映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

総合プロデューサー暇つぶし雑記(その10・最終回)/井川耕一郎さんより

今回は映画美学校アクターズ・コース「映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座2017」主任講師である井川耕一郎による総合プロデューサー暇つぶし雑記(第10回・最終回)をお送りします!

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フィクション・コースの講師として長年映画美学校に携わって来た井川さん。

その井川さんがアクターズ・コースの主任講師として、新鮮な目で受講生を見守っていた記録──

それではどうぞ!

 

 

 

前回書いた2月15日の稽古の続き。

休憩が終わって地下スタジオに戻ってきた演出の玉田真也さんがアクターズ・コース生に訊いた。みんな、青年団の『S高原から』のDVD、見てる?

モノマネになってしまうのを恐れてなのか、DVDを見ていないひとがほとんどだった。

すると、玉田さんが言った。

DVD見て、すっげえ面白かった。稽古のとき、みんなによく「台詞の間を埋めてくれ」「背景を埋めてくれ」と言うけれど、それがどういうことなのかが具体的に分かると思う。

玉田さんの話を聞いて、アクターズ・コース生たちは自主稽古のときにDVDを見ようということになった。

 

稽古再開。芝居を区切りのいいところまで見てから、玉田さんが指示を出し、もう一回やり直すを11回くりかえしながら、4・2・2から4・2・3の途中まで。

それから、最初に戻って1・1・1から1・3・2の途中までを15回やったところで、16:10に二度目の休憩。

石山優太くんが芝居で使う子ども向けのなぞなぞの本を声に出して読み、それに高羽快くんが答えていると、釜口恵太くん、豊島晴香さんが加わり、小道具のベルを早押しボタンがわりにして、クイズ大会となった。

石山くん「太郎くんがポポポと言って外に出かけました。何しに行ったのでしょう?」

釜口くんがベルを鳴らして、「散歩」と答えた。石山くん「正解」

豊島さんが、えっ、どういうこと?と納得がいかない顔をしているので、釜口くんが説明する。「ポが三つ。一歩、二歩、三歩で散歩」

そこに高橋ルネさんが参戦。立て続けに早押しで正解を答え、釜口くん、高羽くんから「クイズクイーンだねえ!」と賞賛される。

石山くん「次は、妖怪クイズ。大きな紙を持っているやつは何でしょう?」

釜口くんが「一反もめん」と答えたが、不正解。

そのとき、小林未歩さんがお菓子を食べながらひょいと手を伸ばし、ベルを鳴らして言った--「オオカミ」。

石山くん「正解」

まだ一問も答えられない豊島さんが口を開いた。「おかしいよ! オオカミは動物でしょ。妖怪じゃないじゃん。それが正解なら、アニマルクイズだよ」

石山くんが「そんなこと言われたって、本にそう書いてあるんだからさあ」と言い訳して、次のクイズを読んだ。「じゃあ、アニマルクイズ。元気よくあいさつするライオンはどんなライオン?」

高羽くんがベルを早押しする。「オス」

石山くん「正解」

またしても豊島さんが文句を言ってきた。「そんなの、ライオンでなくてもいいじゃん! オオカミだっていいでしょ。石山くん、クイズを選ぶセンスがないよ」

石山くん「そんなこと言われたくないなあ」

豊島さんと石山くんのくだらない言い争いをまわりは笑いながら見ている。

みんな、いい年して何やってるんだ、と言いたいところだが、でも、この明るさがあれば、今、直面している演技の壁も乗り超えることができるかな、と思った。

稽古は16:30に再開。4・2・3から4・3・3までを8回やって、17時に終了。

玉田さんがテーブルの上を見て、置いてあるものが多いので整理しないと、と言う。雑誌はマガジンラックに入れることになり、お菓子は存在感があまりなく、袋に入っていないものとなる。

 

2月18日(日)・稽古13日目。

13:30頃、地下スタジオに入るとちょうど休憩中で、田端奏衛くんが気づいて、差し入れだ!とうれしそうな顔をした。まるで、エサがもらえると分かったときの犬みたいだ。

湯川紋子さんにアメ横で買ってきたドライフルーツなどを渡しながら、稽古や本番で使うお菓子の分量としてこれで足りるかな、と尋ねると、無理ですね、と即答された。休憩中にみんなでつまみ食いして一週間も持ちません。

