映画美学校アクターズ・コース ブログ

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映画美学校アクターズ・コースの公式ブログです。アクターズ・コース俳優養成講座2023、9/1(金)開講決定!

高等科生の現在/アクターズ6期修了・米川幸リオンさん

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アクターズ・コースを修了して、様々な方向に進んでいる修了生たち。
高等科を受講している現在の彼らに、スポットを当てました。第一弾はアクターズ・コース6期を修了した米川幸リオンさんです。
修了後、チェルフィッチュなどに参加。また、現在アクターズ・コース6期の同期だった仁田直人さんと「伯楽-hakuraku-」という団体で映画をつくっています。
(注:お話を聞いた浅田がアクターズ同期かつ、関西で同じく日々を過ごしたため、少々会話がくだけております)

 

——京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)を卒業して、すぐに東京に来たんだっけ?
米川 そう。2016年の3月に卒業して、4月には東京来て、9月には映画美学校入ってって感じかな。
——東京に来たのはなんで?
米川 それは、鈴木卓爾さん、映画監督の。(京造の)卒業制作で『人間シャララ宣言』を撮った時に卓爾さんにメインキャストで出てもらって。そこですごい面白い経験がいくつかあって、それで卓爾さんともっと一緒に何か作りたいなって思ってたけど、「卒業」っていうことで大学をどうしたって出なきゃいけないっていう感覚になって。でも卓爾さんのこと、卓爾さんがどうやっていまのような考えを持っていったのかってことに興味が湧いていて。そしたら卓爾さんは映画美学校をやっている、やっていた経験があるって聞いて「あっ、受けたい」って思って来たっていうのが一つと。もう一つは、暇だった。っていうのが(笑)二大巨頭です。
——‥‥卓爾さんの講義って6期あったっけ?
米川 6期はなくって。5期までは一応あったのかな?みたいな。でも俺らが入るタイミングでやめたのかな。「あっ、あっ‥‥」ってなって。入れ違いだ、って。
——じゃあ最初の思惑とはちょっと外れた。
米川 まあでもなんか‥‥自分が「即戦力」みたいなことではないと思ってたから。業界というか、これから活動していくにあたってもっと勉強したいな、もっと勉強しなきゃなんにもできねえよなっていう状態だったから、だから映画美学校で勉強できるのは素直に楽しみやった。まあ、全部あれですけど。暇の言い訳なんですけど(笑)

——6期の時って、一番印象的だったことってあります?半年間色々ありましたけど。
米川 ‥‥今思い出そうとして、話そうとしたら色々と出てきちゃって、どれだ!ってなってるんやけど。‥‥講師陣の、言葉がすごい面白かった。
——言葉か。
米川 なんていうの?金言、みたいな。「金言ってこういうことか!」って思うことが多々あって。俺が今でも創作してる時に支えられてる言葉があって、山内(健司)さんが講義中に、誰だろう‥‥誰だったかが、すごく芝居のテンポが速かった時に、山内さんが止めて「速いね」って話をして。「一回息を吸ってみましょう」って言った後、その人に対して「ここには吸っていい空気があります」って言って。「わっ!」ってなった。「空気を吸っていい」って考え方って面白いなって。ここには吸っていい空気があります、って言った後に、そのあと続けて「誰に言われてやっている芝居でもないからね」って言って。「たしかに!うわっ何だそれ〜〜!」って。それだけで受講料払ってよかったって思っとる(笑)
 今特に思い出すのはそれかなあ。それを言える状態とか経験って…どういうこと?って。そういうのがすごく面白かったな、俺。っていうのが色々なシチュエーションでずっと続いてるような‥‥なんか、あの半年間は俺の中ではいまでもポジティブにずっとふわふわしてる。
——私、言葉を逆に覚えてない‥‥あの時は週4、5の講義で本当てんやわんやで、いろんな宿題に追われてたから、それをこなすのが精一杯で。ようやく気付けたって感じがするな、この1・2年間で。特に山内さんの演出された『革命日記』で役者参加した時。稽古中、「再現性って分かる?」って話になって。それに「同じ芝居をすることですよね」って受講生が答えて「君、毎日お味噌汁とか作る?自炊する?」「あっ、します」「毎日自炊する時に色々考えてやってる?」「いや、無意識でやってます」「それだよ!」って。「同じ料理を毎日無意識に作り続ける、それを演技の時もやるっていうことが再現性なんだよ」って言われて。「ふはーー!」って思って。
米川 うわあ、なるほど。山内さんすごいね。味噌汁毎日作りながら「これが演技か!」って思ってるのか?すごい‥‥。浅田さんが、山内さんの『革命日記』出演するって見た時に、恐怖と羨ましさがバーン!ときたね。本当になんか、なんだろうね。アクター「ズ」って感じがしたね。山内さんが演出することって。 

