アクターズ・コースが超えるボーダー 〜アート系「現代演劇」をゆく修了生座談会〜【2】
9月より開講するアクターズ・コース 俳優養成講座2017。「アクターズ・コースが超えるボーダー 〜アート系「現代演劇」をゆく修了生座談会〜」をお送りしています。
第2回目は、俳優の「居場所」に関して。修了生たちは稽古場にどうコミットしているのか、実感を存分に語ってくれています!
それではどうぞ!
俳優が「個」であるということ
菊地 私は最近、気になり始めていることがあるんです。「俳優」はどのように稽古場に存在したらいいのか。それってなかなか難しいなと思い始めていて。
山内 うん。そこだよね。
菊地 テキストを渡されて、「こういうことをやってみて」って要求される、いわばテクニックみたいなものをこなすのに精いっぱいになると、どう見えているだろうか、っていうことにまで、なかなか気が回らなくなる。でもたまにスタッフさんが観に来てくれて、そこで言ってくれる新鮮な意見も、演出家には何かが響いているようだけど、こちらまで届かないと焦る。もちろん、作品は演出家のものではあるんですけれども、でも私は俳優として、もっと一緒に作っていけるようになりたいです。
山内 俳優の学校って、普通はあまり「個」を求めずに、「俳優という役割」を求められることが多いと思うんだけど、菊地さんは現場で「個」を求められたりはしないの?
菊地 「個」……その感覚は薄かったかもしれないです。私は大学生の時、映画論のゼミにいたんですね。「作る」とか「出る」とかではない。そこで私は、もちろん俳優さんの演技も観てるんですけど、それよりも、監督の作家性に反応したし惹かれたんです。だから俳優という役割に対しても素材の一つという認識が強かったし、自分もそうなりたいと思っていた。でもそれがすべてじゃないかもしれないって思うようになったきっかけの一つが、実は、「犬など」なんです。
一同 へえーー!
菊地 私にとっては「犬など」の公演が、『友情』(映画美学校アクターズ・コース2015年度公演。作・演出:鎌田順也)以来初の舞台出演だったんですね。自分は演者として出るんですけど、みんなで意見を交わしあいながら作っていく現場で。
山内 そこって、さっきの「横ちゃんはなぜあんなにいろんな芝居に出られるのか」に少し響き合うかもしれないね。
横田 「新聞家」は、テキストを喋る時間よりも、話し合う時間の方が長いんですよ。稽古を6時間やるとして、2時間はテキストを喋ってテキストを聴く、残りの4時間はみんなで、テキストのこととか、今思ってることとか、近況報告とか、喫茶店で話すような会話をしてるんです。でも全員が全員、同じ言語や思いを共有してるかというと、それも違う気がする。どこの舞台もそうじゃないですか。演出家と俳優の信頼関係が目に見える場合もあれば、それが見えない場合もある。
――「違う筋肉を使い分けてる感」はありますか。
横田 それは……うん、ありますね。
山内 あるんだ。
横田 そもそも、「自分の筋肉はこれだ」っていうのを、特に持ってないので。
山内 かっこいいなあ!
横田 まず言葉を組み立てる人もいれば、先に身体から入る人もいたり。言葉を重んじる人たちの中にも、モノローグを重視する人がいれば、対話を重視する人もいる。「新聞家」は基本的にモノローグ芝居なので、普通の会話劇なんてもうできないんじゃないかなって、実はこっそり思ってます。怖い怖い。怖いです。
一同 (笑)。
山内 横ちゃんは、どっちかというと念力型なんだよ。他の人が見ると「ちょっと大丈夫……?」って思うくらい、ぐおーーーーって入っていくでしょう。公演の合間に、気晴らしにスマホいじったりしないでしょう。
横田 しないですね、できないです。でもそれ、やりたいんすよ。本番前に、マンガとか読んでたい(笑)。
佐藤 逆に、どんなタイプの芝居にも、共通して使えてる筋肉ってあるんですか。
横田 「人前に立つこと」かなあ。お客さんと関係を作るっていうスタンスは一緒ですね。現場によって、その度合が違う感じ。あとは、テキストに隠された秘密をひたすら検証する。……すっげえ抽象的だ(笑)。
――筋肉を使い分けるというよりは、その都度ゼロから没入しなおす感じ?
