映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

修了生トーク(4)長谷川佳代さん(第3期修了生)、大石恵美さん(第4期修了生)、市川真也さん(第4期修了生)

7月19日の修了生トークには、長谷川佳代さん(第3期修了生)、大石恵美さん(第4期修了生)、市川真也さん(第4期修了生)が登壇。

第3期作品『どきどきメモリアル』と、第4期修了公演『石のような水』の記録映像(編集版)上映後、中川ゆかりさん(第1 期修了生)を司会に、入学前のこと、在学中のこと、これからのことについて、話を聞きました。

 

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(左から、長谷川佳代さん、大石恵美さん、市川真也さん)

 

映画美学校に入ったきっかけ

中川 皆さんは、どんなきっかけで入学しましたか?

長谷川 私は会社に勤めながら、地元にある社会人の演劇サークルに入って2、3年が経っていました。でも舞台に立った経験は1度だけで、その公演が終わって劇団が解散するときに、よくお芝居を観に行っていたアゴラ劇場で映画美学校のチラシを目にして、働きながら通えそうなスケジュールだったので入りました。

中川 小田原から通っていたんですよね。

長谷川 はい、新幹線で。

中川 かなりきついスケジュールだったと思います。

長谷川 そうですね。頑張って通いました。

中川 大石さんは?

大石 私は、大学4年生のときにここに入りました。もともと映画制作をしていて、カメラを回して俳優を撮る側、俳優に演出を付ける側でした。俳優がどういう気持ちで演じているのかを知りたかったんです。

中川 俳優側のことが気になったんですね。市川さんは、『石のような水』でもギターを弾いていましたが、音楽活動をしていたとか。

市川 はい。もともと、シンガーソングライターになろうと思って東京に出てきたんです。それからずっと、今もライブハウスなどで演奏しています。

中川 演劇をしようと思ったきっかけは?

市川 ある時出たライブの企画制作をしていたのが、たまたま元劇団四季の人で、「芝居に興味ない?」と声を掛けてくれたんです。「はい、ぜひ」と答えて、その人の演出したテネシー・ウィリアムズ作の『ロンググッドバイ』に出たのが、初舞台、初主演でした。それから今日まで続けています。

中川 それはいつ頃のことですか?

市川 2010年くらいです。

中川 5年くらい前に初めてお芝居をやってみて、音楽も並行して続けていたんですね。映画美学校に入ろうと思ったのは?

市川 どうにかして表舞台に立ちたいと思っていたんです。芝居と音楽を続けながら、どちらもオーディションを受けていたんですが、最終的には落ちていました。だから、ちゃんと学ぼうと思ってこの学校に入りました。履歴書に「映画美学校修了」と書けるのも、助けになるかなと考えました。この学校は、同じバイト先の俳優志望の人に教えて貰い、ガイダンスに来てみて決めました。

 

学んだこと

中川 映画美学校は俳優が俳優を教える授業があるのが特徴です。教わった中で、これは自分にヒットした、糧になった、ということはありますか?

長谷川 俳優講師の山内健司さんの、街へ出てインタビューをする、という授業がありました。山内さんは「個人的な問いを立てる」とおっしゃっていたのですが、その意味が私にはなかなかわからなかったんです。私がインタビューをした若い女性は、見た目の印象と話していることにギャップがあり、私はそれが気になっていたのですが、発表する前日にやっと、ああ山内さんの「個人的な問い」とはこういうことか、としっくりきた瞬間がありました。

 

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(映画『どきどきメモリアル』左から藤井治香さん、酒井進吾さん、長谷川さん)

 

中川 その授業は1期からずっと続いていますね。街の人の話を聞いて観察をして、自分の演技に反映していくような作業をします。一方、さきほど上映した、映画監督講師の古澤健さんの作品『どきどきメモリアル』は、衣裳も奇抜で、タイムマシンなども出てくるフィクション性の高い作品ですよね。

長谷川 そうですね。映画を全然知らなかったので、リハーサルはあっても、演劇のような稽古はないし、下から扇風機を当てたりして撮影しながら、これどうなるんだろう、これでいいのかな、と戸惑うことも多かったです。

中川 このスタジオで撮っていましたね。

長谷川 はい。できあがってみると面白くて、音楽も良くて、タイムマシンのシーンなどもすごいな、やって良かったなと思いました。

 

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(『どきどきメモリアル』撮影風景。後列は佐々木亮さん)

 

中川 3期の修了公演は、田上豊さん作・演出の『美学』で、当て書きの作品でした。4期生も同じように古澤さんの短編映画の授業があり、それから修了公演は、松井周さん演出、松田正隆さん作の『石のような水』でした。印象に残っていることはありますか?