f:id:eigabigakkou:20201127165802j:plain修了公演『Movie Sick』映像シーンのための撮影に出かけた時の一コマ

 

——今思うと、受け入れられる空間だったなーと思いましたね。絶対否定から入らないから、そこがすごいなと思って。演技初めての子もいたけど、あのへんがすぐに馴染めていったっていうのはそれもあるのかな、って。
米川 すごいよね。今高等科やってても、やっぱりそれはつよく感じる。
——緊張は多少あるけど、傷つけられない空間っていうのは感じる。
米川 山内さんが「俳優の権利と危機管理」の講義の中で、「自分が作品の企画に回る時と、回らない時ではコロナとかの問題でも違ってきますよね」って話をしてた時に、その流れだったかな、権力構造で上に立った場合は、下に対して「どれだけケアしてもしすぎることはない」って言ってて。俺も最近は、(仁田)直人たちと一緒に映画を作る時なんかは企画サイドに立つことがあるから。そのこころがけかたっていうのはね、とても影響受けてるなって思ったんだよな。
 さっき言っていた「全員を受け入れるスタイル」もあるし、あとは映画美学校の修了公演で山内さんが演出した『革命日記』でも、俺2回くらい小屋入りした時リハを見に行ってて、そこでもめっちゃケアしてるのが分かった。「おっ、すごい」って。
——最初の段階でおっしゃってたんだよね。「僕はみんなより年上で、キャリアもあって、しかも男性で演出だから、これはハラスメントの温床になる可能性がある。だから、もし何か感じたらすぐに僕に言って欲しい」って。それも「あっ!」って思って。「すごい、めっちゃキャリアがある人がこんなペーペーの私にそんなことを‥‥」と思ってびっくりした。演出の時もすごい考えてらっしゃったと思うんだけど。でも考えすぎても演出なんかできひんし、そこはずっとせめぎ合いで考えてたと思うんだけど。
米川 そうだよね‥‥本当に。おれはいま「伯楽-hakuraku-」ってチームで映画づくりをやっとって、自分たちがその映画の企画者としてやる時には、俺、ケアばっかり考えてる。もちろん企画からいっしょに立ち上げるんやけども、そこにはどういう問題がつきまとうのか?とか。俳優は経験したから、俳優をしてる時って、カメラ向けられるだけでストレスだったなって思って。「それってどういうふうにしたらいいんだろう?」ってずっと考えてる。で撮影前のリハーサルをするってなっても、俺が撮影前にリハーサルするのが好きじゃないから「みんな嫌がってないかなー」とかずっと気にしとる。そしたら何もできないんだけど、本当。でもやっぱり考えるしかない。
——ずっと考え続けないといけないよね、主催者は。その責任は本当に重いなーと思いましたね。
米川 この前、コロナの講義があったじゃん。それで、「コロナの時はうちはこうやって対処をしていこうと思います」っていうステートメントなりを出す必要があるんだなってつよく思って。で、今、撮影をしたいと思っているから。そのステートメントなりはね、自分の中で徐々に作り始めてるっていうのがある。それもケア、というか。出演してもらう人たちにね。本当に、正されましたね。姿勢がね。背筋がね。「スンッ」と(笑)
——今年なんか撮るの?伯楽-hakuraku-。
米川 伯楽-hakuraku-は、今年中には撮りたいねって話してて。12月とかに撮れればいいねーとは言っとるんやけど、でもどうなるだろう?って感じ。でもそれより俺としては、新作を撮るっていうのも重要やけど、去年末に完成した『ワクラバ』の配給に動けた方がいいな、とも思っとる。まだ(コロナが)くると思っとるから。今俺たちの案は、人里離れた山奥の小屋なりで、キャストも3人とかに最小にして、スタッフもメインは伯楽-hakuraku-のメンバーで固めて、っていうできるだけ小さなチームで撮るんならいけるんじゃないかな?ってなっとるけど、そんだけ制限つけた上でやるのはさすがに窮屈かな、とも思うんやけど、でももちろん撮りたいのもあるし。ごちゃごちゃしてます。

