映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

修了生トーク(10)高橋隆大×吉岡紗良 その2

こんにちは、広報アシスタントの川島です。

前回に引き続き、高橋隆大さん、吉岡紗良さんのインタビューをお届けします!
今回は、映画美学校時代のお話から、修了後から現在、そして今後についてのお話です。

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お二人とも、今後も出演作はもちろん、俳優の枠を飛び越えて様々な活動を予定しているようです。活躍している先輩の姿、素敵です!!
また、お二人が共演されている映画『SHARING』は池袋・新文芸坐にて7/24(日)〜27(水)レイトショー上映が決定したとのこと!見逃してしまった方は、ぜひ劇場へ足をお運び下さいませ~!

 

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―では映画美学校時代の話を。入ったきっかけはどんなものだったんでしょうか?

 

吉岡:私は大学を卒業した直後に映画美学校に入ったんですけど、大学まで全く演技はやっていなかったんですね。早稲田の演劇学科は座学しかなくて。演劇を観るのが好きだったので、観ることを深めたいという気持ちでいました。
卒業して演技をしたいと思ったときに、青年団が好きだったので、ちょうどその年(2013年)に出来た無隣館を受けようと説明会まで行ったのですが、怖くて願書を出せませんでした。それで、青年団の方が関わっているもうひとつの場所である映画美学校に。

 

高橋:俺は小さい頃に芝居をする機会があって、それは辞めちゃっていたんですけど、でも俺は紗良ちゃんと違って映画を小さい頃に現場で味わったことが忘れられないというか、そういうことがあって。で、映画美学校に入る一年くらい前に卓爾さんのワークショップ(シネマインパクト)を受けたんですよ。それがワークショップを経て映画を撮る・現場を味わえるというものだったから、それで現場を味わって「やっぱり映画の現場、面白いな」というか、芝居というよりは映画の現場という感じだったけど、芝居を勉強して映画に関わりたいなという風に思い直した時に卓爾さんが映画美学校の講師をやっていて「じゃあ卓爾さんを追いかけて行く」と。元から卓爾さんが好きだったから卓爾さんのワークショップを受けに行ったんだけど、卓爾さんから直接芝居の指導が受けられるならいいなと思って映画美学校に入ったんですよ。そしたら思った以上に青年団なんだって。1年目は結構演劇の講義ばっかりだった。「映画が全然ねぇ!」とか思いながら(笑)。でも2年目に映画を撮るんだけど(※当時は高等科まであった)。だからきっかけは卓爾さんなんですよね。
そうだ。実際映画美学校に入ってみて映画に対する感覚とかって変わりました? 2期の頃から映画美学校という名前もあるから映画の方が好きで映画に出たくてみたいな感じで来る人と、演劇の方が好きで演劇やりたくて、青年団という名前で来る人と結構極端に分かれている。それが面白いんだけど、それで何か変わったのかなって。

 

吉岡:前よりも遠い感覚ではなくなったかな、というのはあります。あんまり演劇と映画と全然別物という風には思わなくなった。

 

高橋:当時は初等科・高等科と分かれていたから、1年目から演劇の講義が多くて、ウチの代は演劇の面白さに気付いていく人が結構多かったんですよ。ちょうど2期の初等科が終わるタイミングで無隣館が出来て「映画に興味があって入ったけど演劇って面白い」と無隣館に行った人とかも結構いて、俺はそこが凄く面白いなと思った。別に映画と演劇を比べるとかじゃないんだけど「凄くごった煮なところなんだな、ここは」っていう。入り口は違えど、どっちに振れても面白いなっていう。

 

―結果的にどっちも学べるというところは意外に少ないのかなという気はしますね。

 

高橋:どっちも学べるというか、発想として演劇と映画をもの凄く区別はしていないというか。演劇の面白さを映画に取り入れられるし、映画の面白さも演劇に取り入れられる、というくらいの度量の広さが映画美学校にはあるというか。それまではアクターズ・コース自体がなかったから、それがフィクション・コースとかドキュメンタリー・コースの人とかにも演劇を観ることとか演劇の面白さが映画にもいい影響を与えているし、演劇に興味があった人も映画の面白さを発見出来る、みたいな。
最初、松本正道さん(映画美学校代表理事)が映画美学校のアクターズ・コースを作る時に「昔の撮影所システムみたいにしたい」と言っていて。役者がいてスタッフがいて、そこで色々な映画がドンドン撮れる、みたいな。「役者がいないと呼ぶしかないから、そういうことが出来たらいいね」って言っていて、そういう発想が下地にある。昔は撮影所役者がいたんですよね。だからそういう発想はやっぱり面白いなって。
※撮影所システム:かつての日本映画界は「東宝所属」「大映所属」など、各会社に俳優・監督・脚本・技術スタッフそれぞれが専属として所属していた。現在の撮影現場で使われる呼称「俳優部」「演出部」「撮影部」などは会社の部署の呼び方の名残である。

 

吉岡:区別していない人たちが講師にたくさんいることによって、「区別しない」という点でかなり影響を受けたんだなと今思いました。

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―撮影所みたいにしたいということに関して、今でも各コースの修了生が出入りしているからそれは叶いつつありますよね。修了後、お二人にとって映画美学校はどういう存在になっていますか? 「修了したら完全に終わり」という学校ではない感じがしますが。

 

高橋:俺は今フィクション・コースの高等科にいます。修了制作の監督は出来ないんだけど、初等科は行っていなくてもアクターズ・コースを修了していれば高等科から入れるという制度があるからそれを利用してね。もうちょっと芝居の勉強をしたいんだけど、芝居というよりは映画をもうちょっと学びたい、と。映画の脚本の読み方だったりだとかを学んで、もうちょっと芝居の糧に出来ないかなって思って。

 

―そう思うようになったのは映画美学校でフィクション・コースの人たちと一緒に制作する機会があったからですか?

 

高橋:撮影所システムみたいにやっていきたいって言っても、意外とそんなに上手く回っていないというのが現状だと思うのよ。「月刊 長尾理世」を同期の理世ちゃんが撮っていて、そのスタッフはフィクション・コースの人なんだけど、メンバーは『ゾン~』の撮影に手伝いに来てくれたフィクションコースOBがスタッフのメイン。だから現役のフィクション生と仲間になって撮影出来るというようなことは現状中々出来ていない。現役生だと講義もあって忙しくてそういう風に講義外で遊ぶとか、なかなか時間が取れないというのもあるんだけど。

※『月刊 長尾理世』:アクターズ・コース第二期修了生の長尾理世の自主企画。「月刊で、自分が出演する映画を制作する」という趣旨で行われ、監督・スタッフに各コースの修了生が関わっている。
でも俺もそういう風なのをやりたいなと。俺を役者で使ってもらって、監督やってもらったり脚本書いてもらったりだとかっていうので遊びたいなっていうイメージがあって。それで勉強したいというのもあったから「それなら高等科行っちゃおう」と。高等科に行ったら仲間も出来るし違う見え方も出来るかなと思って行ったのがきっかけで、今はバリバリやっています。

 

吉岡:行って良かったですか?

 

高橋:良かったよ。万田さんの演出の講義もあります。シナリオの読み方は未だに分からないけれど。実際書いてみたりして。今年の12月の映画美学校映画祭でお披露目になると思うけれど、フィクション・コース第18期高等科のコラボ作品の脚本は俺が書きました(西山洋市監督作品『瑠璃道花虹彩絵』)。やっぱり自分の書いた物が映像化されて、実際にそれを試写で観たら色々発見があって。そういう風にもっと、俺がアクターズ・コースからフィクション・コースに来たことでフィクション・コースの人にも面白い影響を与えられるかもしれないし。脚本コースからでも修了生はフィクション・コースの高等科に行けるとか、そういう関わり方があったりするじゃない。アクターズ生も他のコースに行ったりしている人もいるし、芝居を勉強するのとはまた別の方向からアクターズ・コースに来る人もいる。それがもっともっと広がって行けばいいなと思うけれど、まだまだこれからね、とも思ったりする。

 

―ミニコラボはまだなかったんですよね?

 

高橋:俳優育成ワークショップのような形ではなかった。昨年からは現役の映画監督4人が監督をして、それぞれの作品に分かれて俳優育成ワークショップ生全員が必ず出演する形式だったよね。

 

吉岡:ふ〜ん、面白そう。

 

高橋:だから修了公演で舞台を打つっていうのとミニコラボで映画を撮るというのが今のアクターズ・コースの二本柱になっているんだよね、きっと。

 

吉岡:1期2期でもあったと思うんですけど、私たち3期の時は平田オリザさんのワークショップ「オリザゼミ」があって、フィクションの方達と一緒に演劇を作ったんです。

※演劇創作ゼミ(通称:オリザゼミ):受講生が平田オリザの指導の下、全員がチームに分かれて一つの演劇作品を作る講義。受講生は作・演出・出演の全てを行う。本講義はオープン講義となっており、映画美学校の全てのコースの現役生が受講することが出来る。

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私はその時ある舞台に出ていてほぼ参加出来なかったのですが、それに参加していたフィクション・コースの加藤正顕さんが後に自主的に演劇を作ることになり、私も誘われて出演しました。
加藤さんの同期である美谷島(諒)さんと平井(正吾)さんに、アクターズ・コースの女子三人が加わった出演者五人で、東中野RAFTで公演をしたんです。
何とかして一緒に舞台を作り上げようと団結して、とても刺激的な体験でした。
そういう風に他コースと巻き込み、巻き込まれ、ということが起きることもあり、予想のつかないことも多いのでワクワクします。
加藤さん自身も、演劇を作るプロセスに自分がやりたいことのヒントがあるのではという考えがあったようで、映画美学校は、全員ではないにしてもそういう人が現れて来る構造にはなっているのかなと思います。


―垣根がそこまではないのかなっていうのは思いますよね。

 

吉岡:1人2人、垣根を取り払う人が出て来るとみんなを巻き込んで行くところがありますね。

 

―2人は2期と3期ということで期が違いますが、それぞれ「こんな期だったなぁ」みたいなのはありますか? 期の特徴というか。

 

高橋:2期は1期が上にいるんですよ。1期はフロンティア精神があって、それで取り組んでいるんですよ。だから1期は凄く面白いことをやっているし、自分たちで何かを動かしていかなければいけないっていう精神を凄い持ってアクターズ・コースを過ごして修了後もそうやっているから、凄くカッコいい先輩だし、集中した時の団結力が1期は凄く強い。で、3期は逆にゾロゾロと全員個性的な粒がいるなっていう(笑)。それぞれ一人一人が立っている、じゃないけど、みんなでというよりはゴロゴロッといるなっていう感じが修了公演とか観ていた印象ではある。2期はそういう意味ではもの凄く谷間な感じがする。何て言えばいいかな……中途半端なんだよな、2期は(笑)。自分が中にいるからというのももちろんあるけど。

 

吉岡:私は2期だと唐鎌(将仁)さんとお話することが多いんですけど、唐鎌さんは2期の中でも異質な感じがありますよね?