制作・照明の井坂浩さん(青年団)、美術の谷佳那香さん、衣装の根岸麻子さん、講師で修了公演監修の兵藤公美さんが来て、13:50に通し稽古がスタート。

古見学できなかった場面もこれでやっと見ることができた。

通しは88分で終了。玉田さんが井坂さんに、本番は90分くらいになると思う、と言って、みんなを集めて、一つ一つの場面を検討していった。

座るタイミングなど動作に関する細かい指示がいくつもあったけれど、重要な場面についての検討は次のとおり。

釜口くん演じる患者・村西が、豊島さん演じる見舞い客・大島と二人きりで話す場面(1・4・1~1・4・4あたり)--釜口くんが豊島さんと会うのはひさしぶり。楽しみにしていたという特別感がほしい。けれども、実際に二人きりになると、照れてぎこちなくなってしまう。たとえば、「俺は飲んじゃいけないんだよ、コーヒーは」という台詞は余計な一言を言ってしまったという感じで。それから、豊島さんは最初から気まずい感を出し過ぎているので、抑えて普通に。

高羽くん演じる患者・西岡と神田朱未さん演じる見舞い客・上野が話しているところに、加藤紗希さん演じる患者・前島がやって来る場面(2・4・2~2・4・3あたり)--高羽くんが加藤さんを意識しながらサナトリウムでの生活を話すところでは、神田さんの居づらさが大事。神田さんが高羽くんに、そういえば、顔が日焼けしているよね、と言うときには、高羽・加藤の輪の中に入ろうとする感じがほしい。神田さんは高羽・加藤・神田の三人でしゃべっている空間に何とかしようとする。

田中祐理子さん演じる佐々木が大島(豊島さん)の代理として、釜口くん演じる村西にショッキングなことを伝えにくる場面(3・4・1~3・4・2あたり)--前半、釜口くんは田中さんから聞いたことにショックを受けるけれど、一度それを飲みこんでから、自分の気持ちをぶつける感じで。だから、釜口くんはもっと間を使ってもいい。田中さんは後半、釜口くんのリアクションをきちんと見て、分かります……という感じで話す。言葉を探しながらになるので、田中さんは後半でもっと間を使った方がいい。

那木慧くん演じる茂樹が、妹で患者の貴美子(那須愛美さん)のことで、長椅子に横になっている患者・福島(演じるのは石山くん)に話しかける場面(4・4・1あたり)--妹にちょっかいを出さないでくれと言うときの那木くんは、石山くんに対して怒り過ぎている。怒りを抑えつつ、それでも怒りが漏れ出る感じで。

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玉田さんがアクターズ・コース生に言ったことは、なるほど、そうすべきだろうな、と納得できるものだったけれども、通し稽古を見て楽しかったのもたしかだ。

たとえば、高羽くん演じる西岡と神田さん演じる上野が二人きりで話しているところに、那須さん演じる患者・貴美子がやって来る場面(2・4・1)。

ここは台本には三人の台詞しか書かれていないけれど、高羽くんが長椅子の上にあったサッカーボールをふと手に取って投げ、那須さんとの間でボールが何度か行き交うというふうになっていた。

これだと、那須さんが「西岡さんって変な人ですねえ」と言い、神田さんがそれを受けて「東京いるときから、変でしたから」と言うのに無理がない。ちょっとした工夫だけれども、玉田さんは演出がうまいなあ、と感じたところだ。

また、高羽くんが那須さんにボールを投げるためには、それ以前の場面で誰かがボールを長椅子の上に置かなくてはいけない。その役を受け持ったのが田端くんで、何気なくボールで遊びながらしゃべる姿が実に田端くんらしい。玉田さんは戯曲に忠実でありながら、なおかつ役者一人一人の個性を生かした演出をしている。

それから、客演の木下崇祥さん(医師の松木役)、川井檸檬さん(患者の本間役)がよかったのだった。二人とも独特の味わいのある演技で笑わせてくれる。きっとアクターズ・コース生たちにはいい刺激になるだろう。

制作の井坂さんはこの日のツイッターに次のように書いている。

「S高原の通しを観たのさ。玉田演出の「S高原から」って感じです。偉いもんです。あとキャスティングがいい。注目してほしいっす」

 

美術・衣装に関する打ち合わせがあって、この日の稽古は終了。

帰る前に、本荘澪さんに声をかける。

本荘さんの役は看護師の川上。ベルの音を聞いて面会室に来たのに、釜口くんに、ジュースを頼もうと思ったんですけど、もういいです、と言われてからのリアクションがおかしかったのだ。

本荘さんが怒りを一度飲みこんで、にっと笑ってから暴発する芝居、笑ったなあ、と言うと、本荘さんは、本当ですか、とうれしそうに笑った。

でも、ベルを連打するところ、手がすっごく痛いんですよ。

そう言って見せてくれた掌の真ん中あたりには、まだちょっとだけ赤い痕が残っていた。

 