大石 『石のような水』は当て書きではなく、もともとあった戯曲でした。私は夫婦の役で、自分と役は全然違うし、セリフも今こうして話している感じとは違うものでした。さきほど長谷川さんと中川さんのお話にもあった山内さんの授業は、インタビューをしてその人が話したことを書き出し、それを自分がどう演じるかという授業です。実在の人を演じる、実在の他人の言葉を話すというのは、やってみると、戯曲で書いてあるセリフよりも遠くに感じるんです。「この他人をどう演じるか」となったときに「この人の通りにやる」というのは無理です。結局、「私が、演じる」というのは「その人を、私がどう見たか」「その人に対して、私がどうアプローチしたか」ということでしか、その人を表現できない。でもそのことによって救われるというか。役を演じるとか、なりきるとかじゃなくて、役と自分は違うというのは大前提で、戯曲に書かれている他人を自分がどう解釈して、どうアプローチして演じるかが大切なんだ、というのが山内さんの授業でわかりました。その役自身にはなれない、というのが前提にあるのは、ああ、そういうものなんだと、とても誠実な感じがしていいなと思いました。

中川 戯曲で演じるときは、役と自分との距離感が難しいですよね。

 

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(修了公演『石のような水』左から横田僚平さん、大石さん)

 

大石 『石のような水』には、例えば「人間のほとんどは水です」などの、普段は口にしないようなセリフがあります。それをどう言うのがいいのか、最初はわかりませんでした。例えば、吹き替えの作品などで語尾に「〜だわ」と付くような、普段は言わないようなセリフには、そういう言葉を口にするとき独特の、世間に流通している話し方のイメージがあると思います。私も、はじめはそういうふうにセリフを話していたら、松井さんに注意されました。あらかじめキャタクターがあるみたいになっているよ、と。それは、話し方のイメージに私が乗っかっているだけで、その役を私がどう見ているか、というのを無視していることだったのです。山内さんの授業はそういうことに気付く作業だったというか、自分がその人をどう見て、どう解釈して、何を面白いと思ったのかが大事でした。それにどう向かって行って、自分のものにするか。それから、誰かにインタビューをしてその人を演じるときは、イントネーションなども自分とは違うので、違和感を感じるポイントが多い。でも、戯曲の場合は文字だけだから、読もうと思えばすんなり読めてしまう。だけど、きちんと敏感になれば戯曲にも違和感はいくらでもあるし、実在の人にインタビューをして演じる作業と本当はどちらも変わらない。ただ、戯曲の場合は、より意識して取り組む必要があると思いました。

 

講師や同期とのつながり

中川 『石のような水』で、市川さんはギターを弾いていましたね。得意だから?

市川 いえ、松井さんはキャスティングのときには、僕がギターを弾けると知らなかったみたいです。幽霊の役で出演していた、同期のしらみず圭くんは監督志望なので、キャスティングの秘訣を知りたくて松井さんに質問したら、答えは「勘」の一言で終わったらしいです。でも元々台本には、僕の役がギターを弾いて歌う場面が書いてあるので、僕も気になって松井さんに「もし、全然ギターを弾けない人をキャスティングしていたら、どうするつもりだったんですか?」と聞きました。「演出でなんとでもなるから」とおっしゃっていました。

中川 得意分野を使って演じるのはどんな感じでしたか?