 

高橋:そうそう。異質感のあるやつがゴロゴロっといるかと思ったらふわぁ~んとしたメンバーがいるというか?(笑)そのバランスが変な感じな期だったなって。

 

吉岡:塊で捉えられないところがありますよね。3期もあんまり……まぁ言うとしたら足並みが揃っていないということなんですけど(笑)、よく言えば個性的。

 

高橋:しかも2期の講義は結構アバンギャルドだったっていうのもあるんだよね。1期の試行錯誤から更に試行錯誤を続けていった結果の2期だったんだよね。

 

吉岡:でも毎年が試行錯誤だから(笑)。

 

高橋:そうなんだけど(笑)、2期は特に極端な……演出だったら「わが星」の柴幸男さんが来てくれたりだとか、青年団系の演出家がガッツリきてくれたりだとかしつつ、映画監督は井川(耕一郎)さん、万田さん、西山さんっていう映画美学校のもの凄く個性的なメンバーが演出の講義に来てくれて、一方で塩田明彦さんの演出な観点から見る映画の演技の講義を受けたりだとか、もの凄くごった煮感の強い講義が多かった。高等科に上がってもそういう感じがあって、近藤強さんが「ビュー・ポイント」の講義をやるでしょ?古澤健さんがそれを見て映画の脚本を書くという凄く破天荒な講義をやったりだとか、もの凄く挑戦的なことをやっていた期なのよ。
※ビューポイント:青年団所属の俳優・近藤強が担当する講義で扱われる演技メソッド。 1970年代に振付家のマリー・オーバリーによって考案された即興ダンステクニックをベースに、アメリカ人演出家・アン・ボガートが俳優・パフォーマー・演出家向けに発展させた俳優訓練法。
(参考:http://www3.center-mie.or.jp/center/bunka/event_c/2012/0107.html)
それで修了制作が『ゾン~』だったりするんだけど。そういう意味では捉え所のないというか。1期は最初からフロンティアだったんだけど、2期で更にアバンギャルドな方向に走るみたいな(笑)。

 

吉岡:基本姿勢がアバンギャルドですよね。守らない。

 

―今後の活動について、お聞きしたいと思います。『ゾン〜』は完成しているんですか?

 

高橋:そうです。作品としては完成しているのでこれから着々と準備を進めていって、最終的に公開まで。撮影時期は『SHARING』と同じだからかれこれ2年。結構経っているよ。最終完成版はどこかで公開することになると思います。

 

―制作の思い出は?

 

高橋:修了制作で、長編で、卓爾さんが監督で、脚本が古澤さん。そもそも予算的にも全部長編に出来るかどうか難しいっていう制約があって、ドキュメンタリーを撮って、リハーサルとかも撮って、で、本編でフィクション部分を撮って、それを混ぜ合わせる形で出来たらいいねっていうのがはじめだったんですけど、結局合宿で撮影5日間だったんですけど「全部フィクション・パートを撮り切ろう!」みたいなスケジュールになった(笑)。どこを撮るか撮らないかという難しい判断になっちゃうから、結局全部撮り切って、リハとかも混ぜ込んで、本読みをしているシーンとかもあるんだけど、それをもの凄い熱量で完成させたというか。本来撮れるようなスケジュールじゃないんだけど、5日間の合宿であるということをいいことに朝からてっぺん(夜の12時)までっていうことを毎日やりながら撮影しましたね。結構ハードだったけど面白かったです。やっぱり古澤さんが脚本で卓爾さんが撮るということ自体がまず面白かった。

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ゾンという壁が出来ちゃってそこから出られない人々の話なんですけど、そこにいる男の子と仲の良い女の子がいて、ゾンの範囲から出たがったりっていう葛藤があったりという映画で、やっぱりそれがちょうど修了する時だったから「映画美学校を離れたらどうなるんだろう、でも出なきゃいけないし」という自分の状況を重ねたりしていて。だから凄く思い入れの強い作品ですね。卓爾さんを追いかけてこの学校に入ったというのもあるし、悔しい思い出もありつつ。もっと出来たという部分もあるし、蓋を開けてみれば演出に応えられなかった部分とか一杯あるんですよ。でもあれがあの時の精一杯だったと思って頑張っていこう、と。

 

―深田(晃司)さんの作品にも出演されると伺ったのですが?

 

高橋:それが『ゾン~』のB面としてのドキュメンタリー・パートを深田さんが撮るという企画で、現在進行形で動いてはいます。それは『ゾン~』を撮った後に出演者みんながインタビューを受けて、俳優としての生い立ちとか、多くのカメラの前で負荷のかかる状況で聞いたものがあって。それを『ゾン~』本編にも絡めたりしてドキュメンタリー・パートを作るという企画もあったんだけど、もっと個人個人の俳優に絞った形で深田さんは編集して、それが今絶賛制作中です。後は西山さんとフィクション・コース第18期のコラボ作品『瑠璃道花虹彩絵』は脚本を書いています。年末の映画美学校映画祭で多分お披露目になると思うので観に来て頂けたら。

 

吉岡:私は初めて「鳥公園」という劇団に出演します。9月に東京公演、10月8日・9日に瀬戸内芸術祭のプログラムとして豊島で野外公演をします。

 

「Q」に入ったのは映画美学校に入る前ですか?

 

吉岡:ほぼ同じくらいです。映画美学校に入ったのが5月、翌6月にオーディションを受けて。その時は入ったというよりも9月と11月の公演の出演が決まったというものだったのですが。その一年半後くらいにメンバーという形になりました。
Qとしては、8月13日に、岐阜県美濃市にあるエムエム・ブックスさんで公演をします。
あと、劇団と関わりなく私個人で、長野県伊那市の信州高遠美術館で行われる『高遠KONJYAKU STORY展』(7月30日~9月11日)に参加します。
高遠に伝わる民話から着想した展示とパフォーマンスを制作中です。初めての作・演出・出演になります。
また、7月から「週刊金曜日」という雑誌で書評委員を務めることになりました。これまでも何本か映画評を書いてはいるのですが。

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観たり読んだりしてきたものと、経験してきたこととのバランスがだんだん取れつつあるのかなと感じます。
評では、映画や本といった既存のものについて語るわけですけど、不思議と、脚本に沿って演技するときにも増して「自分で表現している」という感覚があって。
だから、「演劇も映画も区別しない」という話とも繋がるのですが、人から必要とされ、また自分で自分を肯定することが出来れば、表現はどんな形でもありうるんだなと思っています。

 

―隆大さんは映写技師ということですが、かなり前からやられているんですか?

 

高橋:うん。大学時代にシネコンの映写技師をやっていて、デジタルに移行しちゃったからフィルムを触る気はなかったんだけど、そんな話を映画美学校の人にしていたら「上で働いたら?」って言われて。当時オーディトリウム渋谷が映画美学校の入っているKINOHAUSというビルの2階にあって、そこにこの間映画B学校対談させてもらった千浦僚さんがいて、そこで週1~2日で働かせてもらっていて。それがきっかけで、そのオーディトリウム渋谷が無くなる時に映写機が横浜シネマリンにいくことになったからそのままシネマリンでも映写させてもらったりだとか、一回神保町シアターで本当に人が足りなかった時があってそれでそこでもフィルムを触らせてもらったりだとか。まぁ映写の世間は狭いからね。横浜シネマリンで絶賛『SHARING』が上映中です(笑)

 

―自分が出ている作品を映写するのは感慨深いですね。

 

高橋:そうだね。でもオーディトリウム渋谷時代に卓爾さんの『ポッポー町の人々』を映写したりもしているからそういう経験がなくはないんだけど、嬉しいもんですよね。

 

―じゃあこれから俳優養成講座に入ろうと思っている皆さまにメッセージを。

 

吉岡:何もいいこと言えないなぁ……。楽しければ何でもいいと思います。ダメですね、そんなこと言ってちゃ(笑)。でも何でもいいんだなという気持ちは強いです。
実は明日オーディションがあって、それが怖過ぎて、この数日間「もう怖い、逃げようかな」みたいな気持ちに支配されていたのですが、つい昨日「なんでもいいや」という気持ちになりました。
やっぱり楽しいことが大事だと思います。
講師の方からも色々教えてもらうわけだから、当然それぞれに色々な尺度があると思うのですが、結局は自分が楽しいと思えることが自分の正解だと思うので、もらうものを吸収して利用して、自分だけの楽しさを組み立てていけたら素敵だと思います。

 

高橋:役者になりたいとか、芝居を勉強したいだとか思って来てくれる人もいるだろうし、色々きっかけはあると思うんだけど、入ってから更に色々なきっかけとか、自分の中で見つけられることがあるんじゃないかなと思うんですよ。「なんで自分は芝居をやりたかったんだろう」だとか、俺はそういうことをここに入ってから余計に考えさせられて「芝居って面白いな」って思えたりだとか「映画のこと、なんで好きなんだろう?」「演劇分かんないなぁ」とか発見があったし面白かったから、入るきっかけは大事にしてもらって、踏み込んでみたら更に色々な発見というかきっかけに出会ったら、そこを紗良ちゃんが言うように楽しんでもらえたら凄く良い時間になると思うから……是非お・い・で(笑)。来て下さい。皆さんどうぞお越しやす。

 

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高橋隆大さん、吉岡紗良さん、ありがとうございました!

 

【講師リレーコラム】好きなことってなんですか?|松井周[演出家・俳優/サンプル主宰]

今回の担当講師は俳優であり、作・演出家であり、劇団「サンプル」の主宰でもある松井周さん!

「好きなことを仕事にする」なんてよく言いますが、そもそも「好き」ってなんだろう?
自分でもよくわからないけど、確かに何かを感じるこころ。
そんなわけのわからないものと向き合ってみることは、俳優に限らず、見える景色を少し鮮やかにする行為だと思います。

6/29(火)14:00〜は松井さんの講義を体験できるオープンスクールがあります。
迷っている方は、ぜひ一度お越しください〜!
http://www.eigabigakkou.com/course/actors/outline/

 

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好きなことを書きます。俳優養成講座を受講するかもしれない方に対して「好きなこと」って一体なんだろう?ということについて書きたいと思います。

僕は、自分の将来の道を迷っている人に対して「好きなことを誰になんと言われても続けるべきだ」的なことは言えないです。別に「現実は厳しい」とか「世の中そんなに甘くない」という意味ではありません。僕は「そもそも自分の好きなことってなに?」と思う気持ちが強いからです。そんなことをとことんわかっている人なんて、そんなにいないんじゃないかと思います。というか、本当に好きなことって人前で堂々と言えるものなのかな?という疑いがあります。

例えば以前、人の血を見るのが大好きな人に会ったことがあります。血糊をたっぷり使った芝居に出演した僕を「最高でした!」と満面の笑顔で迎えてくれたその人は、血だらけの人を見るとどうしょうもなく興奮するらしく、自分が怪我した場合もすぐに写真に撮ると熱弁し、大いに周囲を引かせていました。

彼は非常に客観的で自分の欲望をうまくコントロールしているようでしたが、もっとネガティブな殺人とか暴力とか反社会的な欲望を持っている人は、好きなことを隠して、飼いならして生きるしかないだろうと思います。つまり、好きなことって、そう人に自慢したりするものじゃなくて、こっそり育てるものだし、どこかで代理の欲望で満足させるものだろうと思いながら、僕は生きてきました。

僕は作・演出家と俳優を兼ねて活動していますが(欲張り!)が、演技や演出が好きというのもなんか違う気がするのです。もちろん対外的にはそのように説明します。でも、欲望の核心部分ではないです。ただ、「ウソ」が好きとは言えそうです。フィクションとか物語とか妄想とか大きな話の前に、単に「ウソ」が好きなんだと思います。電話してるふりとか、男なのに実は母乳が出るという噂とか、人前でちょっとだけ偉そうに振る舞うとか、無能のふりするとか、双子の死んだ兄の偽の形見とか偽の遺跡とか学歴詐称とかプチ整形とか、つい盛ってしまうような人の習性が好きです。そういう小さなウソの集積は物語以前であり、個性以前の賜物です。そんな物語の芽たちに囲まれていると思うと、肩の力が抜けるような、笑ってしまうような気持ちになります。そこには無意識の「好きなこと」が溢れているように思うのです。「大人になってよくもまあしょうもない!」という愛しさを感じます。

逆に、「ホント」を押し付けてくる人やムードが苦手です。「ホント=絶対」という価値観には警戒してしまいます。そこを問い詰めて面白いのかなと。いや、「ホント」という共通認識がなければ他者との共同生活なんてできないわけですが、「おそらく」をつけるぐらいでちょうどいい感じです。

似た言葉に「生理的に嫌い/好き」という言葉があります。僕はこの言葉に「ホント」と似たような軽薄さを感じます。だって、自分の生理なんて信じられないところないですか?虫を食べるとか人に暴力を振るうとかくらいの行為は、外からのプレッシャーによって簡単に引き起こされてしまうのではないでしょうか?例えば戦争という非日常状態ならば。そのくらいのレベルの「生理」は思い込みに近いと思います。

で、何が言いたいかというと、俳優養成講座に参加する方々が、もしこれからフィクションの世界に関わるなら「ウソ」と「ホント」の境い目を軽々と行き来してほしいなあということです。「調和を目指す」⇔「引きずりおろす」とか「きずなを深めたい」⇔「支配したい」という「⇔」の両側の動詞は、厳密にどう思ってるのかは本人にすらわからないことも多いと思います。つまり、ウソかホントかわからない。俳優養成講座に参加する方々と一緒に、そんな矛盾した欲望を抱えて存在している人間という不思議な生物の価値について一緒に考えてみたいです。そのうえでたずねます。

好きなことって何ですか?