おっと、長々と書いてしまった。

急ですが、このあたりで雑記を終えることにします。

今、アクターズ・コース生たちは学校の地下スタジオからアトリエ春風舎に場所を移し、本番に向けて稽古をしているところ。

「あの役者、いいなあ!」「こんな役者、いたんだ!」という驚きというか発見のある舞台になるだろうと思います。ご期待下さい。

 

(終わり)

 

 

井川耕一郎(映画監督・脚本家)

1962年生まれ。93年からVシネマの脚本を書きはじめる。主な脚本作品に、鎮西尚一監督『女課長の生下着 あなたを絞りたい』(94)、常本琢招監督『黒い下着の女教師』(96)、大工原正樹監督『のぞき屋稼業 恥辱の盗撮』(96)、山岡隆資監督『痴漢白書10』(98)、渡辺護監督『片目だけの恋』(04)『喪服の未亡人 ほしいの…』(08)やテレビシリーズ「ダムド・ファイル」などがある。最新作は監督も務めた『色道四十八手 たからぶね』(14)。映画美学校では、コラボレーション作品として『寝耳に水』(00)、『西みがき』(06)を監督している。他、編著書として、高橋洋塩田明彦と共同編著した大和屋竺シナリオ集「荒野のダッチワイフ」(フィルムアート社)がある。

 

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映画美学校アクターズ・コース 2017年度公演
「S高原から」
作・平田オリザ 演出・玉田真也(玉田企画)

【玉田真也(玉田企画 / 青年団演出部)】
平田オリザが主宰する劇団青年団の演出部に所属。玉田企画で脚本と演出。日常の中にある、「変な空気」を精緻でリアルな口語体で再現する。観る者の、痛々しい思い出として封印している感覚をほじくり出し、その「痛さ」を俯瞰して笑に変える作品が特徴。

出演:石山優太、加藤紗希、釜口恵太、神田朱未、小林未歩、髙羽快、高橋ルネ
          田中祐理子、田端奏衛、豊島晴香、那木慧、那須愛美、本荘澪、湯川紋子
        (映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座2017)
          川井檸檬、木下崇祥

舞台美術:谷佳那香、照明:井坂浩(青年団)、衣装:根岸麻子(sunui)
宣伝美術:牧寿次郎、演出助手:大石恵美、竹内里紗
総合プロデューサー:井川耕一郎
修了公演監修:山内健司、兵藤公美、制作:井坂浩

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公演日程:2018年2月28日(水)〜3月5日(月)

2/28(水)19:30~
3/1  (木)19:30~
3/2  (金)15:00~ / 19:30~
3/3  (土)14:00~ / 19:00~
3/4  (日)14:00~ / 19:00~(追加公演)
※追加公演のチケット発売開始は2/22(木)お昼12時から
3/5  (月)15:00~
※受付開始は開演の30分前、開場は開演の20分前
※記録撮影用カメラが入る回がございます。あらかじめご了承ください。 

チケット(日時指定・全席自由・整理番号付)
前売・予約・当日共
一般 2,500円 高校生以下 500円
資料請求割引 2,000円 

※高校生以下の方は、当日受付にて学生証をご提示ください。
※未就学児はご入場いただけません。
※資料請求割引:チケット購入時に映画美学校の資料を請求してくれた方に500円の割引を行います(申し込み時に資料の送付先となる連絡先の記入が必須となります)。

チケット発売開始日 2018年1月8日(月・祝)午前10時より

<チケット取り扱い>
CoRichチケット! https://ticket.corich.jp/apply/88312/

<資料請求割>
映画美学校の資料を請求いただきました方は当日2500円のところ、2000円で鑑賞いただけます!
下記よりお申込みください。お申込み後、映画美学校より随時学校案内などの資料をお送りいたします。

映画美学校アクターズ・コース資料請求割引申し込み専用フォーム 

会場
アトリエ春風舎
東京メトロ有楽町線副都心線西武有楽町線小竹向原」駅 下車
4番出口より徒歩4分
東京都板橋区向原2-22-17 すぺいすしょう向原B1
tel:03-3957-5099(公演期間のみ)
※会場には駐車場・駐輪場がございませんので、お越しの際は公共交通機関をご利用ください。

お問い合わせ
映画美学校
〒150-0044 東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS B1F
電話番号:03-5459-1850 FAX番号:03-3464-5507
受付時間(月ー土) 12:00-20:00