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チェルフィッチュ ツアー中の一コマ
 

——じゃあ今、自分で企画で動いてるのは伯楽-hakuraku-?出演してたチェルフィッチュ関係は終わったんだっけ。
米川 本当なら今年は『消しゴム山』でヨーロッパツアーをして、来年東京に行けたらいいねって話だったんだけども。ヨーロッパツアーは今年予定されてたのは全部なくなってしまって。まあ来年(コロナが)落ち着いてくれればたぶん上演できるだろうから、舞台はそれで、あと今並行してオンラインで作品もつくってます。‥‥うん、だからチェルフィッチュは続いてる。劇場版が『消しゴム山』で、京都とニューヨークですでに上演してて。金沢の21世紀美術館でも上演をして、それは美術館版『消しゴム森』。で、オンライン版は『消しゴム畑』。消しゴムシリーズはどこまでいくのかっていうのは興味深いところです、我々も。
——バランス的になんかいいね、自分が主催する企画と、他の人が主催してる企画をやれるって。映像で小森(はるか)さんのも参加したんだっけ?
(注:小森はるか+瀬尾夏美『二重のまち/交代地のうたを編む』)
米川 そう、小森さんと瀬尾(夏美)さんのにも参加した。東日本の震災で被害の大きかった陸前高田で撮影をして。それこそいま伯楽-hakuraku-で活動しとんのも、その陸前高田の隣町の住田町ってところで。伯楽-hakuraku-では直接的に震災を扱っているわけじゃないけども、その町の背景というか、文脈というか、それは無視できないから。それに『消しゴム山』もね、小森さんと瀬尾さんが岡田(利規)さん、金氏(徹平)さんを陸前高田に案内したらしいんやけど、『消しゴム山』も震災後の復興の様子に疑問を持ったことが創作のきっかけになってるし。そうやって映画美学校終わってから、東日本の震災のことをよく考えるようになったっていうのがある。
——小森さんとクリエイション始めたのって映画美学校修了してから?
米川 映画美学校終わってから、1年半後の2018年の9月くらいかな。3週間ほど陸前高田で過ごして。ひたすら町の人たちに話を聞いて、カメラに向かって「こういう話を聞いてきました」っていうのを伝えるっていう、ある種記録なんだけど。そこには「伝承」っていうものをすごく大事にしていて。伝承が生まれる瞬間を撮りたいっていうのがあって。あ、そうそうそう。だから結構その、「伝承」とかそういうものがね、この間オンラインでね‥‥やべえおれ本当雑談するみたいに喋ろうとしてる。もっとちゃんと線をつなげて喋りたかったんやけど。それは後で頑張ります。これは余談として聞いてください。
——大丈夫です。
米川 今年の5月はじめ頃にね、友達とオンラインで『あっちこっち、そっちどっち』って映画を撮って。一人は大学の同期の男の子で、そいつが脚本、あと俺の恋人が撮影で、俺は出演で。で、みんなで企画から一緒に立ち上げて、3人で15分くらいの短編を撮ったんやけど、そんときに、「伝承」とはまたちょっと違うかもだけど、「寓話」っていうか「おとぎ話」というか、そういうのをテーマにして撮って。すごく影響を受けてるんだよね。最近、あとは「幽霊」とかね。これは岡田さんの影響を受けてるし。

——そうだね。小森さんといい、チェルフィッチュといい、伯楽といい、その土地?に根ざしたものをやってるな、とはリオンの活動を見てて思って。色んな土地に行ってたじゃないですか、特にチェルフィッチュで。あ、でもチェルフィッチュはその「土地」で「演じる」わけだから、創作とはまたちょっと違うのか。土地を探るというよりも、「旅行者」に感覚が近いのかな。
米川 でもやっぱり面白くて。その土地土地で、土地の文脈は全然違うから。おんなじパフォーマンスでも、全然違う解釈をされて。だから自分でも「この土地には、こういう背景があるなー」っていうのを事前に調べといて、まあ数少ない知識やけど、それをその土地で上演するときに「あれのこれがこうやって重なっていくんじゃないか?」っていうのを自分でも考えながらパフォーマンスしてる。
——へー、面白い。
米川 すごいびっくりした経験があって、そんなふうにテキスト喋りながら全然違うことを考えとって、そしたら客席から「ガタッ」って音がしたんよ。そんでハッとなって「あれ、おれ今、喋ってたー!」って思ったっていうのがあった。それは本当に自分も一緒に客席から観とるみたいな感じで。あれはドイツのフランクフルトでの上演だったんだけど。それは衝撃やった。衝撃の体験。各土地でやるっていうことに興味を持ったのはある。チェルフィッチュではそうやって海外や日本各地でも上演したときに、解釈のされ方が変わるのがすごい面白かった。
——海外では言語が違うけど、「この受け取られ方はなんか違うな」って肌感覚でわかったっていうこと?それとも演じてるときに、「自分」が変わってるっていう感覚なのかしら。
米川 なんかね、それは『三月の5日間』やったんやけど。あれはイラク戦争が起こったタイミングの話なんやけど、それをイラク戦争だけのものとして解釈されなくて。フランスのトゥールーズで公演した時は、ちょうどデモをしてて、そういうのとかもなんか、重なってきたりとか。それは何のデモかは分からなかったんだけど、「頻繁にデモしてるんだよー」って教えてもらって。どうにでも解釈されろ!って思ってやっとるんやけど。‥‥でも解釈してもらわないと困るなー、とも思ってるかな。だから解釈してもらうために、なんだろう‥‥何もしないじゃないけど、スクリーンになる、みたいな感覚でやっとるかな。チェルフィッチュは。
——スクリーン?
米川 プロジェクターから映像を映すときってスクリーンに投影されるやんか、映像が。スクリーンがないと映像は上手に投影されないけど、スクリーンがあると映像は投影されるから、俳優はスクリーンみたいなものになればいいんだな、っていうのを『三月の5日間』やっとる時に知ったね。どうやったらスクリーンみたいなものになれるのかまだ分かんないんだけど。‥‥これぜんぜん主観的な言語。ちょうどこの前、リー・ストラスバーグの『メソードへの道』を山内さんの講義で読んでさ、「なんだよ霊感って!」って思ったんやけどさ。なんて主観的!って思ったんやけど、ほぼ一緒。スクリーン(笑)
 観客が想像した時に、その想像をあてはめられるようにしておく‥‥これは岡田さんが言っとったんだけど、「役」っていうものは「服」みたいなもので。それを観客が俳優に「着せる」から「役」になるっていう考え方。自分で着るんじゃなくて、観客が着せる。
——おおお‥‥‥
米川 みたいなふうにしたほうが面白いよねっていう。これはスクリーンの例えと一緒。てか岡田さんの方が全然分かりやすいね。
——分かりやすいけど、これを実現させるのって‥‥
米川 岡田さんがすでにテキストの上でやってくれとるからね。「ミノベくんと」って言ってくれとる。観客に「ミノベくん」を着せられる瞬間は、やっぱりわかる。そうするとほら、ダラダラしてるっていわれるあの変な挙動とかが解釈されていかれる感覚?最初はほんと解釈何もされへんくて、ただ立っとるだけなんやけど。途中からね、「あの動きってああいうことだよね」って勝手に観客の中で起きて。っていうのは体験したかなー。
——岡田さんとか、リー・ストラスバーグの演技についての本を読んでも「それはちょっと主観的!どう演技に反映させたらいいんですか!」って思ってしまうなあ。でも岡田さんのテキストによって役を着せられる、っていうのはなんとなくわかる。
米川 テキストですでにかなりそれがね、起きるようになっているからね。だから俳優は何をするんだろって考えるんだけどね、いっつも。ただ立ってて、ただ喋ればいいんじゃないかって思うんだけど、でもやっぱりそうではないから(笑)

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伯楽-hakuraku-で陸前高田を訪れたときの一コマ
 

——究極そうなんだろうけどね。でも在学時も講師陣が色々教えてくれたじゃないですか。現代口語演劇のこととかいろんなメソッドを。多分身体の中に落ちてると信じてるんですけど。でもまだ言語化できてない。
米川 わかります。今回高等科が選択ゼミ制になって、「全部受けたい!」って本当に思ったんだけど、でも現実的にそれは無理だなってなって。でその(ゼミの)中でも、俳優レッスン(注:実技ゼミの一つ)を今まで受けたことがなかったんだけど、受けよって思ったのは‥‥何をすればいいのか分かんないから、俳優が。何をすればいいのか本当に分かんない。
 2016年に映画美学校に入学した時は、もうちょっと何かがあったんよ、俺の中で。「演技をする」って。観客として観てる時とかもそうやけど、「演技はこういうところが面白い」みたいなのがあったんだけど。それがね、今はもっとないんよね。今このない状態で「ダイアローグ」、もっといえば青年団の現代口語演劇のテキストをやるのって、当時よりさらに難しいんじゃないかって思って。より何やればいいか分からんってなって。すごい興味わいてね、それが俳優レッスンを受けようって思った動機でした。
——俳優レッスン、まだ2回目とかだっけ。
米川 次が2回目かな。今もリハーサルしとるけど、すっごい面白いんやけど、何もしてない(笑)椅子に座ってテキスト読んどるだけ。普通に座って、話聞いて、セリフ返して、セリフ返して、をやっとるだけで。テキストに書かれとる演出的な指示というか、全無視してやっとる(笑)何やればいいのかわかんなくて!面白いんやけど。
 ‥‥あっ、やっと喋れるよ、今。だから、高等科を受けようって思ったのは、いろいろとわかんなくなっていて、俳優にしても演技にしても。でも俺自身はこのわかんなくなった状態を、とてもポジティブに捉えていて。そんな時に、「演技っていうものがどうやって変わっていったのか?演技の文脈を座学でやってみませんか?」っていう内容の募集が、俺の興味とぴったりハマって。っていうので、受けた。今回。演技の変遷はどんなんだったのか。それを知ったところで、このわかんない状態は変わらんかもやけど、でも知りたいって思ったね。演技の文脈。そう、最近「文脈」がテーマです、私。文脈が一番面白い。いっちばん面白い。そやね、そっから喋らんとあかんかったんや。やっと喋れる(笑)
——文脈って、歴史とか?
米川 歴史とか、バックボーンもそうやし、歴史的文脈、あと個人にも‥‥経験、コンテクスト、背景とか、なのかな。2016年、映画美学校に行っとる間は、山内さんにも言われたけど、「リオンは自分のことがすごい興味がある」って言われたんよ。それは本当にそうで。映画美学校に通って講義を受けてる時も、全部自分のためだけに聞いてた。パフォーマンスも自分のためにやってた。で、チェルフィッチュ『三月の5日間』に出るようになって、ようやく自分は、人に喋るのがめちゃくちゃ下手だってことに気づいて。これは変えたいなって思った時に、ちょうど小森さん、瀬尾さんと一緒にやってたんだけど、お二人は話を聞くのが本当に上手で。よし、まずはそれから始めようって思って。まずは話を聞くのが上手くなろうって思って。そしたら岡田さんとかも話聞くのめっちゃうまいんやなって分かったんやけど。
 そういうモチベーションで話を聞いてると、言葉になってないものをすごい感じるようになって。特にその人が喋っている時に、その人の過去みたいなものが見えてくるようになって。文脈、コンテクスト‥‥それがすごい面白いって思うようになった。そうすると例えば、物とかでも、経年劣化したモノとかさ、お茶碗とか欠けてるのとか見ても「あ、文脈ある」って思うようになってさ。「面白い!」って思うようになっていって。で、映画美学校の今年の募集に「俳優の、演技の言葉がどうやって紡がれてきたか」、つまり俳優の文脈を「勉強しましょう」って言われて、それは俺すごく興味があることだって思って受けたって感じです。
——繋がりましたね。すごい、過去と今が繋がりましたね。
米川 よかったー。でもそれでも、エゴイスティックなのは変わらんけどねー。

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——6期の受講してた頃って、みんな狭い世界だったなって思っていて。佐々木(透)さんの修了公演での稽古で、ようやくみんなの人格が分かったなって思って。みんな結構わがままだったじゃん。自分大好きみたいな人が多かった、私もだけど。
米川 うん、みんなわがまま。わかるわかる。
——もちろん仲良かったと思うんだけど。深く広がっていけなかったなーとは思ってて。あの半年間だけではね、難しい。6期で一緒に何か企画やるやる詐欺起こしてたけど、結局やらなかったですね。
米川 そうなの。やりたいの。最近それはね、思ってるんですよ。それこそ伯楽-hakuraku-で映画を作れてるわけだし、それをね、広げたいんだよね。広げたいっていうよりは、6期といちからつくりたいのだけど。ちょっとそれは、直人が今いろんな企画を自分の中でめっちゃ立てとるから、それがうまくいって、お金ができたらそれを元手にやりたいなーっていうのが野望です。やり方めちゃくちゃだけど。でも考えとる考えとる。そうなの、作りたいのー。本当に。
——私も「やりたいー」って思いながら、どないすんねんっていう。私も土地についてすごい興味があって。原宿でフィールドワークをしながら、創作をするっていうのを以前やったんだけど。原宿を散歩して、でも誰も原宿について詳しく知らないから、メンバーがただ原宿を歩いて、素敵だなって思ったところに身体を合わせる。ちょっとこの木気になるなーと思ったら、その木に触れて、思った振り付けをやってみるとか、ポールダンサーの人は「これちょっと登れるわ」って言って木に登り出すとか、すごい面白かったんだけど。そういう「なんでこれを気になったんだろう」って思うところから、最終的に作品を作ったんだけど、そういうのすごく面白いな、と思って。
 私は都会には興味がない人間だなと思ってたんだけど、渋谷ノート(注:アクターズ・コース、山内健司さんの講義。渋谷をテーマに、最終的に1本の作品をつくった)の時のあの懇切丁寧な山内さんの渋谷にまつわるお話がめちゃくちゃ面白くて。「渋谷ってそんなに好きじゃなかったけど、結構愛せるな」と思って、そんで原宿も結構好きになって。ただ撮る、ただ作るっていうだけじゃなくて。せっかくそこで撮る、作るならそこでやる意味みたいなのが見出せたらいいなって。それを6期なら共有できるんじゃないかって思っている、んだけど。どどどど‥‥
米川 分かります。分かります。俺もさ、渋谷ノートやっとる時ってさ、今みたいに「文脈が気になる」っていう状態では全然ないっていうかさ。「渋谷ノート」だけど、渋谷のことをそんなに探る気持ちがなかった。そもそも渋谷に興味を持つ方法から知らなかったし、だから渋谷っていうものにアプローチするにしても、なにをしたらいいのか分かんなかったんだけどさ。
 今でも忘れられへんのやけど、山内さんがさ、渋谷の地図出してきてさ、「地図見るのっておもしろいよね」って言ってさ。「何が?」って思ったんよ、俺。「何が?」って思ったんやけど。佐世保で今、自分たちで映画作りましょうって企画が動いとるんやけど、それでこないだ佐世保の地図を見とったんね。そしたらさ、川があって、その川の近くにはこう、小さな町があって。でもその川が伸びて行った先には山があるから、そうなると一気に人がいなくって、でも川沿いに浄水場なりがたくさんあって、野球場もテニスコートもあって、みたいなさ。なんかね、「地図っておもしろ!」と思って。
——あれ?(笑)
米川 文脈じゃーん!って思って。そんとき俺、「あっ山内さんのやつや!」って思って。俺も4年越しで地図おもろ!が追いついたよ。
——やったね(笑)
米川 で、その後下の期とかの渋谷ノートも見に行ける。‥‥「下の期」ってなんか嫌な言い方やな。別に後輩って感じでもないから。先輩後輩、それこそnoteにも書いてあったけど「先輩後輩ない」ってその通りだな、と思って。一応上の期に敬語使うんやけどね。‥‥6期以降の期の渋谷ノートの発表を観に行って、そんときは文脈に興味を持ち始めとったから、その渋谷ノートっていうワークを面白いって思う経験があった。山内さんが、なんで渋谷面白いって思ってるのかが分かった。それは結局文脈っていうことなんだけど。渋谷ノート、すんごく面白かった、俺。

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アクターズ・コース受講生時代、井川耕一郎さんの講義で撮影した作品『ゴカイモン』ある一コマ https://youtu.be/vJytfXyvg3Y

 

——あれがあったから、リオンも言ってる、文脈‥‥連なっていくものの良さ、分断されてないんだっていう。俳優も大昔からいて、でもそんなん感じ取れるわけないやんって思ってたんだけど、意外と脈々とつながっていってるんじゃない?って思った。面白かったね。
米川 その当時はねー、わかんなかったからなー。もったいない。
——「一人芝居をやる」っていうそっちの方向にいってしまって。
米川 何やればいいの?っていうね。俺でもさ、3人(米川/同期の四柳智惟/浅田麻衣)で撮った『ゴカイモン』、半年にいっぺんくらい見直す機会があってさ。相変わらずクレイジーやなって思いながら。あの時の俺は、酷い。って思いながら観てて。「本当にごめんなさい。あの時の俺は酷かった」みたいな。なんていうの?備忘録じゃないけど。
——そんな思いで見てるの?(笑)
米川 でもやっぱり、すごいあれは面白いと思ってて、俺。それで友達に「映画美学校時代に面白いの撮ったんだよ」って話して送ったりもするんやけど。一文、「編集もしたけど、編集をした頃の俺は酷いやつでした」ってつけて送る。なんかね、俺が酷いの。お二人はまったく酷くないんやけど、ただただ俺が酷いの(笑)全部、ニヤついて撮っとる感じ。あんときのおれ嫌いだな、と思う(笑)
なんていうの?あの当時はカメラを回して一歩引いとる感じ。今はそれよりも一歩出て、人と付き合おうっていうモチベーションに変わったから。ちゃんと話を聞くぞ、みたいな。でも『ゴカイモン』でくるっと振り返ったらカメラ構えてる俺がいてさ、「へっへっへ」みたいな。リオンのそれがね、作品の中にちらっちらって出てくるんよ。もう、「本当こういう奴嫌い」って言いたくなるけど、あの作品はすっごい気に入ってる。
——あれね、ふざけすぎた感はあるね。めっちゃ面白かったけど。
米川 あれいいよね、あの感じ。なんていうの?ずっとふざけとるんよ。本当にずっとふざけとる。パンクってわけじゃないけど、基本的に「シンプルにやっても面白くないんじゃない?」っていうところからやってるやんか。別に一人一役じゃなくていいんじゃない?みたいな。フィクションを信じて作っとったから、それがすごい好きなの、俺。まだやり方が分かんないなりに、でもフィクションって感じる時は面白いってことが分かってたから。それを大事にして撮っとるから、すごい好き。ただ、ちらちら見えるリオンが嫌、っていうだけ。ちらちら、っていうよりずっとカメラ回しとるからね。
——今ならまた違う形で撮れるんでしょうけどね。やりたいな、と。やれんのかな?
米川 やりたいと本当に思う。
——やりたいとは思ってるんですよ。
米川 同じくです。作りたい。本当に思う。
——いや、今日面白かった。6期でなんかやりたくなった。
米川 あ、嬉しい、嬉しい。相談しましょう。
——まあ、『ジョギング渡り鳥』(注:映画美学校アクターズ・コース第1期高等科実習作品)も発表まで4年くらいかかったと聞きますし。
米川 バッチリです。今から6年かけたらいいから。やりましょ(笑)
——より深めたら面白いことができる、かも。
米川 はず、です。

 

2020/10/08 インタビュー・構成/浅田麻衣

 

米川幸リオン(よねかわ こう りおん)
1993年三重県生まれ。父がイギリス、母が日本、のニッポン人。
京都造形芸術大学映画学科俳優コースと映画美学校アクターズコースを卒業。主な出演作品は、チェルフィッチュ『消しゴム山』、『三月の5日間』リクリエーション、小森はるか+瀬尾夏美『二重のまち/交代地のうたを編む』、ミヤギフトシ『感光』、など。また、伯楽-hakuraku-のメンバーとして、岩手県住田町での自主映画の企画〜上映までも行なっている。
@08Leon22