総合プロデューサー暇つぶし雑記(その4)/井川耕一郎さんより
今回は映画美学校アクターズ・コース「映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座2017」主任講師である井川耕一郎による総合プロデューサー暇つぶし雑記(第4回)をお送りします!
フィクション・コースの講師として長年映画美学校に携わって来た井川さん。
その井川さんがアクターズ・コースの主任講師として、新鮮な目で受講生を見守っていた記録──
それではどうぞ!
玉田真也さん(玉田企画)の希望は、修了公演では他のひとの戯曲を演出をしてみたいというものだった。
いくつか演目の候補があがったが、決定するにはアクターズ・コース生ひとりひとりを知っておく必要がある。
というわけで、昨年九月下旬に玉田さんのワークショップが行われた。
アクターズ・コース生に配られたテキストは、玉田さんが書いた『少年期の脳みそ』の一場面。場所は高校卓球部が合宿で泊まっている旅館の一室で、登場人物は女子部員の里中とOBの加藤(二人はこっそりつきあっている)。
玉田さんが決めた男女の組み合わせで演技の発表が順番に行われたのだけれども、テキストどおりに演じるというのではなかった。芝居をしばらく見てから、玉田さんは設定などをどんどん変更していった。
たとえば、加藤紗希さん・石山優太くんのときには、二人とも既婚者で市民サークルで知り合い、不倫関係になったというふうに設定に変わり、さらに男の方が女より部屋の外を気にしていることになった。
小林未歩さん・那木慧くんのときには、何でそんな遠くに座ってるの?と女にいじられて男が反応する、という指示が玉田さんから出た。すると、那木くんがちょっとうろうろしたあと、いきなり寝転がって小林さんの膝の上に頭をのっけた。膝枕を求めておきながら硬直している那木くんの姿に思わず笑ってしまったが、小林さんがそうするのが当然でしょとでもいうように彼の頭を撫でだしたのもおかしかった。
豊島晴香さん・釜口恵太くんの番では、離れて座りながらの会話がとぎれたあと、男が女に思いきり近づくことになった。玉田さんが釜口くんに、もっと近づいて、もっと近づいて、と指示し、体がくっつくくらいまでになったところで、豊島さんが反射的に立ち上がり、それにつられて釜口くんも立ち上がってしまうという展開になった。そして、先に立った豊島さんが、何で立ったの?と釜口くんに逆に訊き、彼の服の端っこをつまんで自分の方にちょっとだけ引き寄せるというふうに芝居が続いていった。
玉田さんの芝居では、登場人物間の距離の変化に独特のユーモアがあるけれども、そのユーモアはこんな感じで作られていくのかな、なんてことを見学しながら思った。
ワークショップの後半では、『少年期の脳みそ』の稽古をやっているという設定にして、里中役・加藤役・演出家役の三人一組で演じることとなった。
加藤紗希さん・高羽快くん・本荘澪さんの番では、玉田さんから演出家役の本荘さんに指示があった。演出家は新人で、ベテランの役者に反論されてしどろもどろになる。で、つまんないのはわたしのせいですよね、と落ちこんで下さい。そうすると、役者二人が演出家を励ましだすという流れでやってみましょう。
さらに玉田さんから追加の指示があって、励まされても演出家は、全然ダメだ、この台本捨てます、と言いだすことになり、加藤さんが、明日本番なのに、何言ってんの!と怒る展開になった。
本荘さんは演技経験ゼロとのこと。けれども、背の高い加藤さん、高羽くんにはさまれながら、ちっちゃい体で一生懸命演じている姿は好感が持てる。
高橋ルネさん・釜口恵太くん・湯川紋子さんのときには、演出家役の湯川さんが、途中で芝居を止めて、ダメ、ちがう、じゃあ、方言でやってみましょう、と言いだした。高橋さん、釜口くんが言われたとおりに演じていると、また湯川さんが芝居を止めて言った。これはなし。じゃあ、ミュージカルでやってみましょう。
次の瞬間、高橋さんと釜口くんが、えっ?と素に戻って顔を見合わせた。それでも、湯川さんが芝居を始めてとパンと手を打つものだから、むちゃぶりに応えてミュージカルを即興でやりだした。もうどうにでもなれというヤケクソな感じ。見ているアクターズ・コース生たちから笑いが起きた。
すると、湯川さんが芝居を止めて言った。これもなし。じゃあ、最初のに戻しましょう。
湯川さんは自分たちの番が来るまで真剣にどうしたらいいか考えていたのだろう。その真剣さは良しとしても、これじゃあ、演劇でなくて、コントだよ、なんてことを思いつつ、それでもみんなと一緒に笑って楽しんでしまったのだった。
