映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

『Movie Sick』稽古見学日記(第1回)/井川耕一郎さんより

こんにちは!ムビシク応援隊のSです!
今回の記事は超必読!
映画美学校アクターズ・コース「映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座」主任講師である井川耕一郎による稽古見学日記(第1回)をお送りします!

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フィクション・コースの講師として長年映画美学校に携わって来た井川さん(写真中央)。
その井川さんが今期からアクターズ・コースの主任講師として、新鮮な目でアクターズのみんなを見守っていた記録——
それではどうぞ!

 

 

『Movie Sick』稽古見学日記(第1回)

映画の現場はある程度見ているけれども、演劇のことはまったく知らない。演劇はどのように作りあげられていくのだろう?
それが知りたくて、佐々木透さん(リクウズルーム)作・演出の『Movie Sick』の稽古を見学することにした。
本題に入る前に佐々木さん自身が書いた『Movie Sick』のあらすじを引用しておこう。

 その部屋には、ある事件の被害者がいた。
 心に傷を負った被害者から、残酷にも事件当日のことを聞き出そうとする医師。
しかし、すんなりとはいかない。
 疲弊した被害者を救うためには、被害者自身で事件当日の再現をし、その模様を記録することだと訴える医師。
 まるで、それが特効薬ででもあるように主張する。
 当然、被害者は拒否をするがやがて、自己との向き合いなくして人としての生きる道はないのでは?という自らの問いかけに苦しみながらも、徐々に事件当日の事を語り、再現していく。

1月20日
13時、地下スタジオ。この日はホン読み。アクターズ・コース生11人に『Movie Sick』の台本が渡される。
佐々木さんが台本について説明する。登場人物は舞台に登場しない不在の重要人物を含めて12人。芝居もScene1からScene12まで12の部分から成り立っているとのこと。
配役の発表があって、さっそくホン読みが始まる。アクターズ・コース生はどういう芝居なんだろうと探り探り読んでいる。
ホン読みのあと、佐々木さんが言う。「みなさん、暗いですねえ。声をはって元気にやっていきましょう。お笑いをやっている感じで」
すぐに二回目のホン読み。「リズムはいいですね。でも、パワーをもっと」と佐々木さん。
その後、ためしに実際に体を動かして出だしの部分をやってみましょうかということになった。
Scene1は鈴木睦海さんと仁田直人くんの二人芝居。佐々木さんは二人に「自由にやってみて下さい」と言って指をパチンと鳴らす。
2回目には佐々木さんからの指示があった。向き合って話し続けるのではなく、あるタイミングで二人とも客席を向いてほしいとのこと(役者の顔を正面から見せたいということか)。
3回目は「楽しみながら演じて下さい」。佐々木さんが指をパチンと鳴らし、芝居が始まる。
シーン3までをためしに演じたあと、18時から地下教室で懇親会という名の飲み会。
米川幸リオンくんと仁田直人くんはその場を雰囲気を明るくもりあげずにはいられないタイプだ。なので、佐々木さんに積極的に話しかけ、大笑いしている。
そういえば、『Movie Sick』では鯨のことがちょっと話題になっている(そもそも『Movie Sick』というタイトルが、メルヴィルの『白鯨 Moby Dick』を意識したものだ)。そこで鯨ベーコンを買って、みんなで食べてみることにする。
ぼくのようなおっさんだと、鯨は子どもの頃に食べたことがあるが、若いアクターズ・コース生にとってはほぼ初体験だ。「意外においしい」という意見と、「あまり好きじゃない」という意見が半々といったところか。
帰宅後、ホン読みを聞きながら感じたことを整理してみる。