横田 うーん……たぶん僕が、ジャニーズとかと共演するような仕事をして、そのすぐ後に「新聞家」に出たら、「ゼロ」から「没入」することになるんだと思います(笑)。でも『友情』からの「ヌトミック」っていうのも、それこそすごいギャップじゃないですか。
菊地 そうですね。自分で意識的に変化しようとしなくても、現場へ行けば否応なく変わってしまうという感じでした。
深澤 私は、映画美学校に来るまでは、鎌田さんの作品を観たことがなくて。みんなでDVDで作品を観た時に「……これやるんだ……」っていう感じがありました。
菊地 独特の空気が流れましたよね(笑)。
深澤 うわあキツいな!って最初は思ってたんですけど、でも稽古が始まって、世界観がわかってくると、どうにか面白い方向へ持っていきたいから、自分でシフトチェンジするんですね。ある時点で「面白いじゃん、これ」って思えた瞬間があって、そこからは、すっごい楽しかった。めっっっちゃ楽しかったです(笑)。「面白くない」と思っていたものを「面白い」と思えたという経験というのが、その後もずっと心にありますね。とにかく、否定的になるのはやめようと。今の自分にはわからない世界も、違う方向から見たら絶対面白いし、その可能性を捨てたくない。そう思えるようになったのは、あの修了公演があったからだと思います。自分の近辺では絶対に出会えなかったであろう人と出会って、一緒にお芝居を作る。そういう機会をいただけて、考え方が変わりましたね。
山内 そのへん、「犬など」の現場はどうなんですか。
佐藤 どうなんでしょう……僕、去年の11月頃に「バストリオ」に出たんですけど、作り方としてすごくリスペクトできたんです。語弊を恐れずに言うと、「こういう作り方をすれば一生作れる」と思いました。稽古場で、俳優にテーマを与えて、そういう場面を作ってもらう。それを組み合わせたり、間にテキストを挟んだりするのって、僕から見ると「編集作業」に近いなと思って。撮影素材を俳優から集めて、演出家がそれを編集している――なんて言ったら今野裕一郎さんは心外かもしれないんですけど――。今野さんは、ずっと作り続けられる作り方を選んでいるなと思ったんです。なので、その現場に影響をうけています。
「犬など」が始まった時点では、大学の仲間同士の集まりで、「俳優」を専門とする人はいない状態でした。なので稽古場は、全員が舞台の外側から考えてしまって、舞台上から考える人がいないという感じで。それで、このフォーメーションだと煮詰まっちゃう感じがあったので、『レーストラック』では「俳優」として関わってくれる人がいた方がよいと思い、菊地さんも含めて二人の方に声をかけました。
『レーストラック』の現場は、最初にテキストがあるんじゃなくて、まず「図」というか、このお話が扱う出来事の「構造」があって。誰々さんは、ここからここまで向かいます。誰々さんは、回りながら登場します。その、ここからここまでを舞台上でやります。っていう説明をみんなにまずしました。それから、それに応じたテキストを渡していくんです。
で、菊地さんとの稽古場での作業としては、テキストを身振りに起こしてもらいます、その身振りからもう一度テキストを起こします、ということをやっていました。この動きに沿った、別のテキストを作っていくという。
山内 そのテキストは、どうなったの。
佐藤 もう一度、さらに別の動きにしてもらいました。
山内 おおっ……(笑)。
佐藤 そういう翻訳を何パターンか繰り返したら、どうなるんだろうみたいな興味があって。それを試しながらやっていると、良し悪しを保留にしたまま次へ進むみたいなことが、往々にして起きるんですね。
山内 「良し悪しを保留」っていうのは、もうちょっと具体的な言葉になる?
佐藤 そのテキストに対してその動きが合っているかどうかの判断が難しい、という感じです。テキストを書く時に、ある程度の予想があって書いている部分もあるんですが、それをそのままやらせることが得策なのかどうかは、別問題で。だから稽古場では、みんなにいろんなことを遠回しに言っていたと思うんですけど。
横田 遠回しに言うっていうのは、俳優から出てくるものを待っていたということですか?
佐藤 「これから30分間で、このテキストを一度、動きに起こしてみてください」みたいな。
横田 ちっちゃなギブアップみたいな(笑)。。
菊地 たぶんここでは「私から出てくる動き」が求められているんですよね。「佐藤さんはこういう感じを望んでいるだろうからそのようにする」っていうことは、していなかった。そして、私たちが作ったシーンを発表すると、佐藤さんはそれを映画のように観ているんです。カット割りとか、編集点を探している。
佐藤 俳優に動きを作ってもらう理由として、「テキストが語っている情景がバラバラなので、それを動きでつなぎに行ってください」っていうオーダーをしていました。もはや、意気込みの次元なんですけど(笑)。そしてそれがつながっているかどうかの判断と、微調整をさせてもらうっていう。
山内 演出家からそういうオーダーをされたらさ、あっちゃん(菊地)の中でも何らかの言葉が働くよね。
菊地 動きの根拠みたいなことですか。それは、ありますね。
佐藤 僕も、なぜその動きになっているかを、なるべく聞くようにしてました。いい悪いの判断にはならないんですけど、知っておかないと何も言えなくなるので。
菊地 そこを共有するために、自分の中でもなるべく言葉にする習慣がつくので、それが舞台に立つ時の骨になっていました。
横田 お客さんからどう見えるか、っていうのはどんなふうに作用しているんですか。
佐藤 うーーん……つまり、菊地さんの中ではある理由があってその動きをしているんだけど、お客さんから見たら、そう見えない。っていう場合についてですよね。
菊地 たぶん、そこが一致することを、ゴールにはしていないんだと思います。
佐藤 公演をした目黒という土地には、昔、競馬場があったんですよね。その跡地に、今も一本だけ残っている木があるんです。その状況を借りて、別々に出てくる登場人物が、それぞれ違った方法で木と関わっている、みたいなことをやろうと思いました。最初に僕が、目黒駅から木までの道のりを演じたり。かつて目黒競馬場で行われていたレースを引き継いだ、府中競馬場についての描写を演じる俳優もいたり。だから、みんなモノローグなんですよ。会話劇ではないんです。
横田 僕は公演を観ましたけど、同じ空間に人の登場人物が存在するシーンもありましたよね。あれも、会話ではないんですか。
佐藤 「会話劇にも見えるかも」ぐらいの感じです。
菊地 そう見えても、いい。っていうことですよね。
佐藤 でも、違うかもしれない。……くらいの感じにする必要はあった。かつて存在したけれど今はない場所を描くので、それぞれが別々の場所や時間にいる感じは残さないといけないと思ったから。
横田 映像作品を観ている感じがありました。それぞれの情景に、同じ木が出てきて、これらは同じ場所なのかなあって、だんだん感じさせるというか。
山内 面白い! 観たような気持ちになっちゃった。
一同 (笑)。
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