地下スタジオには、ときにバカなこともやれるような自由な雰囲気があるべきなのかもしれない。
十月になってから、玉田さんから学校に連絡があった。修了公演で平田オリザ『S高原から』をやってみたいとのこと。
アクターズ・コース生に伝えると、えっ!『S高原から』やるんだ、と嬉しそうな声が返ってきた。
井川耕一郎(映画監督・脚本家)
1962年生まれ。93年からVシネマの脚本を書きはじめる。主な脚本作品に、鎮西尚一監督『女課長の生下着 あなたを絞りたい』(94)、常本琢招監督『黒い下着の女教師』(96)、大工原正樹監督『のぞき屋稼業 恥辱の盗撮』(96)、山岡隆資監督『痴漢白書10』(98)、渡辺護監督『片目だけの恋』(04)『喪服の未亡人 ほしいの…』(08)やテレビシリーズ「ダムド・ファイル」などがある。最新作は監督も務めた『色道四十八手 たからぶね』(14)。映画美学校では、コラボレーション作品として『寝耳に水』(00)、『西みがき』(06)を監督している。他、編著書として、高橋洋、塩田明彦と共同編著した大和屋竺シナリオ集「荒野のダッチワイフ」(フィルムアート社)がある。
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映画美学校アクターズ・コース 2017年度公演
「S高原から」
作・平田オリザ 演出・玉田真也(玉田企画)
【玉田真也(玉田企画 / 青年団演出部)】
平田オリザが主宰する劇団青年団の演出部に所属。玉田企画で脚本と演出。日常の中にある、「変な空気」を精緻でリアルな口語体で再現する。観る者の、痛々しい思い出として封印している感覚をほじくり出し、その「痛さ」を俯瞰して笑に変える作品が特徴。
出演:石山優太、加藤紗希、釜口恵太、神田朱未、小林未歩、髙羽快、高橋ルネ
田中祐理子、田端奏衛、豊島晴香、那木慧、那須愛美、本荘澪、湯川紋子
(映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座2017)
川井檸檬、木下崇祥
舞台美術:谷佳那香、照明:井坂浩(青年団)、衣装:根岸麻子(sunui)
宣伝美術:牧寿次郎、演出助手:大石恵美、竹内里紗
総合プロデューサー:井川耕一郎
修了公演監修:山内健司、兵藤公美、制作:井坂浩
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公演日程:2018年2月28日(水)〜3月5日(月)
2/28(水)19:30~
3/1 (木)19:30~
3/2 (金)15:00~ / 19:30~
3/3 (土)14:00~ / 19:00~
3/4 (日)14:00~
3/5 (月)15:00~
※受付開始は開演の30分前、開場は開演の20分前
※記録撮影用カメラが入る回がございます。あらかじめご了承ください。
チケット(日時指定・全席自由・整理番号付)
前売・予約・当日共
一般 2,500円 高校生以下 500円
資料請求割引 2,000円
※高校生以下の方は、当日受付にて学生証をご提示ください。
※未就学児はご入場いただけません。
※資料請求割引:チケット購入時に映画美学校の資料を請求してくれた方に500円の割引を行います(申し込み時に資料の送付先となる連絡先の記入が必須となります)。
チケット発売開始日 2018年1月8日(月・祝)午前10時より
<チケット取り扱い>
CoRichチケット! https://ticket.corich.jp/apply/88312/
<資料請求割>
映画美学校の資料を請求いただきました方は当日2500円のところ、2000円で鑑賞いただけます!
下記よりお申込みください。お申込み後、映画美学校より随時学校案内などの資料をお送りいたします。
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会場
アトリエ春風舎
東京メトロ有楽町線・副都心線/西武有楽町線「小竹向原」駅 下車
4番出口より徒歩4分
東京都板橋区向原2-22-17 すぺいすしょう向原B1
tel:03-3957-5099(公演期間のみ)
※会場には駐車場・駐輪場がございませんので、お越しの際は公共交通機関をご利用ください。
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