高等科生の現在/アクターズ第7期修了・釜口恵太さん
アクターズ・コースを修了して、様々な方向に進んでいる修了生たち。
高等科を受講している現在の彼らに、スポットを当てました。第三弾はアクターズ・コース7期を修了した釜口恵太さんです。釜口さんは、現在開講中のアクターズ・コース高等科のTA(ティーチング・アシスタント)もされておられます。
※マークは、現在アクターズ高等科で開講中の講義です※
——今回、アクターズ・コース高等科のTAをされているかと思うんですが。基本受講生の立場ではなく、TAの立場でやっているんですかね?
釜口 そうですね。基本TAの立場なんですけど、古澤(健)さんの講義と近藤(強)さんの講義、山内(健司)さんの講義は途中からですけど、その3つはちょっとずつ参加してって感じですね。
——じゃあ基本見守るスタイルで。
釜口 そうですね。竹内(里紗)さんの『断片映画制作ゼミ』と、『俳優レッスン※』は見守っている感じですね。
——印象的だった講義、ありますか?
釜口 古澤さんのゼミが『映画の生成過程を観察・体験する』っていうゼミだったんですけど。古澤さんが今年の2月に撮った映画の台本(『キラー・テナント』)を元に講義をしたんですけど、「映画の作者は誰だろうか?」っていう問いから始まって。多分日本の法律的には脚本家のものらしいけど、世間は、「監督のものだ」みたいにおおよそ認識をしている。でも実際作ってみると、古澤さんは脚本も監督も編集も自分でやってたりするんで、自分の中でも3人くらい人格があって、みたいな。あと、現場で俳優さんが持ってきたもので、「あっそっちかも」って思って乗っかってやることもあるから、厳密に(「映画の作者は誰か」)いえるものではないっていうことがあって。
で、その2月に撮った時に、主役の石川(雄也)さんって方が、ファーストシーン、その映画の一番最初に撮ったカットで、思いもよらぬ演技を持ってきてくれたって古澤さんが言ってて。それがどうしてそういう演技に至ったのかを知りたい、ということで、みんな(受講生)は、台本もらってからどういう準備をして、どういうふうに読んだり、どういうふうにヒントを得たりして現場に臨むのかっていうのを話し合って。‥‥「映画を掴んでる」って言ってたんですけど、古澤さんは。そのファーストシーンで「石川さんはこの映画を掴んでるな、この人に乗っかっていけばなんか自分もこの映画を掴めるかも」っていう気持ちになって、現場にどんどんのっていけた、みたいなことをおっしゃってたんですけど。それって一体なんだろうね、っていうことを言語化して、みんなで考えたい、僕も知りたい、みたいな感じでやる講義で。それがすごい面白くて。僕もすごい興味があることだし。やっぱり現場で思いついちゃったり、台本を読んでる時には考えもなかったことが出てきちゃったりすることがたまにあるよな、でもそれってなんだろうなって。自分の中でも言語化できてないところがいっぱいあって。それを言語化して、いかに掴めるかな、みたいなことを思ってたんですけど。
その講義が1週間に1回ずつあるんですけど、その間に『アクターズ・ラボ※』だったりがあって、色々な人の話を聞いて。『フィクション・コースを知る※』っていう講義で、受講生が兵藤さんに「演劇と映像の演技ってどういうふうに使い分けてますか、どういうふうな違いがあると思いますか」みたいな質問をしたのかな。そしたら兵藤さんが「映画は分からないまま、やる、かもね」みたいな話をされてて。「あっそれすごい分かるかも」って思って。古澤さんの講義も受けてたから、すごいそこが繋がったりして。そこが同時進行の賜物だなって感じがしましたね。他に、山内さんの講義でも安部公房だったり、山崎努の文章を読んだりしているところで「あっ古澤さんが言ってたことかも」って引っかかったりして。それがすごい面白いですね。
——分からないままやる、か。映画の方が演技の余白が多いってことなんだろうか?