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台本だと、登場人物の名前は生徒1、生徒2、生徒3……となっていて実に素っ気ない。けれども、読んでみると、佐々木さんがアクターズ・コース生一人一人に合った役を書こうとしているのがよく分かる。
たとえば、鈴木睦海さんは、ぼくが担当した短編映画制作の講義で、カメラで撮ることの楽しみに目覚めてしまったひとだ。その睦海さんが『Movie Sick』では事件の再現をムービーカメラで記録する医師の役を演じることになっている。
あるいは、金岡秀樹くんは実家が神社で、塗塀一海くんは登山が趣味なのだけれども、そうしたことをふまえたセリフが書かれている。
しかしそれにしても、一観客の目で見てみると、『Movie Sick』の台本はなかなかの曲者だ。
舞台上にあるのは、三脚の上にとりつけられたムービーカメラと、椅子が一つだけ。
観客は登場人物のやりとりから、ここはどこなのかを探ろうとするだろう。
おそらく、病院の一室なのだろうと推測できても、事件の再現が始まると、舞台空間の見え方は変わっていくはずだ。
同じことは登場人物についても言える。
あらすじだと、鈴木睦海さんは事件の再現を記録する医師ということになっているが、本当にそうなのか。彼女の言動には医師という役から微妙にずれるものが含まれている。
他の10人が演じる事件の被害者たちもについても、被害者の役割から逸脱するような部分が次第にのぞいてくる。
要するに、『Movie Sick』は、登場人物と場所のあり様がどんどん変化していくのを楽しむ芝居、佐々木さんとアクターズ・コース生11人にたぶらかされるのを楽しむ芝居になっていくのだろう。
しかし、今後、稽古を見学するうえで、台本をある程度理解する必要がある。
そこで、記録する医師-10人の事件の被害者-舞台上に登場しない重要人物の三者の関係の変化に注目して、台本をScene1~4、Scene5~8、Scene9~10、Scene11~12の四段落に分割して読み直してみる。
読み直しているときに、ふと思ったこと。この分厚い台本(40字×40行で46ページある)をアクターズ・コース生は2月1日の稽古初日までにおぼえてこなくてはいけないのだ。うわあ、役者は大変だ……なんてことをあらためて思ったわけなのだが。

(第二回に続く)

井川耕一郎
1962年生まれ。93年からVシネマの脚本を書きはじめる。主な脚本作品に、鎮西尚一監督『女課長の生下着 あなたを絞りたい』(94)、常本琢招監督『黒い下着の女教師』(96)、大工原正樹監督『のぞき屋稼業 恥辱の盗撮』(96)、山岡隆資監督『痴漢白書10』(98)、渡辺護監督『片目だけの恋』(04)『喪服の未亡人 ほしいの…』(08)やテレビシリーズ「ダムド・ファイル」など。最新作は監督も務めた『色道四十八手 たからぶね』(14)。本年度より映画美学校アクターズ・コース主任講師。

 

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2017年3月2日[木] - 3月5日[日]
アクターズ・コース2016年度公演
『Movie Sick ムービーシック』

作・演出:佐々木透(リクウズルーム)
リクウズルーム代表。ク・ナウカシアターカンパニーで演出家・宮城聰のもと俳優として活動。退団後、執筆活動に取り組む。「日本の劇」戯曲賞2013最優秀賞受賞、第5回泉鏡花記念金沢戯曲大賞受賞。 文学への深い知識、鋭い感性と美意識を持ち、”戯曲構造”と”物語の可能性”を探る事をテーマに創作活動を行う。

出演:浅田麻衣、太田英介、大西美香、金岡秀樹、
   鈴木睦海、鈴木幸重、外崎桃子、仁田直人、
   塗塀一海、四柳智惟、米川幸リオン
  〔アクターズ・コース映画・演劇を横断し活躍する俳優養成講座〕
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公演日程
2017年3月
2日(木)19:30〜★
3日(金)19:30〜★
4日(土)14:00〜/19:00〜
5日(日)14:00〜/18:00〜
★=終演後アフタートーク開催〔30分程度を予定〕

※未就学児童の入場はご遠慮ください。 
※受付開始・当日券販売は開演の40分前、開場は開演の20分前 
※演出の都合上、開演後はご入場をお待ちいただく場合がございます。

会場:アトリエ春風舎
〒173−0036 東京都板橋区向原2−22−17 すぺいすしょう向原B1


チケット料金(日時指定・全席自由、予約・当日とも)
一般:2,300円
学生:1,800円※公演当日、受付にて要学生証提示

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