映画美学校アクターズ・コース ブログ

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【イベントレポート】「監督と俳優が語る演技のヒミツ」〜その2

先日おこなわれたイベントのレポートその2です。深田監督作品への出演俳優が演技の現場について語ります。俳優の技術、俳優の技術とアクターズ講師陣はよく言っていますが、それについて語った、具体的な言葉といえるでしょうか。まずは『歓待』についてです。ぜひご覧下さい。

【2014年4月19日 14:00〜16:00 参加者:深田晃司山内健司、兵藤公美、大竹直 レポート:中川ゆかり】

山内:今回のイベントでやりたいことは、深田監督の映画に出演している僕たちが、台詞やシーンの意図や意味ではなく、演技についてだけ徹底的に話す事ができるものかどうか、ということを試してみたいと思っています。

同じシーンを何度も見て、それについて、俳優自身が演技のことだけを語ってみる、という試みです。

取り上げる映画はいずれも深田監督の作品で2010年の『歓待』、2008年の『東京人間喜劇』です。では予告編をまず見てみましょうか。

そもそも僕達(山内、兵藤、大竹)は青年団という劇団にいる3人です。10年くらい前に、深田さんがふらっと単身で劇団に入ってきました。青年団の俳優をつかって映画をとりたいということで、実際に映画を撮り始めたんです。

深田:僕は、その3、4年前に映画美学校のフィクション・コースに在籍していました。その後、青年団の演出部に所属して数年後、劇団の俳優の方達に出演してもらう映画をつくりはじめました。

山内:では早速、『歓待』のあるシーンを見てみようか。

参考上映:兄夫婦(山内・杉野)がくつろぐ家の居間。町内婦人会の集まりから妹(兵藤)が戻ってくるシーン。この後の会話は、すべて映像を見ながら話しています。

山内:はい。映像を見ながら、台詞を言ってた時の事を思い出してきましたね。このロケ地は墨田区の八広で、夜はとても静かなんですよね。僕は郊外のベッドタウンで生まれ育ったので、自分が育ってきた環境と、この(役の人が育ってきた)町工場の静けさ、というのは種類が違って。今見ても、このシーンを撮影している時は町のイメージが掴みきれてなかったんじゃないかって。コミュニティとか、その町のイメージに届いていない感じがします。

兵藤:私も、「散歩してお茶しておしまい…」って台詞があるんですが、婦人会ってやったことがない、だから、よくわかんない。その集まりに対して「批判的な私」、みたいな心理的な演技になっちゃったかな、と。(今見直すと)もうちょっと、事実だけを報告する距離感でもよかったんじゃないかな、と思いますね。

山内:イメージが薄かった、という。あと、ここで(妹が報告した後、さらに妹の台詞が続く)何か台詞が欲しかった気がする。(妹に対して)おつかれさま、とか。

兵藤:私も、何か言葉が返って来ることを期待しないで言ってますね。この(発話の)時はもう、自分の次の言いたい事に結びついている。

山内:その後の(妹「最近は不審者がいたらすぐにメールで連絡がくる」という台詞がある)不審者情報のくだりで、「変な事できないな」っていうのもなんか変な台詞ですよね。杉野さん、兵藤さんもそれに完全にスルーするっていう受け芝居をしていて。もっとセクシャルなニュアンスをいれてやってもよかったけどね。でも、この後の(夫の嫁に婦人会にきてほしい、と誘う展開)の兵藤さんの芝居、素晴らしいよね。からっぽだよね。

兵藤:「誘う」ってアクションなんだけど、形だけ誘ってるんだよね。からっぽ、心理が伴ってない。

山内:でも台詞はすかすかではない。あとね、僕はここで自分が商売やってるっていう台詞、イメージがまだまだ弱い。僕はこの地域の内部の人間なんだけど、そのイメージに追いついてない。ちなみに、ここのシーンではいろんなことが明らかになってるよね。普通だと外部の人間の存在が状況を説明する、という方法があるけれど、このシーンでは内部の存在に説明させてる。

深田:確かに、ここは必要な事を言わせてる台詞ですよね(笑)。まあ、そんなにうまく第三者ばかり登場させられない、っていう事情もありまして。

山内:ここの、(兄が妹をからかい、妹に叩かれるという展開)叩かれるリアクションだよなー。兄妹で叩かれるってとき、もうちょっと何かあったんじゃないか、今見るとちょっとこの演技は違うなあって気がするんだけど。叩かれるってことが、僕にとってどういう出来事か、っていうのをもっともっと正確に捕まえなきゃ。

大竹:この叩かれるってアクションは脚本にあったんですか?

(台本をチェックする)

山内:あ、あるね。台本どおりだったんだね。兄妹にとって、それがどれぐらいの重さなのかってのは、もっと作れたなあって。

深田:まあでも、この兄の(比較的さらっと受け止める)態度で、(妹が出戻ってきている状況が)妹にとってはまだちょっと重い、というところが出てるなと思ったのでOKにしたんですよね。

兵藤:それぞれの、(出来事への)距離感の違いってことですよね。

深田:基本的に、監督がOKという時は、俳優・スタッフを不安にさせないように全力でOKするものなんです(笑)。「OK、もう一回」ということもあるんだけど。このOKというのは、あらゆる可能性がある中で、たまたま選ばれた一つのOK、なんです。監督が現場で考えている事は、まずは、いい演技になってくれるといいな、ということなんですが、それでも時間的・予算的な成約がある中で、今がベストだろう、という総合的な判断はどうしても加味されていくわけで。

山内:一つ付け加えておきますと、今こうして行っている演技を語るという試みは監督の判断への批判ではなく、そのとき起きていた事を俳優目線で詳細に見直してみると何が言えるかな、という興味に基づくものですよ(笑)

深田:はい、もちろん了解してます(笑)

兵藤:このシーンに戻ると、妹に叩かれても動じない兄ちゃんっていうのも出てるな、って思いました。

深田:この撮影の時は、妹が兄を叩いた後の「間」を撮りたいと思ってたんですよね。……正直、監督にとって、俳優の演技というのはわからない領域なんです。僕は、演技に関する7,8割は俳優の領分だと思っています。僕が演出で一番気を遣っている仕事は、余白を作る部分だろうと思っていて。映画全体のテンポや、お客さんの想像力とのつなひきのための間を作る、というのが自分の仕事、というか。(続きます