釜口 なんでしょうね。現場に入って、「あっ今日この部屋でやるんだ」とか、「こういう机なんだ」「こういう椅子の質感なんだ」とか、現場で分かったりするじゃないですか。そこに、委ねてやる、みたいな。そんなに稽古もできないじゃないですか、撮影って。リハーサルがあまりできないから、その瞬間瞬間の出会いみたいな。自分の芝居がどうなるかとか、どういうふうな声が出るかとか分からないけど、まあやってみる、みたいな。それが、「分からないままやってみる」っていう意味だと思ったんですけど、僕は。演劇だと結構稽古とかあるじゃないですか。「ああ、こういう机で、こういう椅子で」とか。小屋入りしたら違うこともあるかもしれないんですけど。でも大体小道具とかあって。それをひたすらやって、再現性を増すみたいなことがあると思うんですけど。映画は、分からないけどそれに乗っかってやって、そこに生まれるもの、偶然性とか‥‥古澤さんが「あっ、なんか撮れちゃった」みたいな感覚があったりすると面白かったりする、みたいなことを言ってて。映画のお芝居って、同じ芝居を色んなカットから撮ったりするじゃないですか。それを気にして、同じように手を動かしたり、同じような調子でセリフを言ったりしないといけないっていう、縛られがあるじゃないですか。それも大事、カットを繋げる上では大事だと思うんですけど、それも足枷になってるんじゃないか?みたいな話もしてて。それは今までの映画の撮り方としては大事なことだったかもしれないけど。映画って本当にその撮り方なのかな?みたいな。それすらも古澤さんは、疑問に思ってて。
先日テレビを見てて、武田鉄矢さんが、『(3年B組)金八先生』のドラマの撮影のことを話してたんですけど。武田鉄矢さんが長台詞を言って、生徒たちが泣くっていうシーンだったらしいんですけど。そんなに演技経験もない子たちだから、泣かせられないだろうって。実際本番でその長台詞が終わったけど生徒たちが泣いてないから、ガンガンアドリブで自分で台詞を足したらしいんですよね。そしたら金八先生自身が泣いてきちゃって、それを見た生徒たちが泣き始めた、みたいなシーンがあって。それでチーフのカメラマンさんも泣けてきちゃったらしくて、手が震えちゃったんですって。それで映像が震えてるらしいんですね。で、「カット!」ってなって、芝居が終わって。でも、芝居すごい良かったけど、カメラ震えてたから「もう一回いきましょうか?」ってプロデューサーが言ってきて。そしたらカメラマンが「ふざけんじゃねえよ!」みたいな。「手が震えてたっていいんだよ!撮ってる人も泣いてるんだろうが、見てる人も泣いてるんだよ」みたいな。「これで文句言ってくる奴がいたら、そんな奴は見なくていい」みたいに言って、そのシーンが使われたらしい、まあ使われたかどうかは僕は(ドラマを)見てないから分からないんですけど。その話を聞いたりしたら、その(『金八先生』の映像は)「撮れちゃった」って感覚がすごい強い映像だと思うんですけど。映画は監督のもの、演劇とかはよく役者のものっていうじゃないですか。舞台は俳優のものって。そういいますけど、映像は、編集だったり、音楽だったりで別物になってくるけど、そういう、一回性の何かが生まれた時は、そのシーンは俳優のものになるな、とその話を聞いて思って。だから、カットを繋ぐために同じ芝居をするみたいな意識も大事だけど。そういうのも、うまい調子で抗えたらいいなーという気持ちがあります。‥‥ごめんなさいなんか、全然まとまりがないですけど。余白みたいな気持ちもすごい分かります。
アクターズ・コース2017年度公演『S高原から』より
——私、釜口くんの演技って水のようだなって思ってて。フラットに現場に入って、柔軟にその現場で演技を変えられる印象があったんで、そういう抗いたいなっていうのがちょっと意外に思いました。「演技する上で、自分自身で縛りを与えてたな」とかありますか?古澤さんの話を聞いたりして「これまでこうだったなー」みたいな。
釜口 僕が行ってた大学が、映画の実習とかあるような大学だったんで。スタッフ目線で教える大学だったんですけど、僕はそれで、スタッフ目線が身についてて、やっぱり。同じように動くのがいいんだ、そっちが正解なんだ、って思ってたんですけど。そこまで縛られなくてもいいんだな、ってことに気づけたっていう感じでしたね。講義で。でもやっぱり繰り返すことは求められますからね。‥‥でも、水のよう、確かに。あまり固めないですね。
——逆に私の知人は、自分の自我がスクリーンを通して見える人が多かったんですよ。そういう人が身近に多かったから、釜口くんの演技は結構衝撃的で。大学から演技は始めたんですか?
