アクターズ高等科・講師エッセイ/深田晃司さん
「アクターズ・コース俳優養成講座 2020年度高等科」は6名の講師がそれぞれゼミを担当しています。そのゼミの内容は、講師の皆様がそれぞれ企画しました。今回は『俳優について考える連続講座〜演技・環境・生きること〜』『アクターズ・ラボ』を担当する深田晃司さんに一問一答形式で答えていただきました。
1、『俳優について考える連続講座〜演技・環境・生きること〜』をやろうと思った経緯ってなんですか?
基本的に演技の専門家は監督ではなく俳優自身だと考えています。なので、私から演技論のようなことを伝えるのはほどほどにして、それよりも俳優としての取り組みは何もカメラや舞台の上でうまく演じることだけではないということを伝えたいと思いました。俳優になりたいと思った人、自分は俳優であると自覚している人が、少しでも長く少しでも楽しく俳優であり続けるためには、俳優という職業を取り巻く環境についても知っておいたほうがよいと思うからです。
2、アクターズ・コース高等科のゼミで印象的だったことを教えてください。
ときどき映画美学校の外でも俳優ワークショップなどを行うのですが、やはりアクターズ・コースをすでに経験してきている今回の受講生は、俳優という属性にまつわる社会的な問題意識がやや高いと感じました。これはアクターズ・コースで継続して行われている「俳優の権利と危機管理」の授業の成果なのかも知れませんが、何よりも皆さんが映画美学校を修了後にきちんと自分たちの仕事や自分自身と向き合ってきたこと、さらにコロナ禍で足踏みせずに前に進みたいという姿勢の顕われだろうと思いました。
2年前に台湾で知り合った映画学校の学生が、助成金や労働保険のことなどとても詳しく把握していたことは今でも強く印象に残っていますが、やはり学校という場で行えることはまだまだたくさんあると感じます。
また、山内健司さんと行った『俳優の権利と危機管理』ゼミで韓国の若手俳優キム・イェウンさんをオンラインでお招きしたのですが、キムさんから伝えられた日本よりもハラスメント対策が数歩進んでいる韓国の状況は私にとってもとても刺激的で、また3時間程度と短い時間ではあったものの、若い俳優同士の対話は教える/教えられるという関係性以上の有意義な時間になったのではと感じました。
3、映画美学校フィクション・コース修了生かと思うのですが、アクターズ・コースの講師として担当するまでにはどんな経緯があったんでしょうか。
私は映画美学校を20歳前半の頃に修了をしてから、自主映画を作るたびに撮影機材を借りに足繁く映画美学校に通っていてお世話になっていたのですが、実はそこにあるコミュニティからはやや距離を取るようにしていました。
そこにいけば、日本映画の最前線に立つ講師陣と話し酒を飲み(自分は下戸ですが)映画論を交わすことができ、まるで自分が映画の最前線にいるような錯覚に陥ってしまう、それがとても不安だったからです。
ただ、古澤健さんからアクターズ・コースを作るというお話を聞き、とても面白いと思いました。当時は、俳優向けの演技ワークショップが盛んになり始めた頃でしたが、そのほとんどが監督や演出家を講師に迎えていることに違和感を覚えていました。監督や演出家の多くは「演技」の専門家ではない、向かうべきゴールを示すことはできてもそこへの行き方を手取り足取り教えることはできない、という思いがあったからです。また、監督や演出家のワークショップではそこにあるキャスティング権が言外に特典となってしまっていたことも不満でした。だから、アクターズ・コースのように、経験豊かな俳優が、自らの知見を若い俳優たちに伝えていく場を作ることができるのなら、ぜひそのお手伝いがしたいと思い参加しました。
4、映画美学校フィクション・コースに入ろうと思った経緯を教えてください。
中学の頃から映画バカで、映画ばかり見て生きていました。ただ、たまたま見ていたのが自分が生まれる前の海外の映画や白黒映画ばかりだったので、「自分が映画作りに関わる」という発想自体がゼロでした。コミュニケーション能力に自信がなく集団創作をできるとは毛頭思っていなかったことも理由のひとつです。だから、大学2年性のときに、映画を見に行ったユーロスペースで映画美学校フィクションコースの夏期講座のチラシを発見したときに、まさか映画を学ぶことができる、映画を作る側に回れるという考え自体に衝撃を受け、そのまますぐに申し込みました。夏期講座を終えたあとに、秋から始まる本講座に通うことになった理由は、夏期講座のグループワークで自分が撮りたいと思った企画を撮らせてもらえなかった消化不良感があったからです。
5、アクターズ・コースの講師として関わってきて、印象的なことはありますか?