(松井周)

修了生トーク(10)高橋隆大×吉岡紗良 その1

こんにちは、広報アシスタントの川島です。

今回のゲストはアクターズ・コース2期修了生の高橋隆大さんと3期修了生の吉岡紗良さんです!

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 篠崎誠監督の映画『SHARING』で共演されているお二人。

こちらの作品にはアクターズ・コース講師である鈴木卓爾さん、兵藤公美さんも出演されています。

『SHARING』は本日17日まで、横浜シネマリンで上映中!今後も全国で公開を予定しているそうです。インタビューでは出演の裏側も語ってくれていますので、ぜひ映画もあわせてご覧下さい!

それでは、インタビューをどうぞ〜!

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―現在公開中の『SHARING』(監督:篠崎誠)に出演されているということもあって、お二人をお呼び致しました。現在6月4日(土)から17日(金)まで横浜シネマリンで公開中ですね。その後公開予定ってお決まりですか?

 

高橋隆大(以下高橋):まだ日程も出ていないしオープンな情報かは分からないので詳細は言えませんが、全国を回る予定があります。もう既に広島の横川シネマと松本シネマではやらせてもらっているんだけど、そこから続々と。

 

―これから広がっていくと。ちなみにこちらの作品に出演されたきっかけはオーディションですか?

 

吉岡紗良(以下吉岡):私は隆大さんに紹介してもらって。

 

―じゃあ隆大さんは?

 

高橋:『SHARING』に参加したきっかけ自体は、監督の篠崎さんが、脚本がまだ出来上がるか出来上がらないかくらいの段階の時に俺が演じた「さまよう男」という役を出すかどうか、その構想自体はあったんだけど実際に必要なのかどうか撮れるのかどうかというのが分からなくて「ちょっと高橋くん、テスト撮影付き合ってよ」という一言があってテスト撮影に参加したんですよ。まだ脚本が全くない段階で「ちょっと歩いてみて」とかあるシーンをちょっと撮ってみたりだとかというのを何回かやって、それでそのまま「じゃあやっぱり構想の中に入れ込みたい」っていう風に確信を持ってもらえたみたいで、それでオファーというか「ホンが出来たから読んでよ」みたいな形で呼んでもらって。

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で、この役が、紗良ちゃんが演じている女の子に出会うっていう終盤のシーンがあるんだけど、たしか「誰かいない? 高橋くんくらいの年齢でアクターズ・コースで面白い子」って言われて(笑)。同年代で長尾理世ちゃんとかアクターズ・コースの他の子もいるんだけど、ホンを読んでいた段階でイメージが違うなっていうのがあって。誰がいいだろうと思っていたら、3期の修了公演の稽古とかもちょっとだけ見に行ったりだとかしていて吉岡紗良ちゃん知っていたんで「あ、紗良ちゃんは同い年くらいか」という感じで「吉岡紗良ちゃんどうですか?」と篠崎さんに言って。「じゃあ連絡入れてみます」みたいな感じで紗良ちゃんに決まったという流れですね。

 

吉岡:そうですね。だから私は結構後から、外からぴょっと参加したというか。そういう感じなのであんまり隆大さんみたいに最初の作っていく段階のことは知らずに、「いいんすか?」みたいな感じで参加しました。

 

―逆に他の皆さんはそういう脚本を作る段階から参加されている方ばかり?

 

高橋:脚本に入る前に参加した人もいるし、脚本決まってからオーディションとかで決まった人もいるのかな。でも篠崎さん自身がアクターズ・コース自体を結構面白がってくれていて。最近だと篠崎さんも忙しかったから顔出せていないかもしれないんですけど……3期もそんなに篠崎さん、見てないか。

 

吉岡:でも発表会みたいなものは割と見にいらしていて。あと劇中、兵藤公美さんが稽古するシーンがあるじゃないですか。今から思うとあれの取材だったと思うんですけど、私たち3期が兵藤さんの講義を受けているところに篠崎さんが見学にいらしていたこともありました。

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高橋:だから結構講義見学とかにも来てくれたり。俺らとか一つ上の1期とかの世代の時は俳優をゲストに呼ぶ講義とかがあったんですよ。3期はなかったかな?

 

吉岡:ないと思います。

 

高橋:俺らの時は村上淳さんが来たりだとか、メルヴィル・プポーが日本に来た時に講師をしてもらうだとか、俳優を呼んで話を聞くという講義があったんですよ。その時に篠崎さんが司会進行・聞き手をしてくれた。それ以外にも見学とかにも来てくれて面白がってくれていたというところで、アクターズ・コースでは俺とか紗良ちゃんを使ってくれた。きっかけとしてはそういうところがあったのかな。講義自体は担当していないんですけどね。

 

吉岡:本当に興味を持ってくれていたという感じですね。

 

高橋:元々映画美学校のフィクション・コースで講師をやっていた人だし、俳優のことを凄く考えている監督だからね。

 

―隆大さんも篠崎さんと初めて会ったのは映画美学校ですか?

 

高橋:映画美学校アクターズ・コースに入ってからです。

 

―その「さまよう男」という役は最初から隆大さんのイメージだったからテスト撮影をお願いしたんですかね?

 

高橋:いや、俺のイメージだったというよりは、本当は山田キヌヲさんが演じた歳の離れた教師役と学生の女の子の話だけで考えていたんだけど、それだと「凄く収まり過ぎてしまう気がした」という話をしていて。それで「さまよう男」みたいなドッペルゲンガー的な、凄く浮いてしまうかもしれないけれどそういう役を物語に入れてみたいという構想が最初にあったみたいで。でもどこまで映画の中で収まるのかなぁというのが実感として分からなかったみたいで、それでテスト撮影ということで、俺だからとかじゃないんだろうけど、そういう構想の中でイメージに近かったのか分からないけれど呼んでもらって参加したという感じ、だったのかな。

 

吉岡:元々仲は良かったんですか?

 

高橋:仲は良かったって(笑)。

 

吉岡:お話しすることが結構多かったのかなって(笑)。

 

高橋:篠崎さんも元々アテネ・フランセ文化センターの映写技師をやっていたんですよ。シネセゾンとかで映写技師として、映画館の裏方として映画に関わっていて、そこから映画監督という風に業界に入っていった人だから。結構います、映写技師やっていて映画監督になった人。井土紀州さんとかもそうなんだけど、アテネ・フランセの映写技師から監督になっている人が結構多かったりだとか。そういうこともあって、俺も映写技師をオーディトリウム渋谷とかでずっとやっていたからそういう話とかもしたりだとかね。
後はね、俺らの代の時にジョン・カサヴェテスのレトロスペクティブの上映があったんだよ。『ラブ・ストリームス』とか『オープニング・ナイト』とかっていう映画が確かリバイバル上映されていて、篠崎さんはカサヴェテスが凄く好きなので、俺も観に行ってそこでカサヴェテスの話とかをして。『ミニー&モスコウィッツ』っていう当時DVDにもなっていない映画を篠崎さんに借りて観させてもらったりだとか、そういう風な関わりは篠崎さんとはありました。お世話になっていたよね。

 

―じゃあお仕事をしたのはこれが初めて?

 

高橋:はじめて。

 

―あまり語られない役というか、謎の多い役でもあったじゃないですか。その辺は篠崎監督からどのくらい指示があったのですか?

 

吉岡:おそらく大学の学生ではあって、キャンパス内にいるけれどどうやら授業には出ていない。大学という場所に、どこか居場所のなさを感じている二人なのでは、というお話はありましたよね。私が初め屋上にいて隆大さんと目が合うシーンでは、「双子の片割れを見つけたような感じ」と監督が仰っていたのは凄く覚えていて。「一目見ただけで、何か繋がった存在だということがバッチリ分かってしまった」というようなお話をされていました。

 

―幻想的なシーンだったので、この世の人間なのかも分からないように私には見えました。

 

吉岡:撮影している時は学生だと思ってのぞんでいたんですけど、私も試写で全体を俯瞰して観た時に、隆大さんも私もどちらもですが、「人間ではない何か」のように見えたというのはありました。

 

高橋:最初にテスト撮影として現場に呼んでもらって、まだ一切シナリオをもらっていない状態で歩いてみたりだとかしていたんですけど、それが結局爆弾とかっていうことになるんだけど、何かを抱えた男の子なんだっていうことから篠崎さんは震災について話したりだとか「今度こういう話を書いているんだ」とかっていう、具体的な役の話というか色々なことを篠崎さんとまず話したんですよ。例えば俺が今抱えている問題とか、ドッペルゲンガーについてどう思うとか、そういう他愛もないことからずっと話していて、蓋を開けてみたらああいう役どころだったんだけど。だから篠崎さんからはそんなに具体的に役を固められたっていう感じではなくて、凄く任せられていた感じはあったんだけど、でもそういうことを話していた中にヒントを自分の中で見つけていくみたいな作業をしましたね。

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 でも一つだけ言われたキーワードがあって、「溺れている」って言われたんですよ。寝ていて起き上がって、それで紗良ちゃんを見て、それでまた歩いて行くっていうシーンがあるんだけど、そこがテスト撮影で一番最初に撮ったシーン。溺れているところから起き上がって、向かって行くっていうのを芯というか、大事なものとしてあの動きとかシーンを大事にしていたのはあって。あの役は色々考えすぎてしまって、「どうしよう!?」と思って。でももの凄く不謹慎な言い方をしちゃうと、人間じゃない何かみたいな話が紗良ちゃんからもあったんだけど、例えば地震が起きたら不謹慎に盛り上がったりだとか、テロとか起きたら何かざわつくみたいな、面白がっちゃう人が一方にいたりだとか、そういう不謹慎さみたいなのはどこかで人間が抱えている何か、みたいなそういうものがあって、それは絶対に俺にもあるし、やっぱり震災って綺麗事ばかり並べられちゃっているけど、それだけじゃない何かも一方であるわけじゃない? そういうものが渦巻いたものとして、何か彼自身が心にも抱えるのかなって。それが大きな枠としてだけど、もっとそれは彼自身が単純に行き場がないとか、学生で居場所がないとか、そういう細かなものとは別にそんなものを抱えているのかなぁというイメージ。それが「溺れる」に繋げていけるのかなっていう風に考えてはいたんですよ。

 

吉岡:それは不謹慎さへの罪悪感みたいなこととは違うんですか?