釜口 そうですね。演技は高校卒業してからですね。
——大学とアクターズ・コースってやっぱり違いますか?
釜口 そうですね、全然違いますね。僕が行ってた大学では、東京乾電池の人が、俳優の人が教えにきてくれてたんですよ。俳優の人が教えるっていう点では同じだったんですけど、でもなんか、乾電池は全然違う(笑)。それまで鹿児島で、青年団のことも知らないし、演劇にそんな種類があることも知らないし。僕高校卒業してから一年くらい浪人してて、その時に鹿児島の劇団でちょっと勉強させてもらってたんですけど。その人たちはつかこうへいが好き、とかラーメンズが好き、とか。そういうことは知ってたんですけど、そういう、演劇に種類があるとか、東京乾電池の人がどういう人かも分からず大学に入って。なんだこれは?みたいな。ペットボトル床に置いて、「みんな見てこれ?いい佇まいだよね」って言ってて。はぁー、みたいな。これが演劇なのかな?みたいな感じで。それはそれで面白かったんですけど。
それから、(劇団)サンプルのミエ・ユースに行って松井(周)さんと出会って。僕は大学時代「俺がしたい演劇じゃないかも」と思って色んなところに顔出してたんですけど、その一つに早稲田大学の演劇サークルが新人募集をしてて、ちょっと行ったりしてて。すごいパワハラの巣窟みたいなところだったんですけど。怒鳴るのは当たり前、みたいな。僕は無理だったからすぐやめちゃったんですけど。「でもそういうもんなのかな?演劇」って思ってて(ミエ・ユースに)行ったら全然違ってて、松井さんは。1ヶ月くらい向こうに滞在して、25歳以下の人たちとクリエイションしたんですけど、それがすごく楽しくて。今までこんなに人とコミュニケーションうまくとれたことがあったろうか?っていうくらい。水を得た魚のようだったって、今思うと。すごい楽しくて、それを追っかけてここ(アクターズ・コース)に入った感じですね。7期の頃はまだ松井さんの名前が載ってて。
それで入ったら、「こういう人たちがいるんだ」っていう。現代口語っていうお芝居もそこで知ってすごい好きだったし、青年団っていう存在をまず知ったっていうのと、演劇界にこういう風潮があるよね、よくないよね、って思っている人たちがちゃんと大人たちにいるんだって思って、すごいそれは嬉しかったですね。とはいえ他の現場では全然あるっていうふうには聞くんで。パワハラみたいなことは。この時代になっても。
——7期の修了公演の脚本は平田オリザさんの『S高原から』で演出は玉田(真也)さんですよね。
釜口 そう、その時に玉田さんの名前も知って、どういう人だろうってアトリエヘリコプターで『今が、オールタイムベスト』の初演だったんですかね。あれを観て、びっくりして。こんなに面白いのがあるんだって。
——アクターズ・コース入って、「ここが変わったな」ってところあります?
釜口 さっき言った「こういう大人たちがいるんだ」って思ったところですね。圧力きついな、とかチケットノルマしんどいな、とか。そういう自分みたいな思いを持ってやってていいんだ、というのはすごい励まされたというか。こういうふうに演劇やってていいんだな、っていう。まあ食っていけるかどうかは別ですけど。でも演劇をやっていく上では、「あ、いいんだな」っていう。どういう考えでやっててもいいんだな、っていう気持ちはすごい後押しされた気はしますね。
フィクション・コース第21期初等科&俳優養成講座2017 ミニコラボ実習作品
高橋洋監督『アウグスト・
——出演以外に、自分でなんか書いたりとかしてます?
釜口 してないですね。
——それはあまり興味がない?
