映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

アクターズ・コースが超えるボーダー 〜アート系「現代演劇」をゆく修了生座談会〜【3】

9月より開講するアクターズ・コース 俳優養成講座2017。「アクターズ・コースが超えるボーダー 〜アート系「現代演劇」をゆく修了生座談会〜」をお送りしています。

最終回は、果たして俳優って何!?というところまで踏み込んでいきます。

それではどうぞ!

 

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「俳優」って何なんだろう

 

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佐藤 自分も「俳優」をやるので、創作したり演出したりするときは、どうやって俳優に楽しみを残せばよいか、っていうことは考えます。ガチガチに縛りを固めることもできるじゃないですか。生身の人間同士で演劇を作っているのに、一歩間違えると「別に君は生きてなくていいよ」「死んでていいよ」みたいなことになってしまいかねない。

 

菊地 いろんな試行錯誤をする中で、そこに一番、意識が注がれる感覚がありました。何よりも、お客さんが必要だった。モノローグなので、誰かが観ててくれないと、私たちがやっていることは成立しない。

 

横田 映像の前で、人がモノローグをしゃべっている。アップルのジョブズがやっていたような、「プレゼン」感がありましたよね。

 

佐藤 僕がやっていた役は特にそうだったと思います。

 

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山内 最近、よく聞くじゃない。プレゼン型のパフォーマンスって。その場合のプレゼンターは、目の前のお客さんと関わらなきゃいけないですよね。相当「よっこらしょ」が必要だなあと、僕は思っているんだけれど。

 

佐藤 そうだと思います。

 

山内 それが「聞き手が誰であっても構わないプレゼン」になっちゃうと、すごくどうでもいい空間になっちゃうでしょう。俳優としてそこに立つとなったら、すごい腕力が必要。

 

佐藤 そこが、課題でもあるんです。そういう意見を、言われたりもしたし。だから『レーストラック』の、ぼくがプレゼンする部分では、「正直に話す」みたいなことしかやれていないかもしれません。演技とは別次元の話になっちゃうんですけど。

 

山内 「正直」も何も、そのことをプレゼンする熱意は、そもそもどこから生まれるの?

 

佐藤 上演場所には収まりきらないサイズの風景が、昔は存在したけれど、今はここにない。それを今、ここに出現させたいんですっていうモチベーションがありました。僕の役柄にとっては本当に大切な思いなんですけど、でも、お客さんにも同じくらい、その大切さを感じてもらえるための工夫が、足りなかったと思います。

 

山内 難しいよね。お客さんとじかに向き合う演劇は、僕もよくやるんですけど、ある程度の具体性というものを無視すると、とんでもないことになってしまう。そう考えると、今、さとしゅんが言った「正直さ」というのは、すごく率直な言葉だね。

 

佐藤 「皆さんにとってはどうでもいいことかもしれないけど、僕にとってはすごく大事なので、ちょっと今だけ聞いてもらえないっすかね……」っていう感じでした。

 

――他の皆さんは、「演じる」上でのモチベーションは、どういう時に湧いてくるものですか。

 

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菊地 まだやったことのないことをこれからやるんだ、っていう時。まだ知らない自分を知れるかもしれないという期待感ですかね。

 

横田 僕らはお客さんよりも先に、その作品のことを知っていて、稽古場で試行錯誤するじゃないですか。その中で自分が選び取った選択肢を、はっきりとお客さんに提示できた時です。……いや、「提示できた」はおこがましいか。お客さんに伝わったかもしれない、って思えた時に、ちょっと気分がアガる気がします。

 

深澤 これは、今の私の悩みでもあるんですけど。私、「犬など」のあっちゃんを観ていて、ダンサーに見えたんですね。俳優とダンサーって、共通している部分もあるけど、違うと私は思っていて。俳優には、たしかに身体能力は必要だけど、じゃあ何でもできる人が「俳優」なのかって言われたら、自分は「俳優」ではない、って思ってしまう。ダンスはダンサーの領域だけど、だったら俳優の領域ってどこなんだろうと。「これができるから、私、俳優」みたいなことが、最近、わからないんですよ。みんな、何をもってして「俳優」を名乗れるのかな。

 

菊地 それは、私も気になっていることです。どんな些細な身体の動きも、「ダンス」になり得る。

 

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深澤 誰もがやっている日常的な動作の中で、何か面白い動きが発見されて、不器用ながらそれを繰り返すことをも「ダンス」と呼べるのなら、じゃあ「俳優」はどうしたらいいのかな、とか。どんな仕事が来るのかわからないのだから、ダンサーの人たちみたいにしなやかに身体を動かす訓練も積んでおかないと、「俳優」としては未熟なのかな、とか。じゃあ「完璧な俳優」になるには何を備えておくべきなのかな、とか。どうなんですかね。俳優って、何なんですか?