 

高橋:罪悪感もそうだし、罪悪感だけじゃなくて、一方で楽しんじゃうような人もいるわけで、楽しむことすらも全部が間違っていると思っているわけじゃなくて。根本的には罪悪感になるのかな。何て言ったらいいかな……

 

吉岡:綺麗ですっと通ったところからははみ出している、みたいな。 高橋:そうそう。怒りとかじゃないけどね、楽しんでいることに対する罪悪感もあるし怒りでもあるし。でもそれって戒めるわけでもなく、あるなぁって思うわけよ。

 

吉岡:それが普通ですよね。

 

高橋:それが抱えちゃっているものとしてやっぱりあるなぁっていうか、野次馬根性じゃないけどさ、野次馬するつもりじゃなくてもしちゃうみたいな。そういう無意識みたいなものもあるし、そういうところに向き合うみたいな形でぶつかって行くみたいなイメージ。兵藤さんが劇中でもおっしゃっている「イメージを持って」、そういうのを掴もうとしていたのはあるのかな。

 

―『SHARING』自体が3.11以降の人々を描いたという作品で、公開も3.11から結構日が経っているじゃないですか。隆大さんが演じられていた役が、ドッペルゲンガーが見えるようになったのは、やっぱり震災がきっかけではあるんですかね?3.11の震災があって、それに影響を受けた人ではあるというか、そういった時の不謹慎叩きみたいなものに共感してしまう自分が生み出したというか。

 

高橋:篠崎さん地震がどういう風に考えていたのかは分からないところはあるんだけどね。でも3.11があってからっていうのは、ホンもホンだから凄く考えなきゃいけないなっていう風には。でも俺自身はそんなに、見て見ぬふりじゃないけど、あんまり震災をがっつり扱った映画とかってそんなに好きじゃなかったりとかして。Twitterとかで震災があった日にちょうど時間通りに何か「黙祷」とかってみんな呟いたりするじゃん。で、しない人が悪いかっていったらそうじゃないじゃん。けど、している人が偉いわけでもじゃないじゃん、っていうような。

 

吉岡:ここ(手元)で「黙祷」と打つことに何の意味が、とも思いますよね。

 

高橋:そうそう。そういうこととか俺も感じていたし、Twitterで震災について呟いて満足している部分があるんじゃない?とかって思っちゃう部分もあるわけよ。それは自己満足じゃないの?とか思う部分もあるし、それでも呟くことに意味はあると思いつつ、そういうところに欺瞞みたいなものは感じていたから、そこは篠崎さんともそういう話をしていたりしていて、そこから膨らませていくみたいなことがあったのかなとは思うけどね。そんな話だったっけ、今の質問(笑)。

 

―劇中で薫(樋井明日香)が3.11を題材にした演劇をやっていて、結構精神的にダメージを受けてしまったりするじゃないですか。実際に重いテーマを扱っている作品に参加すると精神的に辛い部分もあるのかなと思うんですけど、その辺はいかがでしたか?

 

吉岡:この作品には一日しか参加していないのですが、私は正直なところどの作品に関わる時にも、作品のテーマに日常生活が引っ張られることはあまりない気がします。まだ少ない経験の中ですけど。その稽古だったりリハーサル、本番の撮影とかっていうときはもの凄く……瞬間的にはエネルギーは使って、呼吸を忘れていたりするんですけど、日常的に引っ張られるっていうことは経験したことがないです。

 

―そういうオン/オフの切り替えスイッチみたいななものがあったりしますか?

 

吉岡:凄い……まるで俳優みたい……

 

―いやいや、俳優じゃないですか(笑)

 

吉岡:でも、今年の3月に早稲田小劇場どらま館で80分の一人芝居をするという機会がありまして、篠崎さんも観に来て下さったんですけど、それは本当に「これからスイッチを切る!今から何も考えない!」ってやらないと死ぬ、という感じの日々だった(笑)。

 

―お芝居する時にそういう状態にするっていうことですか?

 

吉岡:いえ、いわゆるオフにしたいという時に「今から考えないぞ!」と。私は眉間に皺を寄せてしまう癖があるので、眉間をほどくみたいな感じの暗示をかけて。「考えない考えない」と命がけでやっていました。

 

―それは意識的にあまり引きずられないように、と。

 

吉岡:そうですね。息をするのを忘れるっていうのも癖なので、とにかく息を吐くことと眉間を広げることを心がけていました。

 

高橋:鈴木卓爾さんの「俳優の技術」っていう講義は受けた? 

 

―「俳優の権利と危機管理」ですかね。

 

吉岡:最初に受けました。

 

高橋:あの話だよねって思えますかね。身を守るというか立脚点を作る、じゃないけど、芸術家じゃないけどさ、俳優の仕事ってプライベートのオフがつけにくいじゃないのかと思うのよ。サラリーマンだったら「平日働いて土日はオフ」みたいにはっきりとした切り替えがあるけど、何もしていない時でも「今も俳優修行だ!」みたいな言われ方をされがちというか。芸術家とかでも何でもそう。何にでも何処にでも芸術の種を広げているみたいな、オフがないなっていう発想ってやっぱりあると思うんだけど、別段何かをしているわけではないけどオフはオフで切り替えている感じはあるかなぁ。

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吉岡:卓爾さんはどんな話をされていたんでしたっけ?

 

高橋:卓爾さんは、結構ヤバい役をやられていて。殺人鬼とか血まみれのシャワールームにいたりとか。そういう時にさっき紗良ちゃんが話したように引っ張られないように「なんでこの仕事をするのか」「なんでこの役をするのか」みたいな、その役に対する立脚点という言い方を卓爾さんはしていたんだけど、「立脚点をちゃんと自分の中でしっかり持っておかないと引っ張られちゃうよ」と言っていた。 でも『SHARING』もそうなんだけど、多少引っ張られたいみたいなところもあるじゃない。分かる?

 

吉岡:引っ張られている自分、ステキ、みたいな?

 

高橋:例えば『ゾンからのメッセージ』とかでも劇中に出て来る「ゾン」という謎の壁というか囲いがあって、その「壁を越える」というのをアクターズ・コース修了前とこれから、という風に自分に当てはめるみたいな作業を結構したんだよね。
※『ゾンからのメッセージ』(以下『ゾン~』):アクターズ・コース
第2期高等科修了制作作品(鈴木卓爾監督作品)
戻って来られるような状態で、もうちょっと踏み込みたい時とかは、引っ張られるというのと同時に、自分に当てはめるじゃないけど「自分のドッペルゲンガー、なんで分身しちゃうんだろう」だとかそういうことを、自分の今の気持ちとか感覚とか自分がこの芝居で確かめたいことを作っておく、みたいな。そういう感じでやって「あ~確かめられなかった!」「分かんねぇな」とかって思うんだけど、そういう風にのめり込むというよりはもう一個自分の中で何かを持っておくっていう感覚。

 

―その「役である自分」と「役をやる自分」みたいな。

 

高橋:そう。何かを作っておいて、どっちにいっても振り返られるみたいな、もう一枚作っておくみたいな感じはあるのかな。凄く抽象的な話だね(笑)。

 

吉岡:でもそれはないと危険な感じがしますね。

 

高橋:そう。それは卓爾さんにしたら立脚点だし、そういう風に自分がこの芝居をやる、この役をやるということを少し俯瞰するポイント、みたいな。でも引きずられたいみたいな人もいるしね、分かんない。本当に入り込んじゃう人もいるよね。

 

鈴木卓爾さんの名前が出ましたが、『SHARING』では鈴木卓爾さん、兵藤公美さんと共演という形になるわけで……

 

高橋:共演と言えるのか。一緒にお芝居ができたわけではないですから。紗良ちゃんも会ってないよね?

 

吉岡:会ってないですね。

 

―でも外部の作品でそういうことがあると凄く感慨深いというか。

 

吉岡:そうですね。静かな感動があります。

 

―受講生と講師という立場から、同じ役者同士という……

 

高橋:そう思えないけどね(笑)。並んでいる、というだけで。

 

吉岡:あの場合だととても並列だとは私は考えられないですけど、ちょっとした嬉しさはありますね。

 

高橋:でも安心感はあったよね。兵藤さんが出ているとか卓爾さんが出ているだとか、それを聞くだけで単純に安心感があったっていうか。

 

―ご本人達とそういう話、しましたか? 『SHARING』についてとか。

 

高橋:俺は卓爾さんにダメ出しをいっぱい受けたけど(笑)。

 

吉岡:どんなダメ出しなんですかね、あれに関して(笑)。

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高橋:具体的なことじゃないんだけど「まだまだ行けると思うんだけどなぁ」みたいな感じのことを言われたりだとか(笑)。 

 

―それは褒め言葉じゃないですか。

 

吉岡:「気にしているよ」ということですね。

 

―吉岡さんはどうでしたか? 元々知り合いの隆大さんとかなり絡む役でしたが、改めて外部でお仕事するというのはいかがでしたか?

 

高橋:かなり絡むってほどではないけどね。ポイントでがっつりっという感じではあるけど。

 

吉岡:というかむしろ私は隆大さんしか絡んでいない(笑)。

 

高橋:でもあの役的にはほとんど人と接触しない役だったんですよね。だから役的に割と息が詰まって来るというか。寂しいなと思って(笑)。だからそういうのも「紗良ちゃん見つけた」っていうのを彼の気持ちに乗せていくみたいなことはしたんだけど。

 

―撮影現場自体はどうでした? 篠崎さんの現場ってどういう雰囲気なんでしょうか?

 

高橋:でも一日じゃそんなにはっきり分からないよね?

 

吉岡:そうですねぇ……落ち着いた、みんな粛々と歩んでいるっていう印象がありましたけど。

 

高橋:俺も一人の芝居ばかりだから他の芝居のシーンも見学させてもらったりしたんだけど、結構のびのびと、というかじっくり芝居見てくれているんだなぁっていうのは感じたかな。篠崎さんの演出的なイメージだとかこう動いて欲しいみたいなのもありつつも「高橋、今何考えている?」だとか「今どう思った?」だとか、そういうちょっとしたことを聞いてくれたりだとか、その時出て来たものをしっかり受け止めようみたいな、そこの安心感じゃないけどそういう風には感じたし、それは山田キヌヲさんも言っていた。

 

吉岡:凄くコミュニケーションを丁寧に、大事に取る方ですよね。

 

高橋:だからその前にもずっと話していたりしていた時からもう演出が始まっているんだろうし。だから凄くコミュニケーションをしっかり取っていましたね。役柄的に芝居しやすい役ではなかったからあれなんだけど(笑)、芝居しやすいという言い方もあれなんだけど、好きにやらせてもらえたというか。そういう感じはしたかな。具体的に演出の話を聞かれたら分からない時、あるよね。「どんな演出つけているんですか?」と聞かれて、意外と分からない時、ない? 万田邦敏さんの演出受けたことないか。

 

吉岡:ないです。

 

―万田さんはどんな演出をつけられるんですか?

 

高橋:卓爾さんと万田さんはそれぞれ両極という感じなんだけど、卓爾さんは出てくるものを全部受け止めて「じゃあ全部レール引こう」みたいな。それが最終的に終着するみたいな感じなんだけど、万田さんは出て来たものを「万田さんの考える映画の芝居として一本のレールを見つけていく」みたいな感じなんですよ。

 

―最初に芝居したのを見て「じゃあこのレールで行きましょう」みたいな。

 

高橋:うん。「その動き面白いね」とか。「一回大きく動いて」ってまず最初にやって「じゃあこの動きってどうなの? じゃあその動き、もう一回やってみようか」「もっと違うの、ない?」と引き出しながら最終的にきっちりつめていくみたいな。卓爾さんとかはとにかく自由にやらせたところをしゅわーって広げて全部受け止めるみたいな(笑)そうやってレールを広げ過ぎた結果、最後が大変なことになるっていう。だからこそ最終的なエモーションがあるのだろうけど。篠崎さんも受け止めつつも自分の方に戻すというか、凄くバランスの取れた監督さんだなっていうか。

(第2回に続く)

2016年度オープンスクール・体験レッスンレポート① 6/11「動く・俳優~ビュー・ポイントって?」近藤強さん

こんにちは!広報アシスタントの川島です。

6月11日(土)、映画と演劇を横断し活躍する俳優養成講座のオープンスクールが行われました!この日の担当講師は青年団の俳優である近藤強さん。「動く・俳優~ビュー・ポイントって?」というテーマのもと、身体を動かしながら、楽しみながらの体験レッスンとなりました。

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ビュー・ポイントって何?という方、私も入学前はそうでした。日本では教えているところも少なく、まだ馴染みがないかもしれませんね。ビュー・ポイントとは米国人演出家アン・ボガートがモダンダンスの即興テクニックを俳優向けに改良したトレーニング方法です。と言われても「?」という俳優のみなさん、演出家から「そこはもっと感情をこめて」と言われてやってみたけれど、演出家のイメージと違ったみたい…なんてことありませんか? ビュー・ポイントは、時間と空間の中での動きの要素に名前を与え、俳優や演出家が舞台上で何が起きているかを話すための共通言語でもあります。

