【『石のような水』稽古場レポート】演出家と役者たちの脳のひらめき なかむらなおき
アクターズコースの修了公演「石のような水」が4月10日から12日までの間、アトリエ春風舎で上演されます。その稽古場を批評家養成ギブスの修了生が見学できることになりました。修了生である私は早速3月18日に見学してきましたので、その時の風景をご報告いたします。
たどり着いたのは20時30分ほど。稽古も熱の入っている頃です。演出の松井周さんがテーブル席に座り、その面前でアクターズ・コースの受講生である役者さんが同じシーンをひたすら繰り返していました。
「ちょっと待って。ここはこうやってみよう」
松井さんの指示に従って役者さんたちがそのように演技をしていきます。
「ちょっと違うなぁ」
それに対して松井さんは再び考え始めます。マレビトの会の松田正隆さんの描いた脚本に悪戦苦闘しています。その文字から想起するイメージがなかなか浮かばないようでした。
「ここの言葉は気持ち悪いな。削ってしまおう」
「でも、この言葉は繰り返しでてきますよ」
役者さんからそのような言葉が出てきます。
「明確な意図があるのか。ではここをどうするかは後で考えます」
松井さんからも役者さんからもいろんな意見が出てきます。それは作品について、段取りについてなどいろいろです。その意見の中でよりよいものを演出の松井さんが先送りすることも含めて決定していきます。
まだ稽古が始まった頃なので、まだまだ全体像が見えない。なんとも真っ暗な世界です。でもその世界を閃くきらきらしたものが見えました。それはシナプスを流れる電気信号のようでした。その稽古場は思考が可視化できるほどに濃密な空間だったのです。ものが生み出されるエネルギーはなんてすごいのでしょう。このエネルギーに秩序が与えられた時、どのようなものが生み出されるのでしょうか。それがなんとも楽しみになってきました。
了