 

一同 おお(笑)。

 

深澤 「犬など」であっちゃんがしてたような動きは、ダンスをやっている人じゃないと難しいと思うんですよ。ダンスをやってきた人が編み出す動きと、「やったことないけど動いてみよう」っていう人が編み出す動きは、やっぱり違うと思うんですね。例えば稽古の段階で、ダンサー脳が働いている時間と、俳優脳が働いている時間が、たぶん両方あったんじゃないかと推測するんです。

 

佐藤 役柄の有無ってことではなくて?

 

深澤 最近、特に、身体の動きを求められている気がするんですよ。日常的な動作ではなくて、ちょっと抽象寄りの、「身体表現」と呼ばれるような。行動やせりふだけじゃなくて、身体すらも表現のひとつだ、というような。そういう場において、「俳優」はどう機能するんだろう。「俳優」かつ「ダンサー」な人じゃなきゃできないことなのかな。……っていうことを考え始めると、結局「俳優って何だろう?」になっちゃうんですよ。何ができたら「俳優」なの? どこからどこまでが「俳優」なんだろう。

 

山内 コンテンポラリーのダンサーは、「ソロ」をやるよね。自分で作って自分で踊る。でも俳優で「ソロ」をやる人って、あんまりいない気がする。作・演出家を、誰か立てるよね。

 

菊地 ダンサーの活動もある5期の秋元ふせんさんが、ソロ作品を作って公演していましたけど、「これはダンス公演です」「演劇です」っていう言い方はしていなかったと思います。

 

山内 すごく気になっているのは、「俳優」って、「アーティスト」なのかな 「演劇」って「アート」なのか、っていうのと同じ話なのかもしれないけど。

 

菊地 どうなんでしょう。「アーティスト」に対する憧れはあります。

 

山内 「犬など」は……やっぱ演劇なのかな。

 

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佐藤 いや、わかんないっす……まだもうちょっと模索したいかな……

 

山内 最近の私の中間報告を言うと、演出家には、客席と舞台をつなぐっていう役割が確実にあると思うんですよ。でもね、俳優が観客とどうつながりたいのかという意志を持てば、それはすでに「演出」なんじゃないか。っていうようなことを最近考えていて。自分はどうつながりたいのかと、自分がどうつながっているのか、演出家がそれを見る目は、そんなに変わりがないというか。俳優がコンセプトセッティングに関与したら、それは「アート」と呼べるのかなという気がします。

 

横田 ……そもそも、なんでダンサーってしゃべらないんですか。

 

山内 いや、今、すごくしゃべるよ。しゃべらないコンテンポラリー・ダンスの方が少ないんじゃないかな。

 

一同 へえーー!

 

山内 「しゃべる」って、誰でもやってることじゃない? だから俳優と全然違わないと思う。

 

深澤 違わないのか……違わないのかな。

 

山内 さっきしほさんが言ったように、「しゃべるのは俳優の仕事なのだから、ダンサーがしゃべっちゃいけないんじゃないか」って思ってるダンサーも、いるかもしれないよね。

 

横田 書かれたものを舞台上でしゃべったら、それはもう俳優なんじゃないですか。

 

深澤 「素人性」ってあるじゃないですか。訓練された俳優ではない人が、出たりしゃべったりする面白さ。その人は、舞台に上がった瞬間、すでに俳優なんですかね。俳優って、誰でもなれちゃうの?

 

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横田 僕は、誰でもなれると思う。

 

佐藤 「犬など」の活動をはじめた当初は、出演も仲間内でやっていました。ただ、そのときに、誰でもやれることだけど、その人がやるとその人でしかありえなかったようなことをやる人はいて、――言葉の選び方が難しいけど――「この人、出れるな」っていうのはあって。「観れるパフォーマンスができる人だな」というような。

 

山内 「観れるパフォーマンス」(笑)。

 

佐藤 そのときその人は、「俳優」だと言えると思います。作ったものは、やる内容よりも「見せ方」があまりにも前面に出すぎで、「巧さ」が重要ではなくなっていたけれど。深澤さんが今、俳優とダンサーについて考えていることって、「俳優の技術とは何か」っていうことのように聞こえたんですけど、僕も横田さんと同じで、誰でも俳優になりうると思います。「巧さ」を求める現場もある一方で、「巧さ」が作品特有の、その作品以外では「巧く」もなんともなくなってしまう現場がいっぱいあるから困っちゃうよねっていう話というか。

 

一同 (笑)。

 

菊地 作る側にいても、困っちゃいますか。

 

佐藤 作ってる時は、どういうモチベーションで参加してもらえるかなっていうことに迷います。「巧さ」が問いづらい価値観をこれからここに持ち込みますが、皆さん楽しめますかねっていうような。もちろん、楽しいと思ってるんですけど。

 

深澤 ああ、でも今、話を聞きながら、私は何か、つかまりどころが欲しかったのかもしれないです。俳優としての自分の存在を裏付ける何か。それは「誰かに認められたい」っていう欲求なのかもしれない。

 

山内 ……よし、じゃあ、そろそろ未来の話をしようか。

 

一同 (笑)。

 

――映画美学校での経験は、皆さんのこれからの日々に、どう作用していくでしょう

 

菊地 映画美学校を修了してから「犬など」に参加するまでの年以上、私はずっと自主映画などに出ることが多かったんですね。ここで出会った、フィクション・コースの人たちとか、他のコースの人たちとも、ご縁がずっと続いていたんです。なので今後も、そのご縁は大事にしていきたいですね。

 

山内 今は一番、何がしたいの?