 

体験レッスンは、まさに近藤さんの講義のダイジェスト版とでも言えるような盛りだくさんの内容!講義を受けていたときのわくわくした気持ちを思い出しました。

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まずは近藤さんからビュー・ポイントについて解説があり、ウォームアップのゲームなどをした後、レッスンスタート。碁盤の目の上を歩くように直線的に動きながら、テンポ、長さなど意識する要素を増やしていきます。だんだんとみなさんの中に静かな緊張感と連帯感が生まれてきた頃、近藤さんから人や建物、照明の光などに「反応」することを意識して、というアドバイスが投げられます。床に伏せてみたり、誰かの動きを繰り返してみたりとアイディアが次々と生まれていて、とても面白く拝見しました。

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続いて、要素のひとつであるジェスチャーに注目したエクササイズ。「朝」をテーマに、各自4つずつジェスチャーを考えます。一言で「朝」と言っても、歯を磨く、伸びをするなどの日常的なものから朝が来た喜びを表現する抽象的なものまで様々です。それを2人1組になって、合計8つのジェスチャーを組み合わせた1つのシークエンスを作ります。2人の位置関係やテンポを変えるだけで、ジェスチャーがまるでダンスのような表現になっていきます。

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最後に、椅子に座っている人と扉から入ってくる人で、短いシーンを作りました。座っている人の決められた動作は「カップで飲み物を飲む」だけ。セリフは扉から入ってくる人の「あのね、今日ね」の一言だけです。とてもシンプルな設定ですが、歩くスピードや飲み物を飲むタイミングなどで2人の関係性が見えてくるのが、このエクササイズの面白いところ。シナリオがあると、どうしてもセリフやト書きを実行することに気をとられがちですが、セリフのテンポや同じ動きをどのくらい続けるかなどでも感情や関係性を表現できるのだと気づかされます。

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最初は緊張した面持ちだった参加者のみなさんも、レッスンが進むにつれたくさん笑顔を見せてくれました。身体を動かすということで少し不安そうだった方も、楽しみながら参加してくれたようです。今回はオープンスクールということで、少しずつしか体験していただけなかったのですが、講義では感覚が身体に染み込んでくるまで、繰り返しトレーニングを行います。継続的に行うことで、どんどん面白くなるトレーニングでもありますので、ぜひ俳優養成講座で体験して下さい!

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映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座
〜演技を通じた新しいクリエーター創出を目的とする〜

募集ガイダンス6/18(土)、7/9(土) いずれも14:00〜
オープンスクール6/29(水)14:00〜 松井周「なじむ」
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修了生トーク(9)佐藤岳×深澤しほ×トニー・ウェイ×川島彩香 その2

こんにちは、広報アシスタントの川島です!
前回に引き続き、2016年3月に修了したばかりの俳優育成ワークショップ生たちの座談会をお届けします。

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第2回の話題は
1. 中国からトニーがやってきた!
2. ベストTA・SHIRAMIZU
3. みんなのそれから
の3本です。

それでは最後までお楽しみ下さい〜

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川島:そうだ、座談会に遅れていますが、トニーはもうちょっとしたら来ます。

 

深澤:トニーの存在感ね。最初は私どうやって喋りかけたらいいのか分からなかったけど。

 

川島:じゃあ今のうちにトニーがいたことについて話しておく?

 

深澤:やっぱりデカかったよね。

 

一同:そうだね。

 

佐藤:受講前の面接の時、トニーと一緒で、日本語が全然ままならない人がいるなと思った(笑)。

 

川島:特に最初の方とかはトニーの方から日本語で色々意見を言い出せないこともあったし、そういう意味では近藤(強)さんの講義が最初の方で凄く良かった。近藤さんは英語を交えて講義をしてくれたし。

 

佐藤:オリザゼミは結構大変だったよね。

 

川島:うん(笑)。トニーが内容を理解するまでの間に結構話が先に行っちゃったりしていて、話が進んだ頃にトニーから「これってこうなんじゃないの?」「ここはもっとこうしたい」みたいなことを言ってくれるんだけど、それを上手く折り合いをつけるのが最初はちょっと大変だった。

 

深澤:理解の速度なのかもしれないけど、トニーがひたすら待っている姿勢というか、待ちの姿勢のオーラみたいなものを持っているよね。兵藤(公美)さんの講義の発表の時もそうだったけど、独特な空気を舞台に登場した時に持って来る。あの柔らかい感じ。

 

川島:ウィスパーボイスね。

 

深澤:そう。たまらんのですよ。

 

川島:あの時のあの何とも言えない表情、凄かったよね。 トニーとシーンスタディとかをやっている時とかはさ、受けの芝居をする時に相手の芝居を見る・聞くみたいなところの極論みたいな感じ。伝えることの究極みたいなところがあったのが凄く良かったという話はよくみんなしていたよね。リアルに良く聞いて良く伝えないと伝わらないという事態があったからでもあるんだけど。
(※シーンスタディ:戯曲の1場面を使い、演技発表→講師のコメント・演技者とのディスカッション→演技再トライを繰り返し、シーンを立ち上げる演技レッスン。)

 

深澤:コミュニケーションの根本を思い知らされる、みたいな。

 

川島:トニーもどんどん日本語を喋れるようになって。「メス豚!」とか変な日本語覚えちゃったり(笑)。

 

佐藤:修了公演であんなに声が出るとは思わなかったよね。

 

川島:そうだよね。あれって鎌田(順也)さんの引き出す力なのかな?(※鎌田順也:ナカゴー主宰。修了公演『友情』の作・演出を務めた) やっぱりトニーはフェイ・フォン(『友情』での役名)を演じている時にも静かな演劇というかナチュラルなところにずっといたんだと思うんだけど、それが最終的にあんなに大きな声で芝居を出来るっていうのが、トニーの中で何が起こっていたんだろうなって。それに対して凄く抵抗があるっていう感じでもなかったからね。

 

佐藤:いや、でもやっぱり中国人役の描き方みたいなのにはやっぱり……

 

深澤:バイアスがかかっているからね。

 

一同:笑
※佐藤が『友情』で演じたのは「バイアス」という空中を浮遊する謎のキャラクターだった。

 

川島:色々な人に『友情』の感想を聞いても最終的に「バイアス様が良かった」っていう話に落ち着くんだよね。で、次がフェイ・フォンなんだよね。だから結局持って行かれているんだよ。

 

佐藤:飛び道具2つっていうことでしょ。

 

川島:でも本当にバイアス様の「すいません」「……ん?」みたいなやり取りが良かったっていう意見が多過ぎて。

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佐藤:あれはどうなの?録音された音声に合わせて芝居をするのはやりにくいのか、逆にタイミングが取りやすいのか。どっち?
※佐藤は仕事中に負った怪我のため修了公演の舞台には立たず、人形のバイアスの音声役で出演した。

 

深澤:あれは不思議な感覚で。最初稽古の時は録音に対して芝居をやるのかと思って、噛んじゃいけないとか余計なことを凄く心配していたけど、でも稽古をやっていけばそんなこともなくなるし、楽しかったな。結局稽古をしていってリズム感だとかを掴んでいって最終的に出来上がったものになるから、そういう意味では大変ではなかったのかな。それでバイアスの「……ん?」のセリフ間がズレたりする、それもそれで楽しいなと。

 

佐藤:タイミングが合っていないのが面白い、みたいなシーンだから、別にズレていても成立するっていう。

 

深澤:逆にズレた方が面白いのかなって。あと、鎌田さんの作品はどこのシーンを切り取っても全力だった。

 

川島:だって、中々「今は本気じゃなくていいです」って言ってくれないもんね(笑)。たま〜に言ってくれるけど、声が枯れているなっていう時しか言われなかった。みんな喉はやられましたよね。 でも喉も、ある時から峠を超えて大丈夫になった。特に私なんて発声とかやったことがなかったから、まず初日稽古したら速攻で喉が潰れて、紅茶とか飲んで凄くケアして次の日復活して、というのをやっていて、2~3日くらいで今日一日くらいだったらまだ潰れない、みたいな感じになった。

 

深澤:時期的に寒かったしね。そう言えば寒かったなぁ、ステージ裏の楽屋の方とか。 (※公演は3月上旬、稽古は冬を通して行われた)

 

川島:逆に私は舞台に出たらもう汗だくだから、そこからずっともう暑いんだよね。黒子でも出ているし(※黒子:鎌田演出で頻出する謎の黒子役は、シーンによっていなくなる役者がそれぞれ交代で演じている)。 結局ずっと舞台に出ているからもう暑くて汗だくで痩せるかなと思ったら、ケータリングが充実し過ぎて美味しくて食べ過ぎて全然痩せなくて「どうして!?」みたいな(笑)。

 

深澤:美味しいケータリングがね(笑)。あれは太ります。超美味しかった。中神(奈穂子/俳優育成ワークショップ生)さんがごはんを作ってきてくれたり。

 

川島:小道具作りとかも自分たちでやりましたからね。相当縫い物したもんなぁ。おかげさまで縫い物、苦手じゃなくなりました。

 

深澤:そういう意味では古澤さんの短編映画ゼミも。宇宙船作ったから。

 

川島:古澤さんの映画では「私たち、美術の学校に入ったのかな?」ってくらいだった(笑)

 

深澤:だってフィクション生が見学に来て「凄い!」って言っていたし。

 

川島:あんなSFとか普通は撮らないもんね。でも本当に文化祭みたいで楽しかったよね。謎のハイだった。

 

深澤:あの時期は学生時代を思い出しました。

 

佐藤:あと、渋谷の百均の場所に詳しくなった(笑)。

 

川島:古澤さんの映画で言えばさ、カチンコとかがみんなどんどん上手くなっていったよね。

 

深澤:またスタッフワークがね。

 

川島:フィクション生より上手いとか言われたよね(笑)。だからそういう垣根みたいなのはなくなったよね。別の現場に呼ばれても「お客さん」でいようみたいな気持ちはなくなったっていうか。

 

深澤:でもみんな、半年間という長さはどうだったんですか?途中の面談みたいなのがあって、「半年間のカリキュラムだったから参加したのか」「一年間のカリキュラムだったら参加していたか」とか聞かれたと思うんだけど、もし一年間だったらどうなの?半年間だったから受けたのかな?

 

川島:それはあるかもなぁ。

 

佐藤:多分に金額的な問題もあるんですよ。一年間やったら受講料が上がるよね。

 

割とシビアな話をしていたところで、満を持してトニーが到着!
※ 日本在住なので、中国から来たわけではありません。

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川島:じゃあトニーの話を聞こうかな。トニーはなぜ映画美学校に入ったんですか?元々は監督志望というか。

 

トニー:役者の気持ちを知りたかったのと、体験したかった。

 

深澤:なんで映画美学校っていう場所を知ったの?

 

トニー:友達に映画美学校フィクション・コースの修了生がいたから。

 

川島:でもそこでフィクション・コースじゃなくて俳優育成ワークショップを選んだのはなんで?

 

トニー:こっちは実際に自分が動いてみる講義が多いから。動きたかった(笑)。

 

川島:実際受けてみてどうでした?ここが勉強になったとか、思い出に残っていることとか。

 

トニー:実は役者の演技論とかはあまり勉強出来なかった。講師に色々な人が来て色々なことを言ってくれるので、理論よりは自分でやってみた、ということが一番印象的。要はシステム的な講義ではなかった。座学は少なかったし。でも面白かったです。

 

川島:トニーは自分の映画を撮っている時は構図にこだわるタイプ?それともお芝居を見てから決めるタイプ?

 

トニー:私が映画を撮った時は、役者によってコミュニケーションが違った。基本的には私の方からは何も言わない。出来る人には自由にやってもらってそれに合わせる。出来ればそうしたい。

 

川島:役者に自分で考えてやって欲しいと思っていたけど、自分で役者をやってみて結構大変だったみたいなことは思った?