釜口 ちょっとあるんですけど。‥‥ちょっとあるんですけど、全然書けないっていう段階ですね。一応今、一人芝居をやりたいと思ってて。台本を書くにあたって、自分の材料を集めてる段階っていう感じです。でもこれは、いつまでも続けられる作業だから、材料を集めるっていうのは。だから、なんかダラダラやっちゃいそうですね。
——私もここ数年、搾取されるのと、「選ぶ、選ばれない」って構図が本当にしんどいなと思って、もう自分で書いたりした方が早いんじゃないか?と思って。オーディションとか行ってます?
釜口 最近コロナとかで行ってないですけど、行ってましたね。アクターズ入る前にめちゃめちゃ行ってた感じです。ワークショップとか。アクターズ入ってからは、そんなに行ってない感じですね。選ぶようになりました。やっぱり、ノルマだったりあるところは徹底的に外して、みたいな。
——チケットノルマ!そう、最近関西時代の友人と話してて、「自分は搾取されてないように思えてても実は搾取されることってすごい多いのでは?」と思うことがあって。でも、そう思うとどうやってやっていけばいいのだ?という。
釜口 資本主義社会から絶っていかないと、みたいな(笑)。
——そこかー(笑)。でも海外のこととかも高等科で勉強してて、そういうのをちゃんと踏まえていけば搾取されないのでは?と思うんだけど、難しいなと。それを考えるには仲間がいたらよりいいなとは思ってるんだけど。釜口くん、フィクション・コースの人たちの映像によく出演してますよね。
釜口 そうですね、同期の21期の人たちとは、仲良くしてますね。
——彼らとクリエイションという方法もいいのかもしれないですね。
釜口 そうですね。でも、やっぱり呼ばれる立場ですもんね、それも。
——呼ぶくらいになる方が面白いのかなとも思うけど、主宰と非主宰っていうところでまた何か生じてしまうのだろうか。同じ立ち位置でやりたいなと思いますね。
釜口 難しい。搾取か。
——あれ、海外に行かれるっていうのをコロナ前に風の噂で聞いたのですが。
釜口 そうです。留学したかったんですけど。お金貯めてたんですけど。この状況で親も心配みたいで、ワクチンができないと行かせないって言われて。
——行くとしたらアメリカですか?
釜口 そうですね、最終的には。でも全然英語勉強してなくて、今。日本じゃやる気が起きなくて(笑)。英会話教室とか行ったんですけど全然続かなくて。バイトが忙しい時期もあったんですけど、すごい色々(予定を)重ねちゃって「ああ。もう無理!」ってなって。もう現地に行って、困らないと勉強しないだろうと思って。だから最初はフィリピンに行って、語学留学をして、そこからお金貯めつつもっと英語に慣れようと思って、カナダにワーホリしようかな、みたいな。一年くらい。その後にニューヨークの演技学校に行きたいなって感じなんですけど。まあ、でも、絵空事です。
——いやいやいや!(笑)。
釜口 (笑)。
——でもコロナになって、色々ずれこんじゃったとなると一気にアメリカに行った方がいいのかしら。
釜口 本当は今のうちに勉強しといて、ワーホリせずにバッと行くのがいいと思うんですけど。
——‥‥今、勉強する気起きます?
釜口 起きないです。本当やってる人がいるとすげえなって思っちゃいます。
——緊急事態宣言の時どうでした?
釜口 もう、家でただただ凹んでましたね。Netflixがなかったら、僕の今はなかったです(笑)。
——本来なら今年行く予定だったんですか?
釜口 そうですね。6月にフィリピン、3ヶ月フィリピンで勉強して、本当だったらもうカナダにいます。本当だったら僕今カナダだったんだ‥‥
——それはもう凹みますな‥‥
釜口 本当にそうなんですよね。だからちょっと、空白というか宙ぶらりんな気持ちになってて。バイトしてお金貯めなきゃと思ってたんで、去年から舞台でたりとか、映像の出演とかもしないようにしてて。だから、予定も全然なかったし、緊急事態宣言が終わって6月以降も、演劇もあまりできないまま日本にいる俺、何?みたいな。何してるんだろうな?っていう気持ちになって。でも周りの人たちはなんか、Zoomでも演劇やったり、ラジオとかもやってたり、いろんな取り組みをしてる人たちがいて。でも全然そういう気持ちになれなくて。観る気にもあまりなれなくて。でもきっと、比べるのもあれですけど、同じような気持ちの人もいたんだろうなって思って。なんとか今はアクターズ・コースの高等科にいることで前を向けている感じです。
——それまで海外は行ったことなかったんですか?