 

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菊地 演劇をやりたいです。生のパフォーマンスを見直したい。「犬など」の初日に「あっ……人前で演じるって、こんな感じだったか」っていう衝撃があったんですね(笑)。私自身は、自分の「フィールド」みたいな感覚はなくて、ご縁があったところや気になっているところに向かって動いている感じだったんですけど、その初日の体感があまりにも強烈だったので、もう一度取り戻したいという思いがあります。

 

佐藤 僕は、続けていきたいことが3つあって。まず、「犬など」でやっているような創作活動。それと、面白いと思えるものを作っている人の作品に、出演しながら関わりたい。3つめは、演劇とかパフォーマンスの記録映像の仕事ですね。一度きりの出来事をどう記録するかということと、自分がやっている創作活動とは、とても関わりがあるので、その3つを重ねていきたいという感じです。

 

――その3つが明確になったのは、映画美学校での日々より後ですか?

 

佐藤 そもそも、大学に入学した時に僕は、映画を作りたいと思っていて。東京に出てきて、友だちの自主映画に参加したりするうちに「演技ってどういうことなんだろう」ということを考え始めた。「作りたい」という気持ちと「演じるって何だろう」という気持ちの両方を抱いていたんですね。それで、この学校に入ったのが、2011年。それ以降、ここで出会った人たちとのつながりが、ずっと残っているんですよね。こんなに残るかと思うくらい。

 

山内 あなたがつなげているんですよ(笑)。

 

佐藤 このつながりの先で、3つの活動を続けていきたいなというのが、現時点での未来予想図という感じです。

 

横田 僕は、海外公演のある演劇に出たいですね。

 

――なぜ?

 

横田 「なぜ」??

 

山内 考えてなかったか(笑)。

 

深澤 でも確かに、海外、行きたいですね。単純に。海外の空気とか、触れてみたい。

 

横田 そう。日本語を知らない人の前で、芝居してみたい。

 

深澤 私は今、映像の方に興味があるんです。最近は舞台出演が多かったんですけど、フィクション・コースの方からお声がけいただいて、ウェブCMに出たんですね。そこで、舞台公演との、空気の違いをすごく感じて。しかも出来上がってきたものを拝見したら、現場の空気とはまるで違って、すごく素敵に出来上がっていて……いや、現場の空気が悪かったわけではないんですけど。

 

一同 (笑)。

 

深澤 この夏は、演劇みたいに作られたお芝居をVRカメラでワンカットで撮るっていう企画に参加することになっているので、これからも相変わらず、変な企画にいっぱい出たいなと思います(笑)。

 

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菊地 ここにいると、「自分は演劇の人」「映像の人」みたいな感覚が薄れていきますよね。

 

深澤 そうそう。映画美学校に在籍していたのは半年間という短い期間でしたけど、ほんっとうに来てよかったと思っているんですよ。今までずっと疑問に思っていたことの、答え合わせができたというか。

 

菊地 現場で迷った時に思い出すのも、映画美学校で学んだことです。

 

深澤 あと、外の現場で感じるのは、「あ、ビガッコーの人だ」「ああ、アクターズの人か」っていう認識が、だんだん周知されていっている気がして。これがこのまま、広がっていけばいいなあと思いますね。

 

山内 今、つながりたい人、気になってる人はいる?

 

菊地 私は、清原惟さんですね。

 

佐藤 僕もです。『わたしたちの家』も『ひとつのバガテル』も、めっちゃめちゃいい映画だった。出たいな、って素直に思いました。

 

深澤 私は、「サンプル」を終えた松井周さんがこれからどうなっていくのかがとても気になります。

 

山内 気になるねえ! 劇団を休止して、いよいよガチでポストモダンが始まる、そんな予感がするね。

 

佐藤 あと、濱口竜介さんの新作もすごく気になります。『寝ても覚めても』。

 

山内 気になるねえ。くやしいね、ああいうところにキャスティングされないと(笑)。

 

横田 僕は……(長考)……すみません、思いつかないです。すごいプレッシャーだ。

 

一同 (笑)。

 

深澤 私は、横田さんがお芝居で、正面切って「君が好きだ!」とか言ってるところをすごく観たい。

 

横田 うん。正面切って、ちゃんと人に何かを言ってみたい!

 

一同 (爆笑)。

 

山内 今日は、とてもうれしかったです。話したかった人たちと、話したかった話ができて。また、どこかで会いましょうね。会うでしょう、きっと!(2017/07/06)

 

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