市川 さっき大石さんが話したように、最初は台本をさらっと読んでしまいました。あの役は、撮れなくなった監督の役なんです。僕も曲を書くのがすごく遅いから、共通点はあるのかなと思っていました。でも同期の、映画好きの大石さんやしらみずくんや鬼松功くんは「あの役はそういうことではない」と思っていたみたいです。だから、さらっと読むのは危ないなあと思いました。結構みんなで意見交換をしたのですが、全く違う読み方をしている人もいて面白かったので、人の意見を聞かないで破棄するのはもったいないなと思いました。人から見た自分の役についての印象などは、観客の印象につながるだろうし、意見を聞いて、面白いと思ったことは捨てる必要はないですよね。

 

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(『石のような水』稽古中の市川さん。左は金子紗里さん)

 

中川 同期の間で、そういう話はよくしていたのですか? 3期生はどうでしたか。

長谷川 修了公演のときは同期で自主稽古もしましたが、意見交換はあんまりできていなかったかもしれません。でも今は、同期が出演をしている舞台を一緒に観に行って、どう思ったかを話し合ったりしています。意見を言い合える仲間ができて良かったです。

大石 私たちのときは、スケジュール的に自主稽古の期間が長かったので、同期でよく話したのかもしれません。

中川 『石のような水』自体が長い作品でしたし、大変でしたね。

市川 一番最初に通しで本読みをしたときには、3時間かかりました。それを松井さんが2時間40分にしました。

中川 シーンを削って?

市川 そうです。

中川 自主稽古以外のときは、同期同士のつながりはどうでしたか?

大石 俳優講師の兵藤公美さんの授業でも、よくみんなで話をしました。戯曲を渡されて、自分たちでお芝居を作る、という内容だったので、役についてとか、見て感想を言い合ったりとか。私たちの期は、いろいろな人が来ていたのも面白かったです。

市川 バックグラウンドが違うとか。

大石 年齢とかもね。

 

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(『石のような水』から)

 

市川 すごく映画寄りの人もいれば、僕は映画は全くわからないし、演劇畑の人もいるし、いろいろでした。

大石 みんなの中にそれぞれやりたいことがあって、私は刺激を受けました。お互い仲が良いわけではないんだけど、無関心でもなく、程良い距離感でした。

中川 講師たちもそうですよね。それぞれ追究していることがあって、その中から「こういうこともあるよ」と教えてくれる。

大石 講師の言うことはそれぞれで「こうだから」とは押しつけない。「自分はこういうふうに演技を組み立てるけど、それも一つの方法だし、ほかにもあるかもね」というか。授業は、講師が教えてくれる場でもあるけれど、同時に「これはあなたにとってはどう?」という問いにもなっている。選択肢を広げてくれる。演劇についての考え方を、いろいろ増やせる場なのだと思いました。

市川 僕らが演技をしたときに講師が掛けてくれる言葉は、批評や評価じゃなくて、感想なんです。「面白い」とか「こうしたらもっと良いんじゃない」とか。上から目線じゃなく、とても楽しんで見てくれる。講師が一番笑っているような感じだったので、やりやすかったです。常に観客がいるようなものだから、プレッシャーもありましたけれど。

 

これからのこと

中川 今後はどうしたいですか?

長谷川 私は、小田原で所属していた演劇サークルの有志と稽古をしています。続けて行って、いつか発表をしたいです。映画美学校では「俳優レッスン」の授業を受けているので、そこでも演技を磨いて、小田原での活動に活かしたいです。

中川 「俳優レッスン」は、大石さんも受けている、修了生が継続して勉強できる場です。そこでは「シーンスタディ」という、一つの戯曲を決まったメンバーでひたすら繰り返し演じる千本ノックのような稽古をしています。勉強になりますよね。

長谷川 確かに、最初と今では、やっていて全然違いますね。

大石 私は映画を撮りたいです。俳優の演技を学んで、面白いし楽しかったのですが、最初からその目的で入ったせいもあるのか、やっぱり映画を撮りたいです。

市川 僕は事務所に入りました。田舎の母には「(いつか)大河ドラマに出るから!」と宣言しているので、それに向かって頑張ります。

中川 ありがとうございました。質問がありましたらお願いします。

 

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参加者 英語のブログでこの学校のことを紹介しているのを見て、今日は来ました。フランス人で、フランスから来たので、日本語の授業が分かるかどうか心配なのですが大丈夫でしょうか。

中川 講師の山内さんは、フランスで長期間、一人芝居の公演をしていたので頼りになると思います。

参加者 私は、大学で映画と演劇を勉強しました。中学生の頃から日本の映画を観ていたら、だんだんと日本語がわかるようになりました。

一同 すごい!

市川 今僕たちと話していて聞き取れているので、全然大丈夫だと思います。

 

取材・文・構成:浜田みちる