 

トニー:自分の気持ちと演出の人から伝えてもらっている気持ちがちょっとズレている時があった。それはキツいと思った。

 

川島:だから逆に演出側にまたなった時に、役者の考えていることとトニーの考えていることが違うとこんな気持ちになるっていうことが分かって、そのズレがあった時にはどうしていこうと思った?

 

トニー:役者の場合は、基本は演出家の欲しいものに沿ってやっていく感じなのかな。

 

川島:でもそれが上手く伝わらない時があったじゃない? 修了公演の時にも「実際にこういうことが起きたら、その後にこういうことはしないですよね?」っていう風に思った時があったじゃない? 演出家の指示がスッと入らない時とか。

 

トニー:最初はめちゃキツかったけど、自分はフェイ・フォンにちゃんとなりつつ、なれたかな(笑)。

 

深澤:映像と演劇って違うもんね。

 

川島:演劇って映画美学校に来る前から観ていた?

 

トニー:全然観てない。

 

川島:私も演劇観ていなかったからさ、もう演劇の普通が分からないから、最初実は結構戸惑ってた(笑)。

 

深澤:舞台に関する共通言語的な部分ではやっぱり受け取れない部分とかもありますよね。

 

川島:だから場面転換でもちゃんとお芝居するとか、そういうことが分からないかったんだよね。本当はいないはずの人があの辺にいるとか、そういう演出があるっていうのを面白いなとも思ったし、ここに入ってから演劇誘われて観てみたけど、楽しいよね。

 

トニー:楽しかったです。

 

川島:トニーは今大学院に入ったんだよね? 今は映像を作る学科にいるの?

 

トニー:映画の学科。

 

川島:ここで学んだことは生きていますか?(笑)

 

トニー:一番印象的だったのは、ここに来ていた15人、みんな演劇とか自主映画とかで、みんな凄くセリフが言えてめっちゃ良かったと思う。先週プロデューサーである撮影に関わって、まぁ色々大変だったんだけど(笑)、役者はみんなちゃんとセリフを覚えていないとかがあった。俳優育成ワークショップのみんなはそこらへんはちゃんとしていて良かったと思う。

 

川島:それは出ている人は役者じゃなかったの?

 

トニー:モデルとか。あと、話が戻るけど、古澤さんの短編映画ゼミとか、鎌田さんの修了公演とか、あんまり演出をしていない。割と好きなようにやっていいというか、自由度が高かった。

 

川島:じゃあ結構トニーの知り合いとかの監督は演出を細かく付ける人が多い?

 

トニー:そうですね。演劇は分からないけど。

 

川島:トニーは映画美学校に入った時は日本に来てどれくらいだったんだっけ?

 

トニー:2014年の10月だから一年弱くらい。

 

川島:最初不安だった?

 

トニー:最初は不安は……みんなにいじめられないかなって(笑)

 

一同:ないよ!(笑)

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トニー:本当にみんな優しいです(笑)

 

川島:今後もしばらくは日本で活動するの?

 

トニー:今ちょっと中国は映画バブルみたいな景気。日本で撮影したいけど、多分中国からの仕事が多いと思う。

 

川島:そもそも日本で映画をやろうと思ったのは日本映画が好きだったから?

 

トニー:日本に来た理由は、日本のミニシアターとか日本のお客さんのレベルが高いとか、自分の自主映画とかが配給出来るからみたいな考え。日本文化が好きとかが理由です。

 

川島:そんなに中国では自主映画をかけるミニシアターみたいなのはないの?

 

トニー:ない。中国にはないです。全部TOHOシネマズみたいな映画館。

 

川島:じゃあトニーの映画も中国で配給するとすれば、そういうシネマコンプレックスみたいなところで流すの?

 

トニー:それはちょっとムリです。そこは結構宣伝費とか、めっちゃ高いから多分無理だと思う。

 

川島:じゃあまずは日本で公開して、持って行けたら中国に持って行くって感じ?

 

トニー:中国で配給するのは多分ムリ。日本とか海外で考えていたりする。でも今は中国の仕事はインターネットで配信する映画とかも多い。あと中国には日本文化のファンも多いから、多分そこからの仕事も。AKB48とかのファンが多いから。

 

川島:役者はこれからもやるの?

 

トニー:役者……分かんない。多分プロデューサーとか監督とかをやっていく感じ。

 

川島:多分映画美学校自体がそんなに外国から来た留学生みたいな方を入学させたっていう実績があまりないと思うんだけどさ、どうでした? 映画美学校の人たちの対応は。特に問題なかった?

 

トニー:大丈夫だった。しらみずさんが優しかった。ベストTA(笑)。

 

川島:じゃあ最後に、何か言い残したことがある人がいれば。

 

深澤:あとは俳優育成ワークショップ修了後はみんなどういう活動をしているのかとか、その先の話になるよね。修了した後はもうそれで終わりなのか、とか。

 

川島:この期はかなり色々な企画が動いている期だと思う。

 

トニー:今川島さんは事務局に入っているの?

 

川島:そうなんだよ。私は今映画美学校の広報アシスタントをやりつつ、ちょいちょい撮影したりワークショップに行ったり、オーディション受けたり、っていう感じですね。

 

深澤:修了後も映画美学校っていう場所は集まる「ホーム」にしたいって山内(健司)さんとかも言っていたし、だから昨日とかもそうなんだけど、第3期の吉岡(紗良)さんとかと少し事務所について話をしたかったりして学校に来ていた。だから他の期とも隔たりがあるわけじゃなくて、ちょっと話しかけたいなと思ったら全然来てくれる先輩とかもいるし、その集合場所に私は結構映画美学校のロビーを使っている。喫茶店入ってお金使うよりもここに来た方がいいし、顔を出していると色々な人が循環しているから「またいるね」っていう感じで顔見知りになったりもする。

 

川島:他の期の人と話したい時は全然知らない人とかにも連絡しているの? それとも何かで面識がある人と?

 

深澤:私はFacebookで。

 

川島:確かにコースのFacebookベージがあるもんね。

 

深澤:だから修了した後もみんなで集って色んなことをやろう、みたいな感じでやっていますよね。終わったからみんな解散、という感じではない。

 

佐藤:「俳優レッスン」受ける人はいないの?

 

川島:私は第2タームから受けようかと思っている(※俳優レッスン:年間で全3タームあり、1タームのみ、又は単発(1回)のみの受講も可能な、修了生を対象とした演技レッスンカリキュラム)。「Acting In Cinema」はみんなどうしますか?
(※Acting In Cinema:アクティング・イン・シネマ。「映画の演技」に特化した講座。映画監督でフィクション・コース講師の西山洋市万田邦敏が担当する)

 

深澤:受講料も安いし受けたいけど、今動いている企画ともろに被っているからなぁ。

 

川島:今動いている企画について話しましょうか。まず松井(周)さんと何かしようという企画がありますね。あとはふっちー(渕野実優:俳優育成ワークショップ生)のカンパニー(→a long time A5→:渕野が主宰する演劇カンパニー。俳優育成ワークショップ生が出演予定の旗揚げ公演を今年11月に予定している)の活動とかがあって、綱木(謙介:俳優育成ワークショップ生)が監督する映画があって、深澤企画がある。

 

深澤:私の企画については、今度の会議で相談させて下さい!

 

川島:あとはみんなフィクション生の修了制作とかに出たり、演出の自主ゼミとかに参加したり、みたいな感じかな。 でも、修了した時にもうみんなに会わなくなっちゃうのかなとも思ったけど、なんだかんだで割と満遍なく顔を合わせているよね。

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深澤:繋がっていますよね。あと、この間も先輩に「俳優育成ワークショップ生は仲がいいよね」「まとまりがいいよね」って言われて。だから集まる人たちにもよるけど、カリキュラムが終わって全然会わなくなった人とか、その期として全然会っていないっていうこともあるから、まぁ巡り合わせもあるのかな。

 

川島:あと多分カリキュラムが半年間になったのが大きいと思わない? やっぱりペースとしてもギュッとしていたし、それこそ毎日毎日朝から晩まで一緒にいるような。家族よりも会っているみたいなことが結構多かったから。 あと、カリキュラムが平日の昼間に講義をするように変更になって、何かを捨てて来ているような人たちが多かったから、余計よかったのかな。

 

深澤:コミュニケーションも積極的に取っていかないと課題が終わらない、みたいなのもあったりだとかね(笑)。だから半年って結構大変だけど、そういう意味ではいいのかもしれないですよね、期間として。面白い期間かもしれない。

 

川島:本当にこんなに濃い半年間はなかろうと今思い出すと思うよね。

 

佐藤:カリキュラムが半年になった件で言うと、やっぱり半年でそれなりの映像作品を作るのは難しいんだろうなとも思った。『ジョギング渡り鳥』とかは高等科で撮影して、ようやく今年公開でしょ? 一応映画美学校だけど半年で映像をやるのは……映画を勉強出来ると思って来たのに修了公演は演劇なんだ、みたいに思ったり、割と演劇寄りだったなって思う人もいるかもしれないなと。
※『ジョギング渡り鳥』:2016年公開の鈴木卓爾監督作品。アクターズ・コース第1期高等科修了作品として制作されたが、特殊な制作方法を取ったこともあり、カリキュラムの枠を大きく飛び超えて3年以上の月日が経ってからの公開となった。

 

川島:ミニコラボとか短編映画ゼミとか、色々映像作品の制作現場に携われたっていうのはあるけどね。 あとは、講師の人たちが想ってくれているというか、結構受け皿になってくれているなとは思っていて。「本当にいつでも相談してくれていいよ」みたいなことを言ってくれるし、ありがたいよね。何かがあって「誰に相談しよう」と思った時に思い浮かべられる人たちがいるから。多分誰に相談してもイヤな顔はしないなっていう感じがあるからね。

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佐藤さん、深澤さん、トニー、ご協力ありがとうございました!

【講師リレーコラム】アメリカで学んだもの|近藤強[俳優/青年団所属]

今回は近藤強さんからメッセージをいただきました!
アメリカで演劇を学んだ時の、貴重なお話を聞くことができました。
現在は青年団に所属し、俳優として活躍している近藤さんですが、
悩みもがいていた時代があったのですね…。

6/11(土)14:00〜は近藤さんが担当するオープンスクールがあります!
無料(定員あり)ですので、もっと話を聞きたい!と思った方はぜひお越しください〜

www.eigabigakkou.com


前置きが長くなりましたが、それではどうぞ〜!!