釜口 行ったことないんですよ。初でした。パスポートも取って、よし、と思ってたら。
——それは辛い‥‥でも、もはや懐かしいですね、小劇場で客席が満席で、誰もマスクつけてないっていう状態。あれが今や奇跡みたいなことだったんだって思いませんでしたよ。
釜口 本当に。日常でしたから。
ダダルズ『顔が出る』(2019/7/14-18 作・演出:大石恵美)より
——今年の3月以降、舞台やりました?
釜口 やってないですね。ワークショップには行ったんですけど。やっぱり舞台、立ちたいですね。
——私今月、松井(周)さん脚本の舞台観に行きますよ。
釜口 あっ、『てにあまる』。いいなあ。僕本当予定管理をミスって。TAともう一個のバイトと入れすぎちゃって、カツカツなんですよね。本当になんか、多分反動なんでしょうね。3月、4月、5月の。やったるぞ!みたいな気持ちが先行して、疲弊するっていう(笑)。
——じゃあ、コロナが落ち着いたら海外に。
釜口 絵空事です(笑)。
——あらら。気持ちが変わったんですか?
釜口 行きたいみたいな気持ちはあるんですけど。本当に、何年後?みたいな。行ける想像がついてなくて、今。だから日本でどうやって生活していこうか、みたいなことのほうが関心としては大きくて。東京でバイトしてもさもしいな、みたいな気持ちがすごいあって。演劇できてないからだと思うんですけど。多分演劇できてたらそんなこと全く思ってないでしょうけど、演劇できてないし、なんか無為に日々を過ごしている感じがして。アクターズ・ラボで昨日菅原直樹さんって方の話を聞いたんですけど。菅原さんは岡山で演劇をやっていて、全然地方で演劇やってる人はやってると思ったし。なんか、地方でのんびり暮らす方が性に合うかもしれないな、みたいなことも考えてて。わからんですね、なんか。ぐちゃぐちゃしてます、最近。ゆうて、だらだら三年間東京にいるんでしょうけどね。いやでもなんか‥‥なんか自分でいうのも恥ずかしいですけど、だらだらうだうだしてるのが苦手、みたいな。していたくない、みたいな気持ちがあって。だから本当になんか、海外に行けないんだったら、どこか地方で短期のバイトでも、住み込みでも気分転換にやりたいかもしれないですね。いやごめんなさい、今思いつきで言っちゃった(笑)。
——じゃあ、そんなに土地にこだわりはない感じなんですか?
釜口 そうですね。あの頃、高校三年生の僕は百田夏菜子と結婚するために俳優やるっていう目的だったから、東京しかなかったんですね。でも今、それもないですし。幸せに暮らしたいからっていう気持ちが強いんで。演劇もやりたいんですけど。
——もう結婚する気持ちないんだ‥‥。SPACとか鳥の劇場とか、あちらは考えなかったんですか?
釜口 そっちの方が楽しいかもっていう気持ちはあります、今。でも今は一番熱いのは豊岡だと思うんですけど。演劇際も毎年あるだろうと思うと、一年頑張れるだろうなって思って。出ないにしろ。観れると思うと。
——2回くらい鳥の劇場に芝居を見に行ったんですけど、東京とは全然客層が違って。その時は『葵上』を観たんですけど、ほとんど地元の方々だったんですね。そういうのって個人的にすごくいいなと思って。東京は若干飽和状態ではあるから。
釜口 地方の全然演劇普段観ないような人が、劇場に観に来るっていう点では、垣根がすごい低いなっていう気持ちが。東京だと本当、観る人は観るし、観ない人は観ないっていう感じがあって。昨日菅原さんが、岡山で「介護演劇」、街の人も巻き込んでやってて。街の人たちは普段そういうこと全然しないもんだから、すごい乗り気でやってくれるって言ってて。そういう、地域に根ざしてたり、演劇を外に向けてやってるっていうことがすごくいいなあと思って。東京じゃ演技をする目的みたいなものが「自分」になってる気がして。いいな、ってすごいシンプルに昨日思っちゃって。だから、うん、地方いいですね(笑)。
——地方に役者がどーんと行ったらいいんですかね。集団移住みたいな。でもそれはもう劇団か。
釜口 それでも、向こうで生活して。たまにこっち来れたらいいですよね。楽しそうだな。
——地方なんですかね。
釜口 地方ですかね。
——やっぱり勉強という意味では東京は適してると思うんですよ。
釜口 そうですね、いろんな映画館もあるし劇場もあるし。
——まあ最近、勉強って何?っていう気持ちもあるんですけど。いや、勉強しなくちゃいけないんですけれども。
釜口 分かります。普通に楽しみとして観ていいと思うんですよね。勉強ってなると気持ちが重くなっちゃう。
——出会い、ということだといいのかもしれないですね。じゃあもし、地方でやるとしたら映像というか舞台?
