映画美学校アクターズ・コース ブログ

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【SFリレーエッセイ第2回】ジョン・コナー世代の1人として、「SF」にまつわる雑感(三宅唱/映画監督)

去年の五月、バウスシアターで久しぶりに『ターミネーター』を観直したときのこと。T-800(シュワちゃん)が2029年から1984年にワープしてきたという設定にハッとした。おれは1984年生まれ。ということはサラ・コナーの息子ジョン・コナーとタメ……。だから、「いまおれはまさに、彼とともに一年ずつ、この未来社会に近づいているのか」と考えながら観ていた。

上映後に外に出ると、自分が80年代から今の時代にワープしてきたように感じた。「ここが未来か」と辺りを見回しながら、吉祥寺駅まで歩いた。

それから数日、そのままのノリでニュースをみたり街を歩いているうち、放射能のことも、自衛権のことも、少子高齢化も経済格差も、その頃でいえばSTAP細胞のこととかも、なんだかすべてがチープなSF映画を観ているようであり、そして残念ながらそんなチープSFに似たココが、いま自分たちが実際に生きている世界なのか、これはまじでエグいぞ、というような思いが日に日に強まっていった。

実際に80年代から今の時代にひとっ飛びにワープしてきたら、なにを感じるのだろうか。街を歩けばそこかしこに「おおすごい!」と未来を発見するかもしれない(ふだんは気に留めない自動改札機も、そういうノリの目でみると、けっこう未来感あるガジェットに映りそうだ)。そして、テレビをつけてニュースをみて、「なんでこんなことに!?」と思うだろう。

2011年以降(という言い方には抵抗感があるものの)、なにがリアルかわからないというか、なにを言ってもリアルじゃない感、地に足がつかない感が、かなり長くあった。なにをどう撮ってもうまくいくとは思えなかった。だが、たとえばジョン・コナー気分でいまの社会をみるとき(BTTFのマーティーでもブレードランナーでもいいかと)、「SF」がよりどころになるのではないか、なにかのヒントになるのではないか、ということを、直感的に、たしかに感じた。

それをむりやり言葉にすると、SFというアンリアルなフィルターを通すことではじめて、この「リアリティのない世界のリアル」を捕まえられるかもと感じた、とでも言えばいいだろうか。

去年頭からほぼ毎日iPhoneでビデオ日記を撮っているのだけれど、上記のようなことを感じはじめて以降は、しばしばiPhoneのモニターに映る風景が、たとえば車窓のむこうに広がる東京の景色も、にぎやかで“平和”な駅前の景色も、まるでSF映画の1シーンにしかみえないようになった。もしかすると、これはSF映画の1シーンなのだと自分に言い聞かせないことには、なにか納得できない違和感がそのとき目の前に広がっていたのかもしれない(このビデオ日記、一か月分ずつ編集したものに『無言日記』というタイトルをつけて発表しています)。

boid-mag.publishers.fm

とにかく、80年代のSF映画が未来として描いた時代がまさに「いま」である、ということを補助線にして、今の世の中について考えたいと思っています、という宣言。80年代SFはたしかに映画原体験にあるけれど、詳細を忘れていて、だからいまこそ研究したい宣言。

そして、どうせ今の時代をドキュメントとして撮ってもまるでSF映画のように映るのならば、ではいっそのことちゃんとSF映画として撮ってみるのがいいかもしれない……これだ!と、ようやく最近気づいたところです。

 

と、ちんたらしているうちに、すでに「新たなSF」がいくつもつくられ始めているということもここにメモしておきます。映画美学校に近いところに限定しても、篠崎誠監督『SHARING』も明らかにリアルなSFでしたし、年末にみた青山真治監督が演出した舞台『ワーニャおじさん』もまるでSFにみえたし、鈴木卓爾監督・古澤健脚本『ゾンからのメッセージ』はちゃんと「SF」と明記されていたかと思います。去年ハマったアメリカの小説『地球最後の刑事』『カウントダウン・シティ』も完璧にSFでした(探偵小説だと思って買ったけど、タイトルからしてまんまSFでした)。

自分も、今度公開する映画(ラッパーたちのドキュメンタリー)に、「コクピット(THE COCKPIT)」というタイトルをつけました。ちょっとSFっぽいフレーズかなと……。ほんのちょっとだけSF気分で観てもらっても面白いかもしれません。主人公が機材(サンプラー)をえんえん操作するところがSF映画っぽい、かも? さすがに強引か。

 

あアクターズ・コースの修了公演が「SF」だとはじめてきいたとき、その一語で、なにがあってもみなければならないな、と思いました。とても楽しみです。