 

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「何故アメリカで演技の勉強をしたのか?そこで何を学んだのか? 」

米国留学していたというとよく聞かれる質問だ。これから演技を学ぼうと思う人に参考になるかどうかはわからないけど、今回はこの質問に自分なりに答えてみたいと思う。

 大学生の頃、演劇サークルの先輩たちは舞台で自由に楽しそうに演技をしているのに自分はうまく出来ずに悶々としていた。サークル主宰には自意識が強いとか段取りで芝居しているとか言われ、何とかしようと自分なりにいろいろと迷走していた。それが大学の3年生の時だ。その後、当時の彼女に振られたり、就職活動が嫌だったり、上杉祥三さんと手塚とおるさんの舞台に衝撃を受けたりといろいろあって、「そうだ、演技を学問してみよう。」と思った。抽象的な演技論じゃなくて演技のシステムをしっかり学んだら自分でも演技が出来るようになるかもと考えたわけだ。 これが勉強してみようと思ったきっかけ。何故、アメリカか?デニーロもパチーノもタランティーノもアメリカ人だったし、イギリスはあまりイメージを持てなかったから。安易と言えば安易な決定だったと思う。留学を決めてからはとにかく英語の勉強をして、卒業後にアイオワ大学演劇学部に転入した。

 1学期目は英語力不足で演技の授業に参加出来ず、ムーブメント、脚本分析、ボイスの授業を取った。泣きながら、必死で勉強して2学期目にやっと演技の授業が取れた。でも、一般教養の多さに嫌気がさして1年で大学を辞め、ニューヨークの演劇学校に入学した。演劇学校ではマイズナーテクニックという演技テクニックを学んだ。入学当初はマイズナーに関して何の知識もなく、面接だけで受講出来る夏期講習を受講したところ、2年間の全日制プログラムにも入学出来る(しかもオーディションもない)と言われたので、早速入学を決めたのだ。

 1年目はリピティション(繰り返し)というエクササイズを徹底的にやらされた。2人組になって相手の言うことを出来るだけ忠実に繰り返しながら、相手を観察する、ただそれだけの練習だ。その他に、スピーチ、ボイス、歌、バレエとモダン(グラハム)の授業があり、9時から15時半まで平日は毎日レッスンがあった。最初の台詞を渡されたのは、入学して3ヶ月ほどたった時だった。それまでは、相手に反応すること、自分の状態に正直になることにひたすら集中していた。

 2つ目のシーンでは、相手役との関係性から影響を受ける事を学び、3つ目のシーンでは、場面が始まる前に何が起きたのかを考える感情準備というプロセスを学んだ。4つ目のシーンは、今まで学んだ事を全て詰め込んで、それを1年目の修了発表会で上演した。2年目はキャラクターワーク、そして、シェイクスピア、モノローグ、シーンワークをして、最後に修了公演「怒りの葡萄」を上演した。

 大学も含め約3年間勉強してみて、演技を言語化して段階的に学べることに興奮したのを覚えている。なかでも、自分にとっての大切な学びは、演技は選択された行為の連続であり感情は一連の行為から生じる副産物であるという気付き(Acting is doing)と具体的になること(Be Specific)の2つかもしれない。特に感情については、ある種の呪縛から解放されたような気がする。

えーと、スペースがないので、映画美学校で教えているViewpointsについてはまた今度書きます。6月11日にビューポイント体験クラスがあるので、是非、ご参加ください。


(近藤強)

 

 

修了生トーク(9)佐藤岳×深澤しほ×トニー・ウェイ×川島彩香 その1

こんにちは、広報アシスタントの川島です。

「俳優養成講座」開講に向けて、直近の修了生である「俳優育成ワークショップ」修了生の佐藤岳さん、深澤しほさん、トニー・ウェイさん、そして私川島を含めた4人で座談会を行いました!

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同期が集まると話が止まらない〜ということで、かなりの大ボリュームになってしまいましたので、2回に分けてお届けいたします。

第1回の話題は

1. ここがヘンだよ、映画美学校
2. 「世界のフカダ」の自主映画レッスン
3. ミニコラボで異文化交流

の3本です!それではどうぞ〜!

 

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川島:この座談会の内容としては、ざっくばらんに俳優育成ワークショップの半年間を振り返ってもらえればいいかなと思っております。と言っても何から話出せば、という感じなので、とりあえずみんなが何故俳優育成ワークショップに入ったのか、みたいなお話からしてみましょうか。
まず私から言った方がいいのかな。ここに入る前は普通にOLをやっていて映画館で働いていたんですけど、映画の仕事をしている内に自分で映画を作りたいなと思って、じゃあ何をやろうかなって時に、自分の身一つで出来ること、ということで役者をやってみようと思い、俳優育成ワークショップに入ったっていう感じですね。それまできちんとお芝居を学んだことはなかったので、ほとんど未経験だったのですが、楽しい半年間を過ごせました。

 

佐藤岳(以下佐藤):僕は大学で自主映画のサークルに入りまして、元々役者志望というわけではなかったんですけど、仲間内の作品に出たりしている内にもうちょっとちゃんと勉強したいなと思って、実は大学を卒業してすぐにちょっと大きい劇団の養成所に一年間いたんですけど、僕の興味としては演劇より映画寄りだったので、もうちょっとそういうところを学べるところはないかなと思って映画美学校に来ました。

 

川島:そこは完全に演劇っていう感じだった?

 

佐藤:うん、舞台だね。

 

川島:映像のお芝居と演劇のお芝居って何か違いましたか?

 

佐藤:う〜ん……俳優育成ワークショップは「映画」美学校なんだけど、結構演劇のカリキュラムも多かったじゃなかったですか。結構そういう印象はある。でも、日本が特にそうなのか分からないんですけど、映画の演技の確立された何かがあるっていうわけでもない感じがしませんか?言い方が正しいかは別にして、ナチュラルな演技みたいなのに一番近いのは青年団なので、多分そういうところで青年団の協力と共にやっているのかなって僕は思っています。

 

川島:そういうリアリスティックな演技を学べたということですかね。

 

佐藤:そうですね。

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川島:じゃあここを選んだのも青年団があるからっていうのもあったのかな? それとも映画美学校っていう名前だから?

 

佐藤:名前もあるし、ユーロスペースとかに映画を観に来たりしていたから同じ建物の中に映画美学校があるのは知っていたし、一時期Jホラーとかの流れを調べていた時もあって、存在を知っていたので。

 

深澤しほ(以下深澤):私は某養成所に通い某事務所に行きフリーで活動していて映画美学校に来たみたいな流れです。
映画美学校自体を知ったのは事務所に入っていた時に今をときめく深田晃司監督と接点があって(笑)。その時に深田さんが話していることが面白くて、本当に映画が好きな方なんだなって思って、それで興味を持った。加えて青年団というところの演出もやっていると聞いて、それで青年団を知ったんです。
で、その事務所を辞めた後から色々な青年団関係の芝居を観に行って。その中でわっしょいハウスさんの作品を観た時に、修了生の吉田(庸)さんが出ていて、それで折り込みチラシに映画美学校のチラシが入っていたんです。そこに深田さんとか青年団の名前が書いてあって「ここ、いいな」と思って深田さんが担当するオープンスクールのワークショップに来てみた。それでやっぱり面白いなと思って、集まっている人たちも面白そうな人たちだったし、やっぱりこういうところに興味を持つ人って貪欲に何かを求めている人なのかなと思い、受講を決めましたね。

 

佐藤:そのワークショップって撮影もちょっとやってみましょう、みたいな感じなんでしょ?

 

深澤:カメラを回しながらやっていて、面白かったなぁ。撮ったものをその場で観て、みたいな感じで。AチームがやっているのをBチームが好きな視点で撮ってみて、その後に深田さんだったらどう撮るか、それを見比べるみたいなワークショップだった。

 

川島:それはシナリオがあるの?

 

深澤:いや、それは自分たちで考えた。「電車の中で出会う」みたいなテーマを与えられて、7フレーズだけとか制限のある中で、自分たちでセリフを作るという感じ。

 

川島:それも面白かったし入ろうかなと。深田さんを追っかけて来たみたいな(笑)。

 

深澤:そう、深田さんを追っかけて。深田さんと何かをやりたいとその時は思って、じゃあどうしたら深田さんと繋がれるんだと。だからオープンスクールの時も「某事務所にいた深澤ですけど覚えていますか?」とか言って(笑)。しかも覚えていてくれた(笑)。

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川島:フリーってどれくらいやってたの?

 

深澤:フリー自体は一年くらい。

 

川島:その間も学校とか探したりしていたの?

 

深澤:いや、演劇専門の学校っていう機関があることをあまり知らなかった。大学の演劇科とか映画科行かなきゃそういうのはないのかなと思っていたから。ワークショップとかには転々と行ってはいたんだけど。

 

川島:皆さんありがとうございます。さっき深田さんの話が出たから、その自主映画レッスンの話でもしようか。 自主映画レッスンて、俳優を養成する学校としてはかなり珍しいカリキュラムだよね。養成所とかでは絶対にやらないだろうし。
(※自主映画レッスン:実際に受講生自身が「監督」となり撮影を行い、それぞれが1本の自主映画を作る講義。この時の担当講師は深田晃司だった)

 

深澤:撮る側に回るっていうのがね。「そっちか!」みたいな(笑)。でも確かに大事だなと思った。それを実際やるのかと緊張もした。「出来るの?」みたいな。 佐藤:入ってから一ヶ月後くらいだっけ?その作品の提出期限とオリザゼミが被っていて、あの時タイトだったよね。
(※オリザゼミ:青年団主宰の平田オリザ担当の講義。講義参加者が何組かのチームに分かれて、チームごとに演劇を創作し、発表会を行う。この講義はフィクション・コース、脚本コースなど他のコースの受講生も参加可能な学内のオープン講義)

 

川島:でも逆にさ、そうやって「撮れ」って言われて「いや、僕映画を撮るために来たんじゃないんで」みたいな空気になることはなかったよね。結構みんな楽しんでやっていたようなイメージがあるな。

 

深澤:でも始まってすぐは結構タイトなスケジュールだったからみんなと顔合わせることは多かったけど、自主映画レッスンでみんなの作品を観て「あ、こういうことを考えている人なんだ」みたいな、そういう内面が見えた感じはした。

 

川島:オファーし合ったりもしたからそれも良かったよね。お互いの作品に出てもらうことがコミュニケーションになるみたいな。

 

佐藤:深澤さんの実家で撮った作品、あれは何日間くらいで撮ったの?

 

深澤:撮影自体は3日間、プラス予備で1日みたいな感じで。土日で実家に帰って撮った。山梨だったから近かったっていうのもあるし。

 

川島:でもかなりちゃんとしたものを撮って来ていたよね。イメージカットみたいなものではなく、きちんと成立している物語のある作品だった。

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深澤:いやぁ、恥ずかしいですね。撮るからにはちゃんとしたものを撮りたいっていう欲があって、それで撮ってみた。それで作り手に回って、作り手の大変さも分かったし、編集作業も初めてで、元々パソコン全然ダメだからどうしようかと思ってやったけど、ティーチングアシスタントのしらみず圭さん(アクターズ修了生)が非常に優秀だったから色々なことを教えてもらったりして、それで本当に助かったな。 本当に投げ出されて「じゃあ後は全部自分で調べてやって」とかだったら私は1分未満の作品しか出来なかっただろうけど、サポートしてくれたから「あ、私でも出来るんだ」という部分と「こんなに大変なんだ……」という2つの部分を学ぶことが出来た。

 

川島:作ろうと思えば誰でも作り始められるけど、ちゃんと作ろうと思うと大変なんだなっていう。そこが楽しさでもあり大変さでもありっていう。

 

深澤:そう。だからそういう意味で本当にやってよかったなって思ったな、あれは。

 

川島:しーぬん(深澤)はさ、作る方にも興味があるでしょ?それってこれがきっかけ?

 

深澤:そう、完全にきっかけだった。まずパソコンを触ろうなんてことも何かきっかけがないとやらないし(笑)。で、出来るんだっていう実感にもなったから。自分で作るとか能動的にクリエイティブに動いて行くっていうことも大事なんだなって思った。何かを発信していって「自分はこういう人なんですよ」っていうことを示す1つのツールになるなって。

 

川島:みんなの作品を見て、その人となりも分かるからね。

 

深澤:しかも役者をやりながら監督もやっている人も結構いるじゃないですか。そこに興味があるのもあってという感じですかね。

 

佐藤:僕も機械音痴で。Macとかも触ったことがなかったし、カリキュラム的にも忙しかったからそんなに編集に時間を割けないと思っていたところもあった。それで、長回しだったら編集作業は少なくなるじゃないですか。そういうところから僕はPOV風のホラーっぽいものを撮った。(※POV:Point Of View。ホームビデオのような主観ショットのみで校正された作品構成のこと)
音とかも出来るだけ作業しないようにしようと思って。カットが切り替わるタイミングとかも最初から決めてやるっていう。編集の手間を如何に少なくするかっていうところからああいう風になった。

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深澤:でも編集、発表の日の朝まで編集室でずっとやっていたよね(笑)。

 

佐藤:そう。前日の夜に終わるかと思ったら終わらなくて、当日ギリギリまで。

 

川島:結構作業で編集室にみんな集っていたから、それも楽しかったよね。でも何故ホラーを撮ったんですか?