私自身が、生徒の皆さんと言葉を交わすなかで勉強させてもらっているという印象です。まだまだ至らない講師で申し訳ないと思っています。
6、深田さんがご自身の映画を作るときって、ご自身の中で普遍的なテーマのようなものはあるんでしょうか?
自分にとって信じられること、より普遍に近いと思うことが自分にとって最も大切な「モチーフ」だと思っています。そうなると「結局人間は孤独だよね」ということや「人って死ぬよね」みたいなことを毎回あの手この手で繰り返し描くことになります。ここらへんのモチーフは何度描いても答えがでることはないので、一生取り組んでいくことになるんだろうなと思っています。
7、『本気のしるし』絶賛公開中ですが、この作品で初めてトライしたことなどはありますか?
10話の連続ドラマを作るということ。漫画原作であるということ。他の脚本家と一緒に物語を作っていくこと、です。
8、深田さんの作品は、すれ違い続ける人間の微妙な機微がとても繊細に描かれていると思ったのですが、演じる俳優にリクエストしたことなどはあったのでしょうか。
心の機微をこう演じて欲しいみたいなリクエストをしたことはないと思います。毎回お願いしているのは、目の前の共演者とカメラの前でもきちんとコミュニケーションを取りながら演じて欲しい、ということです。そうすれば、脚本に隠された複雑な機微みたいなものが自然と観客の心のなかに浮かびあかるに違いないと思っています。
9、深田さんにとって「映画」とはどのような存在でしょうか。
作り手としても一映画ファンとしても、世界をよりよく知るためのきっかけを与えてくれるものです。演じることも同じなのではと思っています。
10、深田さんにとって「俳優」とはどのような存在でしょうか。
映画作りの創造性に関わる大切なパートナーです。あと、自分にできないことをしてくれる人。いつも助けられています。
11、今、興味を引かれていることはありますか?(もしくは、問題だと思っていること、感情を引っ張られるようなことなど)
日本の文化(に限らずですが)の場の安心安全をどうすれば高めていけるかです。
12、アクターズ・コースを今後受講希望される方に何か一言お願いします。
映画を作ることや演じることは、仕事になる場合もあればそうではない場合もありますが、どちらにせよ限りある人生を豊かにしてくれるものだと思っています。ぜひお気軽にお越しください。
深田 晃司(ふかだ こうじ)
1980年生まれ。99年映画美学校フィクション・コース第3期に入学。長・短編3本を自主制作。06年テンペラ画アニメーション『ざくろ屋敷』でパリ第3回KINOTAYO映画祭新人賞受賞。08年映画『東京人間喜劇』でローマ国際映画祭正式招待、大阪シネドライブ大賞受賞。10年『歓待』が東京国際映画祭日本映画「ある視点」作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞受賞。13年『ほとりの朔子』でナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。15年『さようなら』でマドリッド国際映画祭ディアス・デ・シネ最優秀作品賞受賞、16年『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞受賞。最新作『よこがお』はロカルノ国際映画祭コンペティション部門正式招待。著書に小説『淵に立つ』『海を駆ける』『よこがお』がある。特定非営利活動法人独立映画鍋共同代表。2020年連続ドラマとして製作した『本気のしるし』の劇場版が第73回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクションに選出。