは一人じゃできないんだっていうのを気付かされて。

中川:そうですね。

大谷:今まで集団に所属することは考えていなかったんですが、一人じゃできないし、裏で共にしている時間も含めて作品を創作していきたいという思いがあって、今年三条会に入りました。9月24日から一つ公演『熱帯樹』があります(注・この対談は公演前に行われました)。

中川:何でその劇団に入ろうと思ったんですか?

大谷:三条会の女優さんであり、私の大学の講師の方が卒業のタイミングで声をかけてくださり去年にひとつ三条会の作品に出演しました。三条会は特殊な表現方法を舞台に乗せていて。

中川:残念ながらまだ見たことがないです。

大谷:異化効果ってありますよね。例えば主宰の関さんがよく例に出すのは、じゃんけんの「グー!」って言う時に「グー」の手の形を差し出すのではなく「チョキ」の手の形を差し出しながら言ったほうが「グー!」の言葉がよりお客さんの耳に入ってくる、みたいな。三条会は既存の戯曲を上演しますが、戯曲に流れている時間といま舞台に流れている時間。戯曲に書かれていることと、いま舞台の上で起きていること。その二重構造に挟まれた時に、どこまで遊べるのか、どんな発見があるのかに重きが置かれます。その二つのものに挟まれながらその舞台で立ち続けようとする俳優さんの姿には自分はロマンを感じてしまうんだと思います。

中川:なるほど。

大谷:私、ロマンチックっていう言葉、ほんとにあやふやに使いすぎなんですよね。

中川:あやふやなんだ(笑)。

大谷:はい、私はなんでも良いものをロマンチックだわ~って言っちゃうんです(笑)。何について言っているのか、もっとはっきりさせなきゃと思いながらいつも使っちゃってるんですけど、でも、舞台に立ってる俳優さんのロマンを見たい、というのは観客側の欲としてあります。あ、この人すっごい今に悩まされてるな、みたいな。

中川:狭間に立つ人。

大谷:そうですね。そこで生が好きということに繋がってくるんですけど、お客さんがいて、舞台に立ってるパフォーマーがいて、その時だけの化学反応でどうにかなっちゃってるのが見たいのかなって思います。

中川:なるほど、その狭間に飛び込みたいって思ったんですね。

映画美学校を経て

中川:そういえば事前に話した時、演技を学ぶことへの疑問も話していたよね。

大谷:そうですね、演技を学ぶことへのわだかまりはありました。でも、映画美学校で学べたことは本当にどこの現場へでも持って行ってることなんですよね。それだけ、始まり、立ち上げのところを得た気がします。それをどう派生させていくかは個々人に委ねられていると思うんですけど。自由に形を変えて、次の場所に適用していく基盤を与えてもらえたな、と。抽象的な表現なんですけど。

中川:すごく分かります。

大谷:それはホントに良かったと思っている一方で考える事なんですけど、うまい俳優と魅力的な俳優というのは違うことだとも思っています。今私が言ったことは、一概には言えないんですけど、うまくなるためのものという気がしています。兵藤さんも演技術という言葉を使いますが、技術として蓄えていけるものがある。一方で「魅力的な俳優」ってなんだという時に、これは絶対人には教われないものじゃないかな、と思います。例えば山内さんの授業でも、山内さんはあれだけ言葉にして言ってくれた後で「まあでも分かんないんだけどね~」みたいに言う。それっていいな、演技ってそうだよなって。後は、兵藤さんが修了公演で本番終わって帰りに話してたときに松井さんの演出について、「結構松井はしっかり固めてくるからね」みたいなこと色々言いながら「でも私はその中で、どんだけ自分がやりたい放題やっちゃうかなんだけどね」って言う兵藤さんのその表情良いな、みたいな。これは授業で教わったこととはまた違うところで、でも、やっぱりそういうところこそがその人の魅力だと感じるなーって。

中川:その部分は教われないぞ、と。

大谷:そうそう。だから自分の中で、後者の方をどうするかがどんどん大きくなっています。でもそれは、どういう演劇に関わりたいかにもよると思うんです。美学校では俳優について考える時間を貰えて、私は演劇でやっていこうと決めていたので、俳優と同時に演劇について考えていくことがすごく必要でした。通いながら出演舞台もあり、ちょうどうまく考える、考えざるをえない状況に置かれたのもすごいラッキーだったと思ってます。

中川:前に古舘寛治さんと1期高等科が終わる時に「技術は教えられるところがあるけど、魅力は人から発見されるものだ」って話したことがあります。自己演出というのもあるけれど、他人が発見する自分の特徴は、自分ではどうにもできない部分がある。でも技術に関しては伸ばしようがあるし、自分で努力できる。だからこそ、俳優が自分の拠り所を持てるように、学校で技術の話をするんだって言っていて、それはすごく分かるなって思いました。

大谷:そうですね。

中川:俳優については、誰でも自由に語るところがある一方で、良し悪しの測りづらさや語りづらさもありますよね。でも無自覚な魅力だけでその場所にいる人はほぼいなくて、例えば現場での振る舞いも技術の一つとして積み重ねられる。もちろん再現性の高さとか、レンジの広さのように分かりやすく技術と呼べるものもありますし。最初は人から選ばれて被写体になったとしても、自分でなにか拠り所がないと立っていられない。その拠り所の土台になる部分を、大谷さんもさっき言ってたように、ある時間をかけて育てる意義はあるんじゃないかなと思います。

大谷:今、それをひしひしと感じます。

中川:『石のような水』の話も出ましたけど、修了公演はいかがでしたか? 割と出ずっぱりな役だったね。

大谷:ラジオパーソナリティの役なので、喋る量は確かに多かったです。小屋(アトリエ春風舎)に入った時にめっちゃ緊張する照明で、「え、こんな真っ暗なの? 松井さん!」って思いました。お客さんとの距離も近い場所だったし、空間にすごい緊張を抱いちゃったんですよね。

 

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(『石のような水』稽古風景より)

 

中川:本番だけ? ゲネもそうでした?

大谷:小屋入りしてからずっとそうでした。救いだったのは一年間一緒にやってきた共演者の顔です。あ、今日大石さん(大石恵美/4期修了生)こんな表情でこのセリフ言ってる、みたいなことに、一番自分が生の反応を返せるというか。稽古もじっくり時間かけてやってきて、周りが暗い時にはほんとにそれが一番強くて。不思議な感覚でした。

中川:お互いをよく知っている強みですね。

大谷:はい。それに、実はあの舞台、舞台裏がほんとにひどい状態になってて(笑)。出演者が多くて裏に10人近く隠れなきゃいけないときも場所がなくて、次に着替えるシーンの男性はパンツのまま机の下に寝っころがって隠れたり。自分のシーンが終わって裏に入ると、このグループとこのグループがすれ違いつつぐにゃぐにゃ迷路をたどってなんとか舞台に出る、みたいな(笑)。その裏で起きてることこそ、『石のような水』に描かれるゾーンのようなよく分からない場所を歩いてる感じでした。舞台上で起こることはシンプルだったんですけど、裏で起きてることもいろいろあって、それがまた緊張感を生んでいて。それが良い緊張感だったか悪いものだったかまでは分からないんですけど。

中川:裏で起きてることはおそらく自分の体に反映されているけど、お客さんはそれは見ていない。今回はたまたまリンクしたみたいだけど、まあ、関係ないっちゃないですもんね。

大谷:そうなんですよね。

中川:演出家や共演者は、普段も見ていて裏の構造も知ってるから、あ、こいつに今こんなことが起きたなって想像しちゃうけどね。

大谷:そうですね。

 

その5に続きます!