 

佐藤:POVにはそういうのが多いし、POVは低予算で撮る表現じゃないですか。あとはいわゆるジャンル映画みたいなのって好きなんで「じゃあホラーで」って決めた。

 

川島:どうですか、撮ってみて。

 

佐藤:大変でした。夜中に壁の薄い安いアパートの部屋で声を出したりしていたから、ものの5分くらいで隣に住んでいるおっさんから「うるせー!」って言われてビビりながらやりましたけどね。

 

川島:逆に養成所に行っていた二人としては「これは映画美学校、珍しいことをしているな」「ここは他と違うな」みたいなところはありますか?

 

佐藤:やっぱり「カメラで撮る」っていうところじゃないですか。古澤さんの短編映画ゼミにしろね。舞台系のところだと最初からそんなこと、やろうともしないし。
(※古澤健が担当する「短編映画ゼミ」は、古澤が監督、受講生が出演者として1本の短編映画を制作する講義。撮影は終わり、現在編集中とのこと)

 

深澤:私が行っていた養成所は映像系だったから、舞台表現的な、例えばビューポイントとか身体全身使ってみたいなレッスンはなかったから、映画も演劇もどちらでも通用する人を育てるっていうところで凄く手広いというか、役者としては色々なことが必要なんだなっていうのが身に染みて分かった。
(※ビューポイント:青年団所属の俳優・近藤強が担当する講義で扱われる演技メソッド。 1970年代に振付家のマリー・オーバリーによって考案された即興ダンステクニックをベースに、アメリカ人演出家・アン・ボガートが俳優・パフォーマー・演出家向けに発展させた俳優訓練法。)
(参考:http://www3.center-mie.or.jp/center/bunka/event_c/2012/0107.html)

 

川島:前にいたところではどういうことをやっていたの?

 

深澤:私がいたのはモデルとかタレントとか、役者だけじゃないところだったから、ダンスのレッスンだったり歌のレッスンだったり、本当に幅広くちょっとずつ搔い摘んで、という感じだった。ここは「お芝居」っていうものに特化してずっと詰めてやれるところだったから、本当に通っていた半年間はずーっとお芝居のことしか考えてなかったし、のめり込める期間だったな。

 

川島:昨年からカリキュラムが半年間になってスケジュールが詰まって大変でもあったけど(※以前は一年間のカリキュラムだった)、逆に一日たりとも台本を持っていない時がないというか、常に何かを抱えていたでしょ。何かしら、役のことだったり台本のことだったりっていうのを考えている半年間だった。今考えると凄く贅沢だったなって思うよね。

 

深澤:思う。やっぱり養成所って受動的な人が多くて、あんまり「学ぼう」というよりは「ここにいれば何かを得られるだろう」くらいにしか思っていない人たちがわんさかいたんだけど、映画美学校の人たちは、やっぱりここに集まってくる理由とか色々抱えているから、能動的に何かをやっていこうっていう人たちが多かった。だから喧嘩という意味ではなくてぶつかり合いつつ、色々な意見がありつつ発展していくことが多かったのかな。

 

川島:それぞれ自分の価値観だったりやりたいことだったりがあったからぶつかりもしたけど、刺激的な半年間だったかな。

 

深澤:そこが「養成所」と違って「学校」っていう場所なのかな、という感じ。

 

川島:あと個人的には、この学校には試写室があるじゃないですか。他にも設備が結構ちゃんとしている。ミニスタジオもかなり大きいし。私は他の養成所とかには行ったことがないけれど、何かしらカリキュラムの中で映像作品を作ったら、大体完成したものを試写室で観られるじゃない?それも結構ありがたいのかもなぁと思った。映研とかだと教室とかでの上映になるのかな?

 

佐藤:そうだね。サークルによって上映機材を持っているところもあったり、学生会館みたいなところの視聴覚室を借りてとか。

 

川島:ここの試写室は業務試写もやっている、映画館と変わらないちゃんとした上映環境だからね。軽々しく観ていたけれどさ、考えてみれば早々にスクリーンデビュー出来ちゃう、みたいな(笑)。

 

深澤:そうか、スクリーンデビューっていったら確かにそうかもしれない(笑)。

 

川島:関係者試写みたいなものだからね。

 

深澤:あれだけの大画面で自分を観る経験ってあんまりないよね。

 

川島:実際試写室で観ると「私、瞬きし過ぎでウルサい!」みたいな感じになるじゃん(笑)。あとはミニコラボがあったのも結構特殊かもね。

 

深澤:うん。役者だけの関係じゃなく、みたいなね。
(※ミニコラボ:フィクション・コースとの共同カリキュラム。出演者は俳優育成ワークショップ受講生、スタッフはフィクション・コース受講生、監督はフィクション・コース講師で現役の映画監督が担当し、短編映画を制作する。今期では井川耕一郎、大工原正樹、高橋洋、三宅唱の4名の監督作品が生まれた)

 

川島:その話もしようか。今日来てくれた人たちは、大工原班と三宅班の人だよね。じゃあ大工原班は?セットとか凄く凝っていたよね。

 

深澤:セットは凄く凝っていて、このミニスタジオがマジで別世界になった。それは本当に凄かった。美術というか、空間を作ることが演じる役にも影響してくるから「あっ、この中で私はやるんだ」とか思ったりとかして。作り込みは一番凄かったんじゃないかな。謎の地下室みたいな雰囲気を作れたのは凄いなと思った。あとは、大工原班は結構台本が上がるのが遅かったっていうのだとか、こだわりが強い方なのかなぁという印象があるかな。
ミニコラボ全体のことで言ったら、普通の映画の撮影だと役者って最後に後付けで参加してくる感じがありますよね。脚本とか撮影準備が色々終わって、衣装合わせで初めて顔を合わせ、本番で演技してって感じだけど、ミニコラボは「みんなも何か案があったら出して」という感じで企画会議の段階から一緒にいられたから、そこで参加している感というか、ちゃんとゼロから作品に関わっているスタッフの一員みたいな部分では面白かったですね。

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川島:そういう部分もあったから、フィクション生も慣れない中で多少大変な部分があってもやり切れたっていうのがあるのかもしれないね。

 

深澤:そう。そこから関わるからこそ、ミニコラボが終わった後もフィクション・コースの人たちと繋がれた。やっぱりスタッフの一員という心持ちで参加して、その後に発展していくっていうのが大事なのかな。未だに大工原班の人たちとは繋がりがあるし、フィクション・コースの修了制作も今ちょうど撮影しているからそれに呼ばれたりとかもあったりする。だからミニコラボって他のコースの人と関われるから本当に人脈が広がるし、面白い人に出会える。

 

川島:全然雰囲気が違うもんね。コミュニケーションの取り方も私たちと全然違うから(笑)。でもそれはフィクション生に限らず、スタッフサイドの方々の特徴なのかもしれないからさ、そういう意味では社交性がみんなドンドンついていくんだろうね。なんか本当に「ここまでどうやって生きて来たんだろう……」みたいな人もいるから(笑)。

 

全員:笑

 

深澤:そういう意味でも新しい価値観に出会える(笑)。

 

川島:じゃあ三宅班について語りますか。

 

佐藤:脚本が出来るのが遅いっていう点でいえば、三宅班も前日とかだった。

 

川島:そうですね。脚本は超急でした。2日前くらいに「このダンス覚えて来て」って言われて悪夢を見た(笑)。

 

深澤:そうなんだ!結構順調に進んでいたと思っていた。

 

佐藤:そもそもが1つの話じゃなくて、オムニバス的なやつということもあったから。

 

川島:丁寧にフィクション生のアイディアを拾っていこうっていう三宅さんの姿勢があったし、私たちも脚本だったり企画だったりに意見を出してよかった。それこそ登場人物のキャラとかね。

 

佐藤:「この日までに意見を下さい」を言われても大体自分たちしか出してない、とかもあった(笑)。

 

川島:でも割とそういう傾向があったよね。私たちの方が意見を出している、みたいな(笑)。

 

佐藤:演劇とか映画とか、台本や脚本がギリギリに上がってくるのがかっこいいみたいな風潮が全体としてちょっとあるでしょ?

 

川島:武勇伝っぽい感じ。「前日の夜に脚本が出てさぁ〜」みたいな。

 

佐藤:そういうのが何となく許されている感があるよね。

 

深澤:私、そういうの許せないんですよね。

 

川島:許されないべきだよね。

 

佐藤:でもそのアウトロー感みたいな、そういうのがあるよね。

 

川島:他にも自主映画の撮影とかだとスケジュールとかもあやふやだったり、計画が杜撰だったりもするしね。

 

深澤:だから危険撮影のことだったりだとか、そういうのがカリキュラムの最初の「俳優の権利と危機管理」で言われていたから、ちゃんと意見出来る自信が持てたというか。「それはやっぱり違う」みたいな感じで。

 

川島:すぐに役立ったね(笑)。やっぱりみんないっぱいいっぱいになっちゃったりもするしさ、それぞれの立場にならないと分からないことがいっぱいあって、だからこそちゃんと自分たちから意見を言わなければいけない場面もあったりするんだと思ったよね。でも、三宅班は全体的に凄く楽しかったよね。
あと、演出の講義をフィクション・コースでやっていて、それに私たちも見に行ってよかったので三宅さんの講義を見に行ったら、受講生から「俳優にどういう風に演出を付けるんですか」「何を伝えて何を伝えないんですか」ってゆう質問があった。それに対して「それは俳優のタイプを見て、共犯関係を結べるような人だったら『こういう意図でこういう風に撮りたい』と伝えるし、そうじゃなくてシチュエーションとか役柄を伝えた方が良ければそうする」みたいなことを言っていて、俳優と共犯関係みたいなことを思ってくれる人って凄くいいなと思った。
実際に演出を受けて思ったのが、三宅さんって結構比喩を分かりやすく伝えてくれる。分からなかったら、別の角度から言ってくれたり、だから「伝わらない」っていう前提で私たちに接してくれて、「どうしたら伝わるか」っていうことをちゃんと考えていてくれているなと思ったかな。「歌だと思ってこのセリフを言って」とか「幼稚園児みたいな感じでやって」とか。 あと、映画美学校のロビーでの撮影は、凄く雰囲気のある感じに出来ていて、普段のロビーと全然違ったよね。映画館に見立てるところから始めて。

 

佐藤:やっぱり照明って凄いなって思った。

 

川島:照明は本当に魔法使い!山田(達也)さんね。
(※山田達也キャメラマン。フィクション・コースの撮影・照明の技術講師を務める。ミニコラボ実習では各作品の撮影・照明の指導を担当。)

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深澤:マジカッコよかった!(笑)

 

川島:井川班はリハーサルがすごかったらしいね。とにかく同じシーンを3時間くらいずっと繰り返し続けるとか。しかも具体的な指示はそんなにされない。

 

深澤:でもそれでしおしお(和茉しおり)がやってたの、ベンチのさ、なんだっけあれ?

 

川島:「死ね死ね」みたいに言い続けるやつ。

 

深澤:あれ凄く良かった。かわいかった。

 

川島:でもそういうのも最初はなくて、リハーサルをやっていく内にアイディアとしてしおしお(和茉)がやって採用されたらしいね。きついけど、俳優がアイディアを出すみたいなことに関してはかなりの訓練になるよね。

 

深澤:いいなあ〜。やってみたい。

 

川島:ちなみに今年の俳優養成講座では井川さんが主任講師です。

 

佐藤:でも、映画監督ってどちらかというと画に興味がある人と芝居に興味がある人とに分かれるような気がするけど、井川さんは演技よりっていう感じでしたね。

 

深澤:井川さんの役者を見る眼が凄く愛があるという風に私は凄く感じた。ちゃんと一人一人のことを見てて、キャスティングも面白かったな。

 

佐藤:講義を見に来ていたもんね。

 

深澤:そうそう。本当に役者に興味がある人なんだなって。

 

川島:そういう人に撮ってもらえることは俳優としては嬉しいことですよね。

(あれ!?トニーがいない! 第2回へつづく)