釜口 そうなりますよね。でも暇すぎて、映像もやるかもしれないですよね。楽しそうだし。昨日菅原さんも言ってたんですけど、東京だと椅子取りゲームの椅子が埋まってるから。でも地方に行くと、そのプレッシャーがないから楽しめる、楽しく創作ができるって言っていて。だから本当に、地方に行ったら何でもやれそうだな、と。やれるか分からないですけどね。
加藤紗希監督『泥濘む』より
——アクターズ高等科終わったら何します?
釜口 古澤さんの講義で、話に出た石川さんっていう人はVシネとかによく出てて。もう20年くらいいろんな作品に出まくってるっていう話を聞いて、あっ、それ楽しそう!と思って。演技ができてお金ももらえるんだったら、それでもいいのでは?という考えも出てきて。今とにかく演技したいっていう気持ちが強くなってるから、そういう気持ちになってるんですけど。それで探してみたら、スタッフ兼役者募集してる、みたいな。日当15,000円でVシネの会社が募集してて。でもそれ、ボロ雑巾みたいに制作部として使われて、一瞬出演くらいの気持ちで思ってるんですけど。でも普通に居酒屋でうろちょろするよりは、現場でうろちょろしながらカチンコ打った方が、僕は楽しいかも、と思っていて。わかんないですね、本当。パワハラが酷い現場だったらしんどいし。
——もしかしたらはびこってるかもしれないですね‥‥
釜口 そうですね、だから募集もしてるんだろうし。
——じゃあ今は、とにかく出演したいんですね。
釜口 なんか大袈裟な演技好きだから、変なリアクションとかとったりしたいし。ずっとやったら飽きるかもしれないけど。
——週1とかだったらいいかもしれない。
釜口 ほんと、バーンとか撃たれて、「なんじゃこりゃあ!」みたいな芝居が楽しそうだなって(笑)。まあでも、他‥‥他の候補はまだ考えてないです。
——Vシネだけ?(笑)
釜口 Vシネだけです(笑)。でも、夏とかの泊まり込みとかも行きたいですね。沖縄とか。もうなんか、人生を楽しみたいっていう気持ちが強いですね(笑)。気分転換がしたいんですかね。
——わかる。知人が、昔劇団でドイツとかで芝居を打ってたんですけど。やっぱりうらやましい!って思いますね。当人に聞いたら、「そんな、公演で行くからゆっくりできないですよー」とか言われるんですけど。
釜口 うわあ、行きてえー!いいなあ。絶対楽しいですよね。もう、国内でもいい。ツアー公演したい。
——そうなると、劇団になっちゃうんですかね。あ、でも昔一人芝居フェスで国内回るっていう企画があったんですよ。
釜口 あ、いいですねそれ。そっか、一人芝居でその道があるんだったら希望がありますね。やりたくなってきたな。
——演出家を捕まえて今のうちに作っておくのはアリかもしれないですね。まあ演出家を捕まえるのも大変だから、自分でやれるのがいいのか‥‥?
釜口 DIYかー(笑)
——結局いつもその結論になってしまう!
釜口 本当今、TA業でバタバタしてるんですけど。終わったら、作ります!(笑)
——おお!
釜口 作ります!3月以降、作ります!宣言しよう。
釜口恵太(Kamaguchi Keita)
2020/12/11 インタビュー・構